花の作品とともに画家の生涯をたどる~一宮市三岸節子記念美術館「三岸節子 花を巡る旅」展

大胆なタッチと色使いで知られる洋画家・三岸節子。彼女の生家跡に建てられた一宮市三岸節子記念美術館で、7月13日(日)まで「三岸節子 花を巡る旅」展が開催されています。三岸節子と言えば、風景画を思い浮かべる人がいるかもしれません。しかし実は生前、庭で花を育て旅先でも花を楽しむなど、生涯にわたって多彩な花の絵も描き続けているのです。自らを「花の画家」とも呼んでいました。本展では、各時代にその時々の思いを込めて描かれた花の作品とともに、長きにわたる画家としての旅路をたどります。

 

      「自画像」1925年 ©MIGISI

 

「室内」1939年 ©MIGISI

 

1階の常設展示室に足を踏み入れると、まず目に入ってくるのが正面に飾られた「自画像」。節子が20歳の時、他の作品3点とともに春陽会に初出品、初入選し画壇デビューを果たした記念すべき作品です。こちらをじっと見つめているようなまなざし――顔の表情が左右で違っているのが、かえって不思議な魅力を放ちます。当時はまだ若く、三岸好太郎と結婚したばかり。同じ絵描きである好太郎に刺激を受けつつも、自分はこれからどうなるのか、どんな絵描きになっていくのかといった不安もあったでしょう。表情の違いは、内に秘めた葛藤の表れではないかと言われています。

 

2)には、テーブルの上に載る皿やりんご、布、そして花瓶に挿した白い花が描かれています。花は、まだ静物画の中の一つのモチーフでしかありませんでした。独立して描かれるようになるのは、もう少しあとのことです。

 

   「小運河の家(1)」1972年 ©MIGISI

 

  「ブルゴーニュにて」1989年 ©MIGISI

 

この頃の絵としては「室内」もお勧めです。寒色と暖色の組み合わせが絶妙で、“色彩の魔術師”と呼ばれたフランスの画家・マチスのようとも言えましょうか。バックを簡略化することで部屋の内と外の雰囲気を変えており、さらに視界を遮るように大きな布を描いて奥行きを出しています。全体に明るい色使いも印象的です。

 

東京中野のアトリエ付き住居から軽井沢の山荘での生活を経て、1960年代には神奈川県の大磯に移り住みます。その間、庭でさまざまな種類の花を育て楽しんでいたようで、1950年代の「花」(No.9)では、柔らかな色使いと滑らかなタッチで花が描かれています。花の種類はよく分かりません。この頃から、一輪一輪を丁寧に描くのではなく、自分のイメージを画面の中で自由に展開させていく独自のスタイルが徐々に確立されていきました。

 

  「白い花(ヴェロンにて)」1989年 ©MIGISI

 

  「さいたさいたさくらがさいた」1998年 ©MIGISI

 

1963年(昭和43)、63歳の時にフランスへ渡ると、ヨーロッパ各地を旅するようになります。この時期は風景画に力を入れており、イタリアやスペイン、フランスの風景が多く描かれています。例えば「小運河の家(1)」では、ヴェネチアの運河沿いに建つ建物と建物が映る運河を。石で造られた建物の壁をどう描くかに苦心し、そのザラザラ感を出すために本物の砂を用いることもあったそうです。

 

「ブルゴーニュにて」では、画面下に広がる黄色い花とは対照的に、画面上では近づく黒雲(嵐)に驚き飛び立つ鳥を描き、穏やかだったものが突然動き出す変化を見事に表現。また「白い花(ヴェロンにて)」は、画面左に白い花瓶と白い花のみとシンプルな構成ながら、非常に力強く圧倒されます。とても84歳のときの作品とは思えません。妙に際立つ、花瓶に描き込まれた精細な図柄もチェックしてみてください。

 

      書籍の装丁も多数手掛けていた

 

土蔵展示室内。アトリエ風に展示している

 

20年余りのフランスでの生活を終え、節子は84歳で帰国、大磯に定住します。その後も、絵を描くことへの情熱は衰えません。圧巻は、何と言っても93歳で亡くなる前年に描いた「さいたさいたさくらがさいた」でしょう。「成熟した人間ほど、成熟した絵が描ける」と語っていた節子。すでに体は思うように動かなくなっていたようですが「今なら桜が持つ美しさを描ける」と、100号もの大作に挑みました。そして、完成したのがこの作品です。幹が反って、画面いっぱいの桜の花がこちらに向かってくるような迫力、動き。節子の並々ならぬ意欲が伝わってきます。

 

展示数は30点弱とそれほど多くはありませんが、見終わったときには作品のみならず、節子自身の濃厚な生涯をも感じることができそうです。常設展示室の奥には、ゆかりのモチーフを配した土蔵展示室もあります。ぜひ、そちらにも足を運んでください。

 

美術館外観。かつて敷地内にあった織物工場を彷彿とさせる鋸屋根がユニーク

 

展示されている三岸節子の写真。穏やかな表情のなかにも、意志の強さを感じる

 

*作品は、すべて一宮市三岸節子記念美術館の所蔵です。

 

インフォメーション

一宮市三岸節子記念美術館は、1998年(平成10)に尾西市三岸節子記念美術館として開館、2005年(平成17)に市町村合併に伴い現在の館名に改称されました。名誉市民である三岸節子の功績をたたえ、生涯にわたる作品を収集・展示。その画業を永く後世に伝えるとともに、市民の美術への関心を高め、芸術に対する造詣を深めることを目的としています。一般展示室・実習室・講義室もあり、一般の作品発表等にも利用可能です。

 

●アクセス

愛知県一宮市小信中島字郷南3147-1
TEL 0586-63-2892
JR東海道本線「尾張一宮駅」・名鉄名古屋本線「名鉄一宮駅」下車、名鉄バス「起(おこし)」行で「起工高・三岸美術館前」下車、徒歩1分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://s-migishi.com/