新義真言宗の総本山「根来寺」

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根来寺の創建は大治元年(1126)、空海以来の学僧と言われた覚鑁(かくばん)上人がこの地に神宮寺を建てたことをその端緒としています。およそ36万坪にも及ぶ境内は巨大な堂塔が立ち並び、場所が葛城連峰の中腹に位置しているためか、峰より3つの谷(菩提、大谷、蓮華)が流れ、そこを端とする根来川が緑豊かな境内を静かに貫流しています。時節には川辺で華やぐ桜や紅葉がとても雅に映るでしょう。

 

参道

 

そんな季節に応じた顔を魅せる根来寺ですが、元々は高野山に建てられていました。そのゆえは開基である覚鑁が高野山の僧で、真言密教を正しく伝えるべしとの想いにかられていた由、またその想いは同時に根来寺の波乱万丈な歴史の幕開けを意味するものともなりました。

 

13歳で京都は仁和寺の寛助に従い得度した覚鑁は仏教を学んだ後、20歳で高野山に登り、そこに建てた学問探究の場となる伝法院を中心に真言密教の復興に力を注いでいました。その功が認められたか、やがて鳥羽上皇からの厚い庇護を受け、多くの荘園を下賜された覚鑁は長承3年(1134)にはついに金剛峯寺の座主の地位にまでのぼりつめました。

 

絶対的な権力を手にした覚鑁でしたが、一部の高野衆徒は彼の統治に不満を募らせていきます。そして保延6年(1140)、とうとう勃発した反対派の激しい焼き討ちによって双方の確執は決定的なものとなりました。あくまで教学新興を第一としていた覚鑁でしたから一触即発の空気の中、拠点を止む無く高野山から根来へと移す運びに。

 

康治2年(1143)に覚鑁が49歳の生涯を閉じた後、一部の衆徒は高野山へと戻ります。しかし正応元年(1288)には、覚鑁を慕う衆徒を頼瑜(らいゆ)が率いて再び根来へ移り、学びを深めた結果、覚鑁の悲願であった真言密教の新たな学派「新義真言宗」が根来の地で成立したのでした。

 

よって創建からおよそ900年の伝統を誇る根来寺は今でも新義真言宗の総本山の寺とされています。室町末期の最盛期には堂塔2700、寺領72万石にもおよび、真言宗三大学山の一つとして全国からその教えを学びに僧侶たちが当地へ訪れたそうです。またその頃には寺の一帯に根来衆と呼ばれる強力な軍事集団(僧兵)が警護を固め、一万余りの猛者が常時外からの攻撃に目を光らせていました。為政者の目には、まるで要塞のような一大宗教都市(ルイスフロイスは他にも熱狂的な宗教共和国として高野山、粉河寺、雑賀衆を例として挙げています)に映ったことでしょう。

 

実際、豊臣秀吉はこの思想の強固に築き上げられた根来寺に過剰な怖れを抱いていたといいます。そしてその恐れが征伐へと結びつくのにはそう時間はかかりませんでした。秀吉の紀州征伐において各地で激しい戦が勃発します。出陣した根来衆の鉄砲隊は戦国髄一とされていましたが、しかし手腕で上回る秀吉の知略に敗走を重ね、天正13年(1585年)の根来攻めにあっては、寺の境内幾つかの堂塔を残した他は全てが灰燼と化してしまいました。それほど秀吉の仕掛けた攻めが徹底したものであったということです。

 

なお根来寺の大塔の基部には今なおその折放たれた戦乱の弾痕がはっきりと見て取れます。実はこの大塔、激しい秀吉の根来攻めにあっても焼け残ったとてもパワフルな建物であり、幅15メートル、高さが40メートルの壮大な構えは日本最大の多宝塔と自負するに遜色はありません。加えて木造の大塔では日本で唯一塔の内に入ってお参り出来ることでもよく知られているようです。

 

大塔。明治32年に国宝に指定されました
 

大塔に残る弾痕跡

 

その右側に並んで建っている寺の本堂たる大伝法堂も、秀吉の激しい攻撃から焼け残った伽藍(一部焼失)。中には本尊の大日如来と、脇仏の金剛薩埵(こんごうさった)、尊勝仏頂(そんしょうぶっちょう)が横並びで祀られています。ちなみにこの3仏の組み合わせは非常に珍しく、とりわけ尊勝仏頂は彫像としては稀有の遺品とされているようですので、ぜひともその目で確認してみてください。

 

大伝法堂。真言宗の最も大切な修法を伝える道場だとされています

 

浄土池と聖天堂(右奥)。聖天堂正面の朱塗の壇は伝統的な「根来塗」によるものです

 

それでは最後に寺の屈指のパワースポットへ向かうことにしましょう。
大伝法堂から石段を下って、朱塗りの橋を渡り、まっすぐ参道を50メートル程進むと、左手の少し傾斜のある坂を登った先に不動堂が建っています。嘉永3年(1850)の建築で、「三国一のきりもみ不動」の呼び名を持つ不動尊を祀っていますが、興教大師が事故した折に身代わりとなって大師を守った言い伝えがあることから、現在は特に交通安全、厄除祈願のお堂として知られています。また堂の裏手には珍しくも北向きに据えられた北向不動明王像が安置されています。参れば悪縁を断ってくれるご利益があるようですので、表に参った後は忘れず裏にも回って手を合わせてみてくださいね。

 

本坊庭園。国から名勝として指定されています

 

不動堂。八角円堂の構えは県下でも遺存例の少ない造りになっています

 

不動堂裏側

 

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アクセス

和歌山県岩出市根来2286
TEL 0736-62-1144
JR阪和線「和泉砂川駅」又は「紀伊駅」下車 バス・タクシー利用
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.negoroji.org/index.html
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