日本最大の禅寺「妙心寺」

御室仁和寺から歩いて10分ほどの地にある妙心寺。その寺地全域とその周辺一帯は古来より「花園」と呼ばれ、その名はかつてこの地に花咲き誇る貴族たちの別荘群があったことに由来しています。

 

鎌倉時代にあっても花園法王がこの地に離宮の花園御所を構え、目に彩な花と緑をこよなく愛しました。同時に深く帰依した禅の奥義を究めるべく、御所を禅寺に改めることを発願、禅の師である宗峰妙超(しゅうほうみょうちょう)の推挙で美濃より関山慧玄(かんざんえげん)が招かれると、康永元年(1342年)には寺号を妙心寺とし、のち開山の運びとなりました。当初でこそ、法王の個人的な禅探求を機とする小さな寺でしかありませんでした。
しかし時代を経るごとに規模は拡大され、最盛期にあっては80以上もの搭頭が境内に建ち並んでいたと言われています。中途戦火で憂き目にあいはしたものの、現在でも46の一大伽藍が寺地に並ぶ他、世界各国に3400ヶ所以上の末寺を持ち、在籍僧数もおよそ7000人を数えるなど臨済宗の大本山である妙心寺の勢いは今なおとどまることを知りません。

 

実際、境内には重厚でどっしりとした歴史ある寺院建築が目に入ってきます。しかし不思議とぴりぴりとした圧力を発しないのは一方で十万坪、三十三万平方メートルの広大な境内全域が外の街並みに溶け込むように存在しているからかもしれません。
誰でも自由に寺地を抜けられることから、石畳の参道を自転車で颯爽と走り抜ける女性がいたかと思えば、スーツに身を包んだサラリーマンが足早に出口へ向かう、更にはランドセルを背負った子供たちが談笑しながらゆっくり参道を歩き抜けていく姿など諸々見ると実感としては寺にいるのに町の中、さながら日常の暮らしの只中を歩いている気すらしてきます。

 

北総門から膨大な数の伽藍を横目に15分、ようやく南総門が現れた頃、三門の横手に目的の退蔵院(たいぞういん)が見えてきます。退蔵院は応永11年(1404年)に波多野重通(はたのしげみち)が千本通松原に創建した建築物で、その後日峰宗舜(にっぽうそうしゅん)の手により妙心寺に移されました。「退蔵」という言葉には、価値あるものをしまっておくという意があるように、陰徳(人に知られないようにして良い行いをする)を積み重ね、それを口に出していうのではなく、内に秘めながら教えを広めていく、ということを示しています。

 

北総門

 

退蔵院

 

実際この退蔵院、妙心寺46の伽藍を構成する一つの寺でありながら、その境内はとても広く、外の土塀からは決して伺い知ることの出来ない絵画、遺構、建築物や目もくらむばかりの庭園が中の境内に彩りを与えているのです。

 

拝観受付を済ませ庫裡の脇を進んでいくと1597年再建の方丈が見えてきます。禅と剣の道には共通の精神性があるとし、かの剣豪宮本武蔵もこの場で修業したのは有名な話。また方丈の前には室町期の画聖狩野元信が作庭した美しい枯山水の庭園が広がり、石組と白砂のグラデーションに背景の常緑樹もあいまって観念的な禅の世界が巧みに表現されているのが見て取れます。

 

元信の庭。一年中変わらない不変の美を求めた庭だとされています

 

さらに道なりに歩を進めると、とある一角に紅しだれ桜が視界をさえぎるようにその葉を落としていました。左右に目をやれば陰陽の庭があり、石組は陰の庭に8つ、陽の庭に7つ、そしてよくよく目を凝らすとその下に敷かれた砂の色が陰と陽でにわかに異なり、これは物事や人の心の二面性を色で現しているのだそうです。

 

陰の庭

 

陽の庭

 

しだれ桜の暖簾を抜けて、つくばいと水琴窟(すいきんくつ)を目の端に留めながらなおも進んでいくと、退蔵院の境内最も奥深い位置にまことに雅な昭和の庭園余香苑(ようこうえん)が広がりを見せていました。他の庭ももちろん素晴らしかったのですが、こちらの庭は比して規模も彩りも格別に優れた庭園であるかなという印象を受けました。せっかくですからまちあいに腰を落としてしばらく眺望、景観眼前にはひょうたん池が配され、そのせせらぎとシンとした大気に鹿威しの音がクリアに響けば、楓や桜が風に華やぐ様や、モミジの紅く染まった晩秋の絶景に息をのんで眺める人々の光景がありありと思い起こされるようでした。

 

余香苑。造園家の中根金作による設計、昭和40年に完成されました

 

妙心寺はとにかく広大です。境内全てを拝観するだけも相当な時間を要し、立ち並ぶ46の伽藍(一般公開されているのは退蔵院と大心院と桂春院)をあますことなく外からだけでもその目に留めようと思うなら相応の準備は必須です。その上でここでは紹介することの出来なかった三門から真っ直ぐ伸びる仏殿、法堂、大方丈の威光のみならず、桂春院(けいしゅんいん)の庭園に大心院の五葉松とキリシマツツジなどもぜひとも観賞して欲しい景観です。

 

三門。三門には空・無相・無作という、禅の境地による解脱の意味が託されています

 

仏殿。妙心寺の本堂、内部にはお釈迦さまが祀られています

 

法堂。中では住持による法座や坐禅が行われています

 

参道

 

アクセス

京都府京都市右京区花園妙心寺町64
TEL 075-463-3121
京福電鉄北野線「妙心寺駅」下車
JR嵯峨野線(山陰本線)花園駅下車
詳しくは、下記公式サイトをご覧ください。
http://www.myoshinji.or.jp/index.html