画家の個性と時代によって異なる女性の美~古川美術館「The 美人画」展

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名古屋市千種区の古川美術館で、7月21日(月・祝)まで「The 美人画 ~Masterpieces of Furukawa Bijin-ga Collection~」展が開催されています。同館所蔵品から、美人画を確立した鏑木清方や上村松園をはじめ、伊東深水、伊藤小坡らによる近現代の美人画を一堂に展覧。それぞれの作家の表現に焦点を当て、彼らが目指した美に迫るとともに、美人画の歴史や変遷の一端も紹介しています。

 

「美人画」という言葉が使われるようになったのは、明治時代中頃のことです。それ以前は「美人絵」と呼ばれ、浮世絵と同様に捉えられていました。これらの絵は芸術ではなく庶民のもので、歴史画や風景画などより低く見られていたのですが、その地位を高めたのが鏑木清方と上村松園です。様式化された“浮き世”の女性ではなく、容貌の美しさ、内面からにじみ出る美しさを主題とした「美人画」を確立。2人を筆頭に多くの画家が描くようになり、近代日本画壇は美人画の黄金時代を迎えます。

 

1階展示室。女流画家の作品には上村松園、伊藤小坡のほか、梶原緋佐子、広田多津などのものも

 

         上村松園「紅葉狩」

 

展示は、まず1階展示室の『百花繚乱~美人画の時代』から。鏑木清方を中心とした東京の画壇、上村松園を中心とした京都の画壇と、作品を大きく2つに分けて紹介しています。

 

鏑木清方は、泉鏡花の小説の挿絵を描くなど挿絵画家として出発したこともあり、物語性を強く感じさせる作品が多いのが特徴です。「夕立」では、突然降り出した雨の中、傘をさして走る女性を描いていますが、袖口から見える襦袢の赤色が印象的。ほのかな色香が漂っています。また、清方の弟子である伊東深水は、妖艶な美、幻想的な美など時代に合わせて女性の美を表現していきました。「香衣」には、やや廃退的な雰囲気がありますが、「ほたる」では品のあるたおやかさを見て取れるでしょう。深水と同門の寺島紫明の作品も展示されているので、ぜひ作品を見比べながら楽しんでください。

 

    伊藤小坡「浴後美人」1940年頃

 

    伊藤小坡「舞妓」

 

一方、“真善美”を求めて絵を描き続けていた上村松園は、凛とした美しさを表現しました。松園の特徴といえば、正確で強い線、丁寧な彩色。さらに、江戸時代の風俗を勉強したというだけあって、例えば「紅葉狩」を観ると女性の髷や着物、手にしている傘など細部までしっかり描き込まれており、当時の女性の姿がよく分かります。伊藤小坡も、松園と並ぶ女流画家です。「浴後美人」などに見られるように、しっとりとした美しさの中にも親しみやすい女性を描きました。自分の娘をモデルにしたものも多く、そうした作品には母親としてのやさしい眼差しも感じられます。

 

東京の美人画には、江戸時代の浮世絵の粋、気風の良さを引き継ぐ、さらっとしたイメージの美人。京都の美人画には、写生を重視した江戸時代の絵師・円山応挙の流れを汲む、はんなりとした美人というように、東西で作風が異なります。そしてもちろん、作家によっても。その辺りの違いや時代の流れなどを観ていくと面白いでしょう。

 

2階展示室。男女一緒の大人数から徐々に人数が減り、女性1人で描かれるようになっている

 

大正・昭和初期の婦人雑誌『主婦之友』。描かれている絵で当時の“理想的な婦人像”が分かる!

 

1階奥の特別展示室では『永遠の少女~舞妓~/少女の素朴な美』として、さまざまな少女たちの絵を展示。人工的な美を象徴する舞妓や行商に歩く大原女など、先に紹介された美人画とはまた違った美人を表現しています。着飾らない素朴な美しさ、働く女性のはつらつとした美しさが描かれているのも、近現代の美人画の重要な側面です。

 

2階展示室では、美人画の歴史や変遷を垣間見ることができます。『噂の美人』では、小野小町や楊貴妃といった、美人の代名詞と言われる歴史上の女性を描いた作品を展示。特定の人物を描いていながら、個性よりも“普遍的な美”“理想的な美”を表現しようとした、美人画ならではの特質を紹介しています。巴御前なら鎧、楊貴妃なら牡丹の花など、描く人物によって定型化されている持ち物や服装もチェックしてみてください。

 

爲三郎記念館の表玄関。日本建築の精髄を極めた爲春亭、緑豊かな庭園の眺めには溜め息が出る

 

爲春亭で最も格調高い「ひさごの間」。部屋の名は、襖に漆で型押しされた瓢箪の模様に由来する

 

そして、最後は『美人画の歴史~個性の萌芽』。男性とともに群像形式で描かれていた女性が、徐々にクローズアップされていくのが分かります。近年では、伊東深水の「バリ島の美婦」、森田曠平「立美人」のように、エネルギッシュな力強い女性も描かれるようになりました。新たな美人画の可能性を感じさせる展示となっています。

 

季節の和菓子も味わえる。入館時に配布される呈茶割引券(200円割引)が利用可

 

美術館外観。地下鉄の駅やバス停から近いが閑静な住宅街にあり、都会のオアシスとしても人気だ

 

美術館で観賞したあとは、徒歩1分のところにある分館「爲三郎記念館」へどうぞ。初代館長の古川爲三郎が終のすみかとした元邸宅で、数寄屋建築の「爲春亭(いしゅんてい)」、四季折々に楽しめる美しい庭園、茶室「知足庵」から成り立っています。呈茶コーナー(有料)もあるので、抹茶やコーヒーなどをいただきながら、ゆったりとした時間を過ごしてはいかがでしょうか。

 

インフォメーション

古川美術館は、日本ヘラルド・グループ創業者である古川爲三郎が長年にわたって収集した美術品の寄付を受け、1991年(平成3)11月に開館しました。美人画や富士山などの近代日本画を中心に、西洋中世の彩飾写本など約2,800点を所蔵し、特別展や所蔵品による企画展を年数回開催しています。また、爲三郎が103歳で亡くなるまで住んでいた数寄屋建築の邸宅を分館「爲三郎記念館」として、1995年(平成7)から一般公開。邸内では季節のしつらえ、美術館の活動と併せた企画展示、各種イベントが行われています。

 

●アクセス

名古屋市千種区池下町2-50
TEL 052-763-1991
地下鉄東山線「池下」駅より徒歩3分、「覚王山」駅より徒歩5分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.furukawa-museum.or.jp/