女の幸せ、鏡王女の生涯「談山神社」

談山(たんざん)神社の歴史は古く、その起こりの端緒はおよそ飛鳥時代にまでさかのぼります。時の趨勢は、大和朝廷において軍事部門を掌握していた物部氏、またその物部氏を滅ぼし後には穴穂部皇子(あなほべのみこ)や山背大兄王も討ち倒した蘇我氏など強力な権力を手にした有力な豪族が国の政治をほしいままにしていました。とりわけ蘇我氏四代(稲目、馬子、蝦夷、入鹿)の専横に常より憤りを感じていた中臣鎌子(後の藤原鎌足)はどうにかして皇室へ権力を取り戻すことは出来ないかと一計を案じ、皇極天皇4年(645年)飛鳥法興寺で行われた蹴鞠絵にて当時有力な王位継承者と目されていた中大兄皇子(後の天智天皇)に近づきます。接触に成功し、その志に深く共鳴した二人は、やがて多武峯(とうのみね)の山中に登り、極秘で蘇我氏打倒の計画を練ります。
そして同年6月12日には早くも飛鳥板蓋宮(いたぶきのみや)にて蘇我入鹿を暗殺することに成功(乙巳の変)、程なく大化の改新と呼ばれる一大政治改革が断行され、公地公民、班田収授、租調庸の税制など新たな制度が整備されるとともに政治の中心が豪族から天皇中心の政治へ移り変わったことで、日本は強力で統一的な中央集権国家の道を歩んでいくことになりました。ちなみに多武峯はその後、談い山(かたらいやま)や談所が森などと称され「大化の改新談合の地」として伝承される他、談山神社社号の由来としても知られています。

 

国の政治の在り方をがらりと変えてしまうほどの手腕と行動力を兼ね備えた藤原鎌足ですが、実は色恋方面においても並ならぬ行動力を示していたようですね。王族の娘として生を受けた鏡王女(かがみのおおきみ)は成長した後に天智天皇の妃として宮中に入ります。
しかし女性関係の盛んであった天皇の周囲には常に多くの妃が集まり、複雑な宮中の関係性も相まって鏡王女は次第に消耗し、孤立心を深めていきました。そんな彼女の心の空白にスっとさりげなく入ってきたのが藤原鎌足でした。元々鏡王女に初めて会った瞬間から心魅かれていたようですが、しかし天智天皇の妃ということで少し臆するところはあったのでしょう。だが想いは止められず、アプローチを続け、旧知な仲の天智天皇もそれを察してか、鏡王女を鎌足に与えました。天智天皇には愛されなかった鏡女王ですが、鎌足の正妃に迎えられて以後は丁重に扱われ、子も出来て(藤原不比等)、そこに安息を感じた鏡王女は死ぬその時まで女性として幸せな一生を送ったと伝えられています。

 

「神奈備の 石瀬の社の呼子鳥 いたくな鳴きそ 我が恋まさる」
鎌足の死後、鏡女王が詠んだ歌ですが鎌足に寄せる彼女の深い愛と感謝の念が伝わってきませんか。

 

さて、談山神社には鏡王女を祀った摂社の東殿が建っています。通称「恋神社」とも称され、参れば恋愛、結婚の縁結びに特別なご利益を授けてくれる他、広く人間関係を円滑に結んでくれる力があるともされています。手を打ち頭を下げ一心に真心込めて願えばきっと鏡女王の幸せな恋のご加護にあやかれることでしょう。
またその脇には「むすびの磐座(いわくら)」と呼ばれる太い注連縄を結んだ大きな岩が鎮座しています。神が宿るとされる磐座に手を触れ、一心に念じれば願いが叶うようですが、
界隈にはもう一つ、拝殿下の鳥居から恋神社へ伸びた「恋の道」と呼ばれる特別な参道があります。この参道を一歩一歩噛みしめるように歩き、磐座を撫でた上、恋神社へ礼拝すれば参鏡女王にも気付いてもらえ、いっそう願いが通りやすくなるかもしれませんね。

 

鳥居

 

恋の道。距離にしておよそ100メートル程です

 

東殿(恋神社)

 

結びの磐座。前身である妙楽寺の講堂を建てる時に発見された光る石を祀っています

 

やや勾配のある恋の道を下って行き、角を右に折れ、石段を少し上がっていくと向かって右手に藤原鎌足を祀った大宝元年(701)創建の本殿楼門が見えてきます。
本殿全体の色彩は極彩色で造りは三間社隅入春日造、至る所花鳥の彫刻で装飾されていて、総じて絢爛豪華な印象、その佇まいはあの日光東照宮造営の見本となったほどの伽藍美ですので参詣に来た折は是非ご覧になってくださいね。

 

そして左手に見えるのは藤原鎌足追悼のため定慧(じょうえ)と不比等によって天武天皇7年(678)に建立された十三重塔。高さおよそ17メートル、木造十三重塔としては世界唯一のものとされているのに加えて、塔の完成をもって談山神社の発祥とされているためか十三重塔はいつ眺めても神社のシンボルタワーとして威風堂々たる姿を示しています。

 

楼門

 

十三重塔。現在の塔は享禄5年(1532)の再建で唐の清涼山宝池院の塔を模して建てられました

 

その絶景ポイントとしては中大兄皇子と藤原鎌足が出会ったけまりの庭からの眺めが素晴らしい。神廟拝所と十三重塔がバランスよく配置され、背景を飾る繁る緑も、燃える紅葉盛りの季節に赴けば、「関西の日光」とも称される見目鮮やかな景観を眺めることが出来るでしょう。

 

けまりの庭からの眺め。右手に神廟拝所、奥に見えるのが十三重塔。木々は季節の色に染まります

 

磐座と龍神社。大陸からの龍神信仰が日本の水神と習合し龍神社と呼ばれるようになりました

 

アクセス

奈良県桜井市多武峰319
TEL 0744-49-0001
近鉄大阪線・JR桜井線 桜井駅より談山神社行(または多武峰行)バスにて「談山神社」下車、徒歩3分
詳しくは、下記公式サイトをご覧ください。
http://www.tanzan.or.jp/index.html