恋の三社詣、満ちる氣生根のエネルギー「貴船神社」

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社伝によると、貴船神社の創建はおよそ1600年前、玉依姫命(たまよりひめのみこと)が黄色の船(神社の名の由来 黄船→貴船)に乗り、淀川、鴨川、貴船川を渡って当地へ上陸した後、水の力で国の繁栄をもたらすべく水神を祭ったことをその端緒としています。

 

事実本宮と奥宮に祀られた高龗神(たかおかみのかみ)は古来より水や雨を統べる龍神として信仰され、平安の頃には特に日照りの際、黒馬を奉じて雨を乞い、長雨の時には白馬を奉じて雨止みを願ったのだそう。

 

また貴船(きふね)とは万物のエネルギーが満ちる場所をいい、別称「氣生根(”氣”が”生”まれる”根”源)」とも称されるよう境内へ足を踏み入れるだけで何か生き抜く気力が自然とみなぎってくるよう。それゆえか古来より名だたる著名人がこの貴船の土地を訪れています。源義経は源氏再興を願い百日社へ籠り、徳川家光は疱瘡に罹患した際、病気平癒のために祓を行いました。また近年では彬子(あきこ)女王殿下が祈念のために貴船神社へ訪れたことでも一頃世間を賑わしましたね。

 

貴船神社へと足を運ぶ理由は様々でしょうが、取材に赴き、辺りを見渡したところ、特にカップルや連れだった女性が多いことに気づかされました。何か理由がありそうですね。ここでは本宮、奥宮、結社(ゆいのやしろ)の順に巡ってその謎を解いていくことにしましょう。

 

二の鳥居
 

本宮へ続く石段脇に並ぶ春日燈籠

 

朱塗りの灯篭の鮮やかに並ぶ石段をのぼっていくと、元の鎮座地であった奥宮から天喜三(1055)年に移築された本宮が見えてきます。その本殿は2007年に改築されたばかりのとても新しい造りですが、その脇に建てられた白い馬と黒い馬の彫刻が特に目をひきますでしょうか。

 

先に述べたよう貴船神社には祈雨、祈晴の風習がありました。歴代の天皇は生きた馬に替えて、馬形の板に色を塗った「板立馬」を奉納し祈念していました。その板立馬が現在の絵馬となり、いつの頃からか貴船神社は絵馬発祥の地として知られるようになりました。

 

絵馬発祥の端となった白馬と黒馬の彫像

 

その絵馬を結ぶ女性の列と混合するように、別の並びがとあるスポットの前に出来ていました。石垣よりこんこんと流れ滑る水の音、聞けばこの清水は今までに一度も枯れたことのない御神水なのだそう。また水浴することで病気が治るとされるフランスの「ルルドの泉」と非常に似た成分を含むことから、全国から多くの女性がこの水を汲みに訪れるといいます。また本宮の出口へ向かう途上の社務所では「結び文」を購入する女性が多く見受けられました。それを手にした足は杉並木をおよそ700メートル進んだ先にある奥宮へと向かいます。

 

石庭(本宮)。庭全体が船の形になっています。天津盤鏡(あまついわさか)をイメージして重森作玲によって作庭されました

 

本宮本殿

 

奥宮の本殿は貴船神社始まりの場所であり、玉依姫命が黄色い船で貴船川を渡り辿りついた地に建てられています。そのことから祀られる高龗神は、特に船乗りたちより「船玉神」として厚く信仰されてきた歴史をも併せ持ちます。

 

またその社殿の真下には龍穴と称する巨大な穴があいており、これは室生の龍穴、岡山備前の龍穴と並ぶ日本三大龍穴の一つとされていますが、何人も見ることは許されず、本殿の修理の折などは隣接する空地に殿を移動させ、穴は白布で覆って行われるようです。

 

本宮本殿

 

船形石(奥宮)。玉依姫命が乗ってこられた船を人目に触れないように、小石で積み囲んだもの

 

まさしく神秘のベールに包まれたパワースポット中のパワースポットですが、奥宮ではもう一つ連理の杉と称する神秘的な御神木が見られます。連理とは別々の木が重なって一つになる意で、貴船のそれは杉と楓が和合していてとても貴重なのだそう。夫婦、男女の仲睦まじさを象徴させ、その姿に大正13年、貞明皇后が「大変珍しい木だから大切に」との言葉を残されたことでも有名になりました。

 

・ものおもへば沢の蛍もわが身より
        あくがれいづる魂かとぞみる

 

夫との仲がうまくいかなくなった和泉式部は、訪れた貴船神社の川辺で光る蛍を眺めながら、その時の切ない心情を歌に託し恋を祈願しました。すると社殿よりその歌への返歌があり、程なくして夫婦の中は円満に戻ったそう。そのことから磐長姫命(いわながひめのみこと)を祀る結社は縁結びに特別なご利益のある社として知られるようになり、中世御伽草子に収録された「貴船の物語」も影響もあってか、貴船神社は「恋の宮」として呼び慕われるようにもなりました。

 

地域の伝統である八面大王を祀った結社本殿。本宮と奥宮の中間にあるため中宮 (なかみや)とも呼ばれています

 

本宮の石庭、奥宮の船形石に続き、結社の天の磐船も船の形をしています。祭神の磐長姫命が乗ってこられた船なのだそうです

 

この恋の宮で恋の成就を願う参詣者は本宮で受け取った結び文に願いを記載し、それを手にして本宮→奥宮→結社と順に巡ります(三社詣)。その後で、結社の結び処で結び文を結べば願いが叶うとされています。もちろんその効力は男女の縁のみではなく、就職、入学、仕事のあらゆる人と人との縁を強く結びつける力を持っています。そのゆえは境内に流れる「氣生根」のエネルギーが一つと、そのエネルギーで膨らみゆく三社詣の足運びのうちに自身の願を記した結び文にも常では考えられないようなパワーが充填されていくからなのでしょう。

 

和泉式部歌碑。和泉式部の歌への返歌が「おく山に たぎりて落つる 滝の瀬の 玉ちるばかり ものな思ひそ」

 

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アクセス

京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
TEL 075-741-2016
叡山電車 貴船口駅下車 徒歩30分、または京都バスに乗り換え貴船で下車徒歩5分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://kifunejinja.jp/index.html
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