国際浮世絵学会創立50周年記念「大浮世絵展」が、名古屋市博物館で5月6日(火)まで開催されています。日本国内および世界各地45か所から、名だたるコレクションを一堂に集めたかつてない規模の展覧会。「どこかで見たことがある」「教科書に載っていた」など、誰もが一度は目にしたことのある代表的な作品340点(常時約150点)により、浮世絵の歴史がまるごと紹介されています。
会場入口は、撮影スポットにもなっている。東洲斎写楽や歌川国芳の絵と一緒に思い出を残しては?
中央の階段には、歌川国芳による八犬伝の浮世絵が。ここも撮影スポット
浮世絵は「一度きりしかない人生、楽しく浮かれて暮らしたい」という風潮を背景に、17世紀後半に誕生しました。当時の人気スターであった役者や名所、出来事、日常生活などが描かれており、浮世絵を見ると、当時の風俗がよく分かります。150年ほど前には欧米でブームとなって、ゴッホのように浮世絵に強く刺激を受け作品に反映させた芸術家も多くいました。
このように、長い歴史がある浮世絵。本展では浮世絵の誕生から、海外でも人気を博した黄金期、そしてさらなる展開と次のステージまでを、時代順に紹介しています。
鳥居清倍「市川団十郎の竹抜き五郎」東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives 展示期間4/23~5/6
東洲斎写楽「3代目大谷鬼次の江戸兵衛」東京国立博物館蔵 Image:TNM Image Archives 展示期間4/23~5/6
初期の主な作品と言えば、本展の目玉の1つ、菱川師宣の「見返り美人図」が挙げられるでしょう。浮世絵というと木版画がよく知られていますが、絹や紙に絵師が直接筆で描いた肉筆画もあり、これは師宣による肉筆画です。切手の図案として記憶にある人も多いのではないでしょうか(残念ながら、展示は3月いっぱいで終了。ハンカチや巾着、クリアファイルなど「見返り美人グッズ」は期間中販売)。また、鈴木春信の「雪中相合傘」にも注目です。高度な多色刷りの錦絵で、若い男女が相合傘で雪の中を歩く姿がロマンチックに描かれています。特筆すべきは、その技法。一つひとつ丁寧に描き分けられた着物や頭巾の質感、模様、そして雪の降り積もる様子などを間近でご覧ください。
黄金期には、喜多川歌麿や東洲斎写楽らが活躍しました。歌麿は美人画で知られていますが、先の春信が少女のようなあどけない美人を描いて人気だったの対し、歌麿はもう少し細長い、大人顔の美人。上半身をアップで描く「大首絵」の手法を取り入れ、女性の内面の感情まで表現しています。一方、同じ大首絵でも、写楽が描いたのは役者です。容姿の特徴を的確に捉え、時に欠点さえも誇張し役者の素顔に迫ろうとした似顔絵は迫力満点。写楽の作品は常時、数点展示されていますが、4月23日から最終日の5月6日までがとくにお勧めです。この期間、歌舞伎「恋女房染分手綱(こいにょうぼうそめわけたづな)」の登場人物を演じる役者を描いた「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」「市川男女蔵の奴一平」が並べて展示されます。敵同士が向かい合うような形で、左右一対の作品として鑑賞できる貴重な機会です。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」ギメ東洋美術館蔵©RMN-Grand Palais(musée Guimet,Paris)/Richard Lambert/distributed by AMF 展示3/26~5/6
歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野白雨」名古屋市博物館蔵 展示3/11~5/6
19世紀に入ると、これまでの美人画と役者絵の二本柱に、風景画も加わります。中心となるのが葛飾北斎、歌川国芳、歌川広重ら。時間や場所によって表情を変える富士の姿を描いた北斎の「冨嶽三十六景」シリーズでは、お馴染みの作品を観ることができるでしょう。また、欧米の芸術にも大きな影響を与え、今では世界中に知られる『伝神開手 北斎漫画』もおもしろく、必見です。広重の「東海道五捨三次」シリーズも、常時いずれかの作品が展示されています(「東海道五拾三次之内 庄野白雨」は常時展示)。この頃、浮世絵は版画によって作られることが大半でしたが、広重は肉筆で見事な作品を描き上げました。海外で「ヒロシゲブルー」「ジャパンブルー」と呼ばれる、鮮やかな藍色に注目してください。
歌川国芳「猫の当字 かつを」名古屋市博物館蔵 展示3/26~4/6
歌川国芳「相馬の古内裏」名古屋市博物館蔵(高木繁コレクション) 展示4/1~4/20
最後は、浮世絵の新たなるステージ。幕末から明治維新にかけては、描くべき主題を模索し迷走しつつも、歌川国芳の門人である月岡芳年、小林清親らが活躍。また、大正から昭和にかけては新版画の試みが登場し、橋口五葉や伊東深水らへと受け継がれました。
2階の常設展示室では「尾張の歴史-原始から現代まで」を紹介
「世界から傑作、大集合!」のコピー通り、非常に充実した内容で見応えのある展覧会です。作品一つひとつの素晴らしさはもちろん、全体を通して見ることで、浮世絵の歴史、そして時代とともに変わる着物の型やデザイン、美人の定義など流行も分かって楽しめます。毎週、展示替えを行っているので、何度も訪ねてより多くの作品に触れることもできるでしょう。その際は「リピーター割引」(本展観覧済チケットをチケット売り場に提示すると、当日券が200円割引)がありますので、ぜひ利用してくださいね。
名古屋市博物館は、昭和52年(1977)年に開館した歴史博物館です。考古・美術工芸・文書典籍・民俗に関する資料を集めて保管・保存し、展示公開しています。館蔵資料は、平成21年(2009)3月末日現在で22万点超。国指定重要文化財として「秋草鶉図屏風」「魚波文瓶子」「三宝絵」「太刀 銘『国泰』」「太刀 銘『行平作』」「太刀 銘『雲生』」があります。
名古屋市瑞穂区瑞穂通1-27-1
TEL 052-853-2655
地下鉄桜通線「桜山」駅下車、徒歩5分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.museum.city.nagoya.jp/(名古屋市博物館)
http://www.ctv.co.jp/event/ukiyoe/(「大浮世絵展」公式サイト)