進化し続ける鎌倉彫の歴史がわかる「鎌倉彫資料館」

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約800年の歴史を有する、伝統工芸品「鎌倉彫」。鎌倉観光に行ったなら、寺社めぐりも良いですが、鎌倉彫について少し学んでみませんか。鎌倉駅から鶴岡八幡宮へ向かう途中、二の鳥居のそばに鎌倉彫資料館はあります。

 

鶴岡八幡宮の二の鳥居のそばという好立地にある「鎌倉彫資料館」

 

展示スペースは広くないものの、1点1点じっくり見るのには丁度良く感じます

 

1192年に源頼朝が鎌倉幕府を開きましたが、それから少し時を経た13世紀半ばに、宋から臨済禅宗が入ってきました。同時に宋からは絵画、磁器など美術工芸品も日本に伝来し、その中に、木に漆を何十回も塗り重ねて、精巧な文様を彫刻した「彫漆品(ちょうしつひん)」がありました。これはとても高価だったため、日本の仏師たちが工夫し、木に同じような彫刻をして漆を塗った仏具をつくるようになったのが、鎌倉彫のはじまりと考えられています。

 

資料館所蔵で最古の作品が、室町時代につくられたとされる仏具、『屈輪文三足卓(ぐりもんさんそくしょく)』です。足の形状とアラベスクのような文様から、宋の影響を受けてつくられたこの時代の特徴をみることができます、と学芸員の田村沙理さんが教えてくれました。

 

彫りや塗りの細かな工程を見ると、鎌倉彫が高価なことにも納得

 

屈輪文三足卓

 

数ある展示作品の中でもいちばん目を引くのが、室町時代から桃山時代にかけてつくられた、大きな『椿文笈(つばきもんおい)』です。一見したところ洒落た小さなタンスのようですが、聞きなれない「笈(おい)」とは、修験者が法具や衣類などを入れて背負って歩いていた木製の箱のことです。田村さんによると、椿などの豪華な装飾がされている側が背中にあたる方なので、背負うと周囲にはほとんど見えなくなってしまうそうです。また、笈はさまざまな種類があるものの、鎌倉彫の笈はなぜ椿の文様なのか、何か儀式の時だけ使用されたのかなどなど、明らかになっていないことが多いそうです。謎に包まれた、鎌倉彫の豪華な笈。そうしたところに、また違った魅力が感じられます。

 

            椿文笈

 

      茄子玉菓子入振出し/三橋了和作

 

このように室町時代までは仏具がほとんどで、鎌倉彫を目にする人は限られていましたが、江戸時代になって茶道が普及すると、茶入や香合などの茶道具もつくられるようになり、少しずつ人々の間で鎌倉彫が知られるようになりました。
順調かと思われた鎌倉彫の歩みに転機が訪れたのは、明治時代のことです。神仏分離令が公布され、続いて起きた廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の運動によって仏師たちは仕事を失ってしまい、大勢いた仏師たちも、三橋家と後藤家を残すのみになりました。
本来の仏像制作が立ち行かなくなったそのとき、両家は生き残りをかけて、日々の暮らしで使用する工芸品をつくりはじめました。鎌倉彫と聞いた時に真っ先にイメージする、お盆などつくられだしたのもこの頃です。ずいぶん前にどこからか頂いて、いつのまにか鎌倉彫のお盆が家にあるわ…という家庭も多いのではないでしょうか。明治時代に贈答品として流行したことがあり、それが昭和になってからも少なからず続いていたようです。

 

現在は分業が整い、基本的には木地師、彫師、塗師の3工程で鎌倉彫の製品はつくられていますが、以前は一人の仏師が全工程を手がけていました。そのため、製品には並々ならない自信とプライドを持っていたことでしょう。100年間は壊れないという保証書が付けられていたこともありました。
すべて手づくりなので手にしたとき優しくなじみ、長く使えば使うほどいいツヤが出てそれが味わいになる鎌倉彫。まさに一生モノです。

 

現代の鎌倉彫作家による作品。模様も色も自由な発想でつくられている、まさに美術品です

 

館内の作品は時代別に展示されていますが、いちばん最後に展示されている現代の作品を見ながら、田村さんが鎌倉彫のトレンドについて教えてくれました。
昭和・平成になると、普段使いする日常品のほかに、空間を演出する美術品としての鎌倉彫製品や作品がつくられるようになったそうです。しかも、私たちがよく知っているのは朱色ですが、昭和以降は化学顔料の発達により、グリーン、イエロー、オレンジなどの鎌倉彫製品もあるとか。それだけでも驚きですが、この数年のトレンドはメタリックな雰囲気のものだそうです。シルバーなどの金属の粉を撒いて装飾することで、木製品なのに金属製品のようにも見えるメタリックな雰囲気になります。私たちが知っている朱色の鎌倉彫ももちろんありますが、一方では、新たな取り組みが行われているのです。
「伝統工芸といえども、同じことをし続けているのでは淘汰されます。技術をしっかり継承しながら、トレンドも取り入れてやってきたからこそ、鎌倉彫はこうして残ってこられたのだと思います」と田村さん。

 

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インフォメーション

鎌倉彫資料館は、1977年に鎌倉彫研究、普及の場として開館し、2005年に鎌倉彫会館1階により充実して移設されました。室町時代から現代までの鎌倉彫の名品および資料約2000点を所蔵し、そのうち約100点の展示をしているほか、鎌倉彫の歴史や製作工程などをまとめたビデオ上映のほか、体験教室(要事前予約)も行っています。

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●アクセス

神奈川県鎌倉市小町2-15-13鎌倉彫会館1F
TEL 0467-25-1502
JR横須賀線、江ノ島電鉄「鎌倉駅」より徒歩5分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.kamakuraborikaikan.jp/

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