「新潟市美術館」で、洲之内徹の目と精神を通して知る近代美術史

美術収集家、「現代画廊」の画廊主、三度も芥川賞候補にあがった文学者でもある洲之内徹(すのうちとおる、1913-1987)。雑誌「芸術新潮」に14年間にわたり美術エッセイ「きまぐれ美術館」を連載していたことでも知られる、美術ファンの間では有名な人物です。その洲之内徹の世界を満喫できる企画展『洲之内徹と現代画廊 昭和を生きた目と精神』を、新潟市美術館で6月8日まで開催しています。

 

美術とともに建物も鑑賞したい、新潟市出身の前川國男が設計した新潟市美術館

 

企画展『洲之内徹と現代画廊 昭和を生きた目と精神』展示室

 

洲之内が最後まで手元に置いていた美術品の数々は、「洲之内コレクション」として宮城県美術館に収蔵されています。生誕100年を記念して2013年に宮城県美術館からはじまった今企画展は、洲之内の生まれ故郷である愛媛県の県美術館と町立久万美術館を巡回し、洲之内が晩年たびたび訪れた新潟が最後の開催地です。東京・大阪・名古屋などの大都市には巡回せず、あくまで洲之内と縁のある地で見てもらうことに意味があるとして、地方開催のみにこだわった企画展。洲之内コレクションだけでなく、全国に所蔵される洲之内ゆかりの品々を見られる、最後のチャンスです。

 

企画展示作品の中から、洲之内が愛してやまなかった作品を数点紹介しましょう。
佐藤哲三の『みぞれ』は、新潟県の新発田(しばた)市に広がる蒲原(かんばら)平野が描かれています。北国の晴れ間の少ないどんよりとした空の下、貧しさ、寒さに耐えながら生きている農家の人々が家路へと急いでいるかのような風景は、決して重く暗いだけのものではなく、赤い夕焼けがその先に待っている家庭の温かさを感じさせ、心象にぐっと迫る作品です。
洲之内は1969年の佐藤の遺作展準備をきっかけに新潟を訪れ、出湯温泉の石水亭でこの絵と出合いました。洲之内自身も蒲原平野に魅了されてその風景を何度も撮影しました。企画展では洲之内が撮影した蒲原平野の写真も展示されています。
「五十代の終わりころから六十代にかけての十年余り、私の身の上に起ったことのすべての背景には新潟がある」と洲之内は遺していますが、1969年以降たびたび新潟を訪れ石水亭を定宿にして、新潟ゆかりの作家と交流し、現代画廊の展覧会や美術エッセイで取り上げました。

 

佐藤哲三『みぞれ』1953年、神奈川県立近代美術館寄託

 

木下晋『やすらぎ(洲之内徹像)』1988年、個人蔵

 

木下晋の『やすらぎ(洲之内徹像)』は、洲之内が亡くなった翌年に制作された作品です。生前の姿を描いた作家もいますが、洲之内は木下の依頼は断ったといいます。この作品を見ると、洲之内がなぜ断ったのか分かる気がするほど、シワやシミの一つひとつまで包み隠さずリアルに描かれています。
最初は油彩画を描いていた木下ですが、洲之内との出会いを通して画風が変わり、9Hから9Bまで20段階もの鉛筆の濃淡を駆使して克明な写実で人物を描くようになりました。お世話になった洲之内を偲び、やすらかな顔を描いた同作品は、今にも目を開きそうに思えるほど立体感を帯びています。

 

海老原喜之助『ポアソニエール』1934年、宮城県美術館蔵

 

ガーベラに詳企画展にあわせ、洲之内が佇んでいそうな画廊風に設えられた常設展

 

海老原喜之助の『ポアソニエール』は、左翼運動で検挙された洲之内が、送られた中国で対共産党工作の任務を遂行していたときにこの絵の複製画をたまたま見て心を慰められたという作品です。帰国後、偶然にも本物を目にする機会を得た洲之内は、どうしても手に入れたくなり、絵の所有者に3年間ラブコールを送り続けた末に譲り受けたという後日談もあります。こうした経緯から、洲之内がもっとも思い入れのある作品として、新潟市美術館では『ポアソニエール』を今企画展のメーンに掲げています。
新潟の町を歩いていると、新潟市内の美術館で行われる企画展ポスターを頻繁に目にします。道すがらの掲示板はもちろんのこと小さな商店の軒先にまで掲示されていて、「新潟はアートの町だったのか!?」と驚くほど。その中でもひときわ目を引くのが、この『ポアソニエール』を前面に押し出した新潟市美術館のポスターです。

 

散歩や花見客など老若男女が訪れ市民憩いの場になっている美術館前の西大畑公園。美術鑑賞の後に寄ってのんびり過ごしたくなる空間です

 

企画展に惹かれて美術館に行くと、それだけ見てお終いにして常設展までは見ない人も多いでしょう。特に今企画展は、56作家・約190作品と展示品も多いため、それだけで満腹になってしまいます。
しかし、ぜひ常設展にも足を運んでください。『気まぐれ拾遺(しゅうい)』と題して、企画展と連動させた展示を行い、新潟市美術館のコレクションから関連する作品を「洲之内的な」視点で紹介しています。画廊主だった洲之内は熱烈な「絵好き」であり、彼のまなざしを通して見る絵は、どれもしみじみと一人でじっと見つめたくなる濃密さがあります。洲之内が絵の前で佇んでいそうな雰囲気と空間を照明を工夫して創り出した常設展示会場で、企画展示では紹介しきれなかった作品とゆっくり対峙してみてください。思いがけない出合いが待っているかもしれませんよ。

 

インフォメーション

新潟市美術館は、主に新潟県出身者、県ゆかりの作家・作品の企画展を年に4~5本開催しています。隣接する西大畑公園とともに旧新潟刑務所の跡地を再開発して整備され、美術館は1985年10月に開館しました。

 

●アクセス

新潟市中央区西大畑町5191-9
TEL 025-223-1622
JR新潟駅万代口からバス
・美術館線「新潟市美術館前」下車すぐ 他

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.ncam.jp/