高麗犬(こまいぬ)を回して願懸けをする「湊稲荷神社」

1716年の創建とされる新潟市にある湊稲荷神社は、願懸けの手法が珍しいことで知られる神社です。
静かな住宅街にあり木々に囲まれた湊稲荷神社には、鳥居をくぐると左右に一対の「願懸(がんか)け高麗犬(こまいぬ)」があります。新潟市指定第一号有形民俗文化財にもなっているこの高麗犬には仕掛けがあり、台座を回せるようになっています。高麗犬は石造(花崗岩)で、円形の台座に穴をあけ軸を差し込んで固定していて、台座と像の間に0.5mmほどの“あそび”があるため、像が回転するようになっています。願いごとを心に念じながら、男の人は向かって右、女の人は左の高麗犬を回すと、願いが叶うといわれています。

 

新潟市にある願懸けスポット「湊稲荷神社」

 

鳥居と鳥居の間には立派なトネリコの木があり、それもくぐると拝殿に着く

 

回すために女性が数人並んでいた、願懸けの高麗犬

 

男の人が回しても重そうな高麗犬

 

なぜこのような変わった願懸けが行われるようになったのでしょうか。それには、海に面する新潟ならではの歴史が関係しています。
湊稲荷神社は現在も海運・漁業関係者から信仰を集めていますが、湊がにぎわっていた昔、湊に入ってくる船はこの神社の森を目当てに船を進めていたそうです。湊に船が着くと、船乗りたちは花柳街に遊びにやって来ます。そして遊女たちと楽しい時間を過ごし、船乗りたちはまた船へと戻っていくのです。遊女たちの願いは、できることなら毎晩、船乗りたちに遊びに来てもらうこと。しかし、船が出帆すると同時に彼らはいなくなってしまいます。そこで、遊女たちはどうすれば船乗りたちを足止めできるか考えました。
西風が吹いて出帆できなければ、新潟に長く滞在してもらえます。別れを惜しんで、夜中、遊女たちは油揚げを持って湊神社に参拝に出掛けました。高麗犬を回してその頭を西の方に向け、西風が吹いて港口が荒れ、海がしけて出帆できなくなるように、船乗りたちがまた遊びに来てくれるようにと願ったのです。商売のためだけとは思えない切実なこの願懸け。もしかすると遊女が船乗りに恋心を抱いていて、それも少なからず関係していたのかもしれません。

 

遊女たちによるこの“荒天祈願”が高麗犬を回して願懸けをするという習俗に変化して伝わっていますが、現在、円形の台座に座っている高麗犬は、その昔遊女たちが回した高麗犬ではなく、1995(平成7)年に代替わりした高麗犬です。1854(嘉永7)年の銘がある先代の高麗犬は、雨風をしのぐ屋根のある拝殿の前に大事に安置されています。約140年も風雨にさらされ、願懸けのため大勢の人から何度となく回され続けたため損傷が激しく、貴重な文化財として保存するため引退することとなったのです。

 

拝殿の前に安置されている先代の高麗犬

 

足を麻ひもでぐるぐる巻きにされていても、笑い顔のキツネ様

 

湊稲荷神社には、高麗犬のほかにも願掛けスポットがあります。境内にある、足を麻ひもでぐるぐる巻きにされたキツネ様がそれです。願いごとを心に念じながら、麻ひもでキツネ様の足を結ぶのです。
高麗犬とキツネ様、どちらも変わった願懸けですが、注意したいのが、“回す”“結ぶ”行為に必死にならないことです。特に高麗犬は日によって異なるのか、願いごとによって異なるのか、「今日は重い!」と言いながら回している女性もいました。想像よりも重いので、ついつい回すことに夢中になってしまいます。参拝に訪れた際は、高麗犬とキツネ様にしっかり向き合い、叶えたいことを心に強く願ってくださいね。

 

高麗犬が描かれている手ぬぐい、各種お守り、キツネ様に結ぶ麻ひもが並んでいる

 

アクセス

新潟市中央区稲荷町3482
TEL 025-222-6549
JR新潟駅よりバス「歴史博物館前」下車、徒歩3分