昔の花嫁道具“箏”の細工に感動する「及川鳴り物博物館」

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美肌美術館では、これまで何軒も個人収集家の方が開館した博物館、美術館をご紹介してまいりましたが、今回は群を抜いてユニークな博物館です。縄文時代から現代のものまで、さまざまな音色を響かせる“鳴り物”に特化した「及川鳴り物博物館」です。

 

住宅街に目印の看板を出している一軒家が「及川鳴り物博物館」です。

 

入館したら、まずはこの和室で及川館長に来館目的を伝えてから案内してもらいます

 

及川鳴り物博物館の及川尊雄館長が、鳴り物に興味を持つようになったのは26~27歳の頃のことです。北海道出身の及川館長は、登別を訪れた時に、和太鼓を叩く人形に一目惚れし、即、購入。それがきっかけとなって行く先々で鳴り物に目が行くようになり、徐々に鳴り物の世界に惹き込まれていったのです。61歳で館をオープンさせて今年でちょうど10年ですが、開館後も鳴り物は増えているので、収集歴は45年以上になります。
7人兄弟の真ん中っ子、つまり中間子として生まれた及川館長は、兄弟が多いため幼少期は親に甘えることができず、抱きしめてもらえなかった孤独感を、大人になってから鳴り物に癒してもらったといいます。鳴り物楽器に出合い、感動しただけでなく、甘えられる存在だったから、ここまでのめり込んだのだと、45年以上も経過した今、自己分析されています。

 

鳴り物=打楽器ではなく、鳴るもの全般をコレクションしていて、楽器、資料合わせて5,000点以上ものコレクションがある同館。訪れる際には事前の電話予約が必要で、電話口で、もしくは当日、及川館長は来館者にどんなものが見たいか、知りたいかなどを尋ね、その希望に沿った館内案内をしてくれます。若い世代から90代の高齢者、海外からの来館者など、訪れる人のバックグラウンドは十人十色で目的がそれぞれ異なるので、聞いた希望のイメージを膨らませ、その人その人に合った鳴り物とストーリーを織り交ぜながらの案内を行っています。

 

最初に通される和室の片隅には、山葉製オルガンの第1号型がいい雰囲気を出しています

 

すみずみまでしっかり細工を見たい、昔の嫁入り道具の1つだった『箏』

 

一軒家を活用した館内は広く、「明治・大正・昭和の間」「琵琶(その他)の間」「特別展の間」「打ち・振り・すり物の間」「付属品の間」「吹き物の間」の6展示室で構成されています。
美肌茶房編集部では、楽器もさることながら、楽器に施された細工の美しさに注目し、それが際立っている楽器を主に案内していただきました。

 

まずは『箏(こと)』です。幕末から明治までは嫁入り道具の1つだった箏。蒔絵で縁どりされたものや、珊瑚、螺鈿(らでん)、べっ甲で装飾したものなど、職人の見事な手仕事の技が光るものが数多く並んでいます。また、箏のみでなく周辺の小物も秀逸で、箏をひく爪を入れる小さなケースは、木製やセルロイド製などの洒落たものが多く展示されています。

 

箏をひく爪を入れておくケースも、こんなにオシャレ

 

花びらが音階を示している『一絃琴』

 

また、絃が1本しかない『一絃琴(いちげんきん)』は、細長い胴の上に、花びらがところどころに舞っています。その花びら一枚一枚が、音階を示しているのです。音色を聴きたくなる前に、まずこの風流で可憐な姿に虜になってしまう人も多いことでしょう。

 

一軒家にもともとあった家具を活かした展示手法はユニーク

 

縄文時代の『石笛』

 

三味線、尺八、胡弓、笛、太鼓などさまざまな鳴り物が展示されていますが、館内でもっとも古い鳴り物は、縄文時代の『石笛(いわぶえ)』です。岩手県陸前高田市で出土した、今から3500~4000年前、縄文時代後期のものです。シンプルな形ですが、そんなにも古くから人間は音を鳴らし、なんらかの道具として活用していた事実に驚かされます。

 

太鼓にしては四角い形が珍しい『揚弓太鼓』

 

“鳴り物”の定義は広く、『おりん』や『木魚』といったものも並んでいます

 

目を引く大きな珍しいものは、丸ではなく四角い太鼓の『揚弓太鼓(ようきゅうだいこ)』。四角い木枠に、調子が低く、鈍い音のする皮を片面に張った楽器です。揚弓で使用される的(まと)の裏に使われていたそうです。渋い重低音が心地良く響きわたる太鼓です。

 

秋田県の祭りで使用される『ボヘェ(木貝)』を持った及川館長

 

長い年月の間、幾人もの人の手を渡って、ようやくこの博物館にたどり着いた鳴り物たち。訪れた人にそれら鳴り物を案内する及川館長は、「人間のつくったものだから、心と心も結び付けたい」と話します。真面目な顔をしていたかと思うと、おどけて楽器を奏でてくれたり、ユーモアたっぷりに説明してくれる及川館長と、その“家族”の鳴り物たちに会いに、ぜひ「及川鳴り物博物館」を訪ねてみてはいかがでしょうか。

 

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インフォメーション

2003年に開館した及川鳴り物博物館は、館長の及川尊雄氏が永年にわたり収集してきた、鳴り物に特化した博物館です。楽器3,000点、資料2,000点にものぼるコレクションを有しています。
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●アクセス

東京都東久留米市小山2-11-3
TEL 042-473-5785(来館の際は、事前予約が必要です)
西武池袋線、東久留米駅から徒歩10分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://homepage3.nifty.com/narimono/

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