素朴な中にも多様な技法~岡崎市美術博物館「藤井達吉の全貌-野に咲く工芸 宙を見る絵画」展

近代工芸の先駆者である藤井達吉(1881〜1964)。大正時代から昭和初期にかけて工芸の近代化を目指し、多彩な創作活動を展開してきた彼の業績が、近年見直されるようになってきました。郷土工芸・郷土美術の再興に尽力したというだけでなく、東京を拠点とした時期の先駆的な活動に対し評価が高まっているのです。岡崎市美術博物館では、「藤井達吉の全貌-野に咲く工芸 宙(そら)を見る絵画」展を6月1日(日)まで開催。多様な技法を駆使して制作された工芸作品のほか、初期の油彩画、日本画、そして後年の継色紙、図案集、装幀など、藤井達吉の全貌を紹介しています。

 

麻や絹に刺繍を施した、かわいらしい札入・小袋・半衿。札入はブックカバーに転用できそう(1913-23年、個人蔵)

 

「秋の山書棚」(1920年、岡崎市美術館蔵)。七宝や革、金泥(金粉をにかわで溶いた顔料)を使用、内側も着色されている

 

まずは、藤井達吉の経歴について簡単にふれておきましょう。藤井は、愛知県碧海郡棚尾村(現在の碧南市棚尾地区)で生まれました。小学校卒業後、知多郡の木綿問屋へ奉公に出て、朝鮮で砂金を金塊に鋳造する仕事などをします。帰国後、美術学校への進学を希望するものの叶わず、今度は名古屋の服部七宝店に入社。ここで、七宝はもちろんのこと、陶磁器や日本古来の美術についての技術と知識を得たのでした。同時に、渡米して数々の美術作品にふれる機会もあり、それらがその後に進む道に大きな影響を与えたと言われています。藤井は帰国すると七宝店を退職して上京、美術工芸家としての活動をスタートさせました。

 

東京では多くの工芸家や画家、彫刻家らと親しく交流しながら、旺盛な創作活動を展開しています。その活動は七宝、染色、木工、陶芸、手漉き和紙と非常に広範囲でした。すべては独学。それゆえ既成の枠にとらわれない自由さがあり、斬新な作品を生み出すことに成功しました。特筆すべきは、図案から仕上げまでを複数の職人で分業するという、これまで当たり前であった制作の仕方をやめ、作家1人の手に統合させたことでしょう。「作品は作家のものである」と考え、工芸と絵画などとの融合を模索し続けました。何でもやってしまおう、という大胆さ。実際、作品を見ると、一つひとつにさまざまな技法が駆使されているのが分かります。

 

「鷹狩図手筥」(1916年頃、碧南商工会議所蔵)

 

     「椿文時計箱」(1913-23年、個人蔵)

 

また、面白いのは、作品に刺繍までも取り入れているところです。帯や着物といった身の回り品だけでなく、大きな屏風などにも丁寧に刺繍が施されています。姉妹らの協力もあったようですが、大正時代には雑誌『主婦の友』に手芸制作法の執筆を始め、「家庭手芸品展覧会」(主婦の友社主催)を開設、審査にあたるなどしていました。「生活の芸術化」を目指し、素人である主婦の啓蒙に広く尽力したことも、大きな功績の一つと言われています。

 

「七宝動物草花文小箱」(大正初期、碧南市藤井達吉現代美術館蔵)

 

「大島風物図屏風(左隻)」(1916年、碧南商工会議所蔵)

 

後半生は、転居を繰り返しながらも愛知県で過ごし、郷里での後進の育成に励みました。ここではより一層、生活に身近な工芸に力を入れており、小原(現在の豊田市)で和紙工芸の指導していたほか、瀬戸の陶芸の発展にも寄与しています。多くの地元の人たちに敬愛され、また藤井自身も気さくに接していたようで「野菜を持って来た人にお礼として、さらりと水墨を描いてあげていた」といったエピソードも残っています。

 

散歩や花見客など老若男女が訪れ市民憩いの場になっている美術館前の西大畑公園。美術鑑賞の後に寄ってのんび 「草木図屏風」(1916年頃、東京国立近代美術館蔵)

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植物をモチーフとした数々の図案。『創作染織図案集』として、50枚セット・50部刊行された(1933年、岡崎市美術館蔵)

 

本展では、東京時代の作品がメインに展示されています。手箱、盆、帯、着物、図案集、装幀、そして日本画と、まさに多様。どれも素朴でありながら、力強い個性を感じさせます。アップリケや刺繍を施した「大島風物図屏風」や、螺鈿(らでん)、七宝、鉛を用いた「草木図屏風」など、この時代の代表作とも言える作品を、ぜひ間近でじっくりと鑑賞してみてください。また、陶芸や和紙など晩年の作品を通して藤井達吉を知っているという方は、東京時代との違いも見どころの一つです。藤井の作品には植物をモチーフにしたものが多くを占めていますが、晩年は小さな草花を慈しんで描いている印象が強く、全体に侘び寂びのイメージが漂っています。それに比べ、東京時代の作品は大胆で、力強さを感じることでしょう。「これまで知っていた作品と全く違う。観に来て良かった」と感想を述べられるお客さんもいるそうです。

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「草花図」(1935年、碧南市藤井達吉現代美術館蔵)。藤井の後援者が、自邸の茶室の天井画として描かせたもの

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傾斜地を生かした半埋没形式の建物。ガラス張りが美しく、エントランスは光に満ちている

 

3ヘクタールの広域公園、岡崎中央総合公園の一角にあります。敷地内は文化ゾーン、スポーツゾーン、家族ゾーン、自然ゾーンに区分され、さまざま施設が利用可能です。のんびり散策も楽しめるので、この季節、ぜひお訪ねください。

 

インフォメーション

岡崎中央総合公園の一角に位置する岡崎市美術博物館は、マインドスケープ・ミュージアム(美術を通して心に触れる鑑賞空間)をコンセプトとし、1996年7月に開館しました。岡崎市出身である徳川家康の生きた時代に関する資料をはじめ、バロック絵画からシュルレアリスム、現代美術まで「心」を伝える美術品や歴史資料を幅広くコレクション。これらの収蔵品を中心に展示するテーマ展や企画展など、年間約6回の展覧会を開催しています。

 

●アクセス

岡崎市高隆寺町峠1(岡崎中央総合公園内)
TEL 0564-28-5000
名鉄「東岡崎駅」よりバス「中央総合公園行」にて、「美術博物館前」下車
 *土・日・祝日は「おかざきエクスプレス(岡崎拠点快速バス)」も利用可

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.city.okazaki.aichi.jp/museum/