インドの見事な針仕事を見られる「岩立フォークテキスタイルミュージアム」

0

東京・自由が丘にある岩立フォークテキスタイルミュージアムでは、「豊かなインドの針仕事~村の女性の縫い、刺繍、アップリケ~」展を12月21日まで開催しています。染織作家であり民族染織の研究家でもある岩立広子さんが館長を務める同館は、7000~8000点ものコレクションを有しています。それらは岩立さんが世界各国を訪れた際に出合い、収集してきたもので、収集してきた年月は40年以上にものぼります。
膨大なコレクションの中からインドの針仕事に焦点を当てた今回の展示は、経済発展が進むインドが、少し前まではいかに手仕事の宝庫だったかを知ることができる、また、次世代への大きなメッセージが感じられる展示になっています。

 

オシャレな街・自由が丘にある「岩立フォークテキスタイルミュージアム」

 

見応えのある展示物1点1点と向き合うにはちょうど良い広さの館内

 

国土の広いインドでは、織りが発達したところ、刺繍が発達したところなど、地域によってさまざまな文化が見られます。「針仕事が発達したのは遊牧民が多かった西側で、刺繍の傑出したものがたくさんある」と教えてくれた岩立館長。岩立館長が収集したのは、村の女性たちが婚礼や儀式のために日常的に作ってきたものだといいます。インドでは、婚礼の際に女性が多くの持参品を持っていくのが慣例で、大半が刺繍製品でした。それが1990年代以降インドは急速に近代化し、そうした文化も変化して持参品は金品に変わり、手仕事に代わり機械で作られた製品や化学染料を使用した製品が出回るようになりました。
同館で展示しているのは、そうした時代になる前の、伝統がしっかり村や人々の間に息づいていた20世紀前半のものばかり。天然の染料が使われ、描かれている文様にもすべて意味がある、その地域で受け継がれてきた伝統の手仕事製品です。

 

1つとして同じものがない刺繍製品の中でも特別な『カンタ』と、岩立館長

 

『カンタ』をよく見ると、地の白の部分までしっかり縫い込まれています

 

『カンタ』は、使い古した白い布を数枚重ねて刺子した、バングラデシュ、インド西ベンガル州(旧ベンガル州)ではどこの家庭でも作られていたものです。儀式のときなどに床に敷いたりするもので、家族の幸せや願いが込められた大切な布です。古いサリーのタテ糸を抜いたものを再利用して白い布に刺して、女性たちはコツコツと縫い上げていました。
カンタのデザインの特徴は、どれも中央に幸運を呼び寄せるシンボルの蓮の花が描かれている点です。そのほかには、四隅から中央に向かって生命の樹が伸びていたり、その間に花や鳥、昆虫、馬、象などが描かれているのが一般的なカンタで、日々の暮らしをつづり、作る女性たちの興味と好奇心が込められているので、1つとして同じものはありません。古い布と糸を利用しているとは思えないほど、ベンガルの女性たちの豊かな創造性が発揮された製品です。
色糸で描かれたデザインに目が行きがちですが、白い部分をよく見てみると、岩立館長が「刺繍の中でもカンタは特別」という意味がよくわかります。地の白い部分まで、びっしりと縫いしめられています。余白のないのが、カンタの最大の特徴なのです。

 

厚地の木綿に、絹の糸で刺繍を施した婚礼用被衣『フルカリ』

 

刺繍部分の美しい光沢が、『フルカリ』を絹の布のように見せる効果があります

 

パンジャーブ州の『フルカリ』も、今は消え去った見事な刺繍の1つです。この地域で生まれ育った少女たちは母親や祖母からフルカリの刺繍を習い、簡単な普段着作りからはじめて、やがては婚礼を迎えるときまでにたくさんの被衣(かつぎ=ベール)を作り上げて、持参品としていました。フルカリは自家産の綿をつむいで手織りした厚地の木綿に、色鮮やかな絹の真綿糸を使って刺繍したものです。高価な絹織物は、貧しい農村の人々にとっては高嶺の花のため、このような手法を考え出し、自分たちの手で刺していたのです。地の木綿は絹糸で覆われてしまうので、光沢があり、まるで絹の布のように輝いて見えます。

 

絞り文様の『儀式用被衣』(20世紀半ば、ラージャスターン州)

 

近づいて見ると、絞りの文様を刺繍で表しています

 

「身につけるものは、いちばん身近な文化。長く受け継がれてきた伝統、文化は、時を経て場所が違っても人を惹きつけます。文化は一国を超えて共有しなければならないもので、文化に関しては、国境はなくなってきています。実際に見て、ぜひいろいろなことを感じてほしい」と岩立館長。
むずかしいことを考えずにまずは足を運び、展示品を見てください。インド女性たちの細やかな針仕事を目にしたとき、自身がどんなことを感じるかを体験しに行ってみてはいかがでしょうか。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

2003年に開館した及川鳴り物博物館は、館長の及川尊雄氏が永年にわたり収集してきた、鳴り物に特化した博物館です。楽器3,000点、資料2,000点にものぼるコレクションを有しています。
[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

東京都東久留米市小山2-11-3
TEL 042-473-5785(来館の際は、事前予約が必要です)
西武池袋線、東久留米駅から徒歩10分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://homepage3.nifty.com/narimono/

[/su_note]