東京・足立区の静かな町にある石洞(せきどう)美術館では、4月6日まで『館蔵仏教美術展 仏教の来た道』を開催しています。
私たち日本人になじみ深い仏教は、紀元前5世紀ごろに成立した世界的な宗教です。仏教の始祖である釈迦(しゃか)が生まれたインドから日本へ伝わる過程で、パキスタン、中国、朝鮮で様々な文化や習俗、信仰と混じり合って形を変え、日本に伝わってさらに変容し日本独特の仏教となりました。同展では、釈迦とはどんな人物なのかその生涯を辿るとともに、仏教が各国に伝わる過程で土地土地の文化と融合してどのような仏教美術を育んできたのかを見せています。仏教系美術館以外で、館蔵品だけで仏教美術の企画展が行われることは珍しく、石洞美術館でも仏教美術をまとめて展示するのははじめてのことなので、とても貴重な企画展です。
大きな看板がないので、右手のカフェと企画展の掲示物が目印の石洞美術館
スロープで1階と2階の展示空間がゆるやかに繋がっています
企画展の導入は、パキスタン・ガンダーラの石彫が展示されています。仏像がはじめてつくられたのはパキスタンのガンダーラかインドのマトゥラーのどちらかだと言われていて、ガンダーラには西洋の文化も入ってきていたので、造形が明らかにヨーロッパ的なのが特徴です。隣国同士ですが、ガンダーラとマトゥラーでは使用する素材も異なり、ガンダーラは黒色片岩(こくしょくへんがん)を主に使用し、マトゥラーでは赤色砂岩が一般的です。このように大まかな特徴を少しでも知っていると、説明を見なくても展示物の背景がわかり、鑑賞する楽しさも増すでしょう。
館内は1階と2階がスロープで繋がっていて、その途中の壁面には『仏伝』の展示物が並んでいます。仏伝とは釈迦の生涯に起こった数々のエピソードを表したもので、仏伝図像の多くは、ストゥーパ(釈迦の遺骨である舎利を納めた塔)の基壇や胴部に取り付けられていました。最初に展示されている『仏陀誕生』(パキスタン・ガンダーラ 2~3世紀)は、マーヤー夫人の右脇から釈迦が生まれ、それを帝釈天が受け取っている場面です。釈迦の生涯を仏伝図像を見ながら、そして解説も読みながら歩を進めるといつのまにか2階の展示室にたどり着いています。
仏伝「仏陀誕生」(パキスタン・ガンダーラ 2~3世紀)
菩薩立像(パキスタン・シャリバホル 3~4世紀)
2階でひときわ目を引くのが、『菩薩立像』(パキスタン・シャリバホル 3~4世紀)です。黒色片岩に彫られた菩薩立像で、服のヒダや端正な顔立ちから、ヨーロッパの影響を受けて制作された立像であることがよくわかります。
よく目にする釈迦のお決まりのポーズ(?!)といえば、『青銅仏坐像』(インド・ナランダ 7~8世紀)でしょう。インド・ブッダガヤーの菩提樹の下で、魔王たちの誘惑を退けて悟りを開いた釈迦。これを「降魔成道(ごうまじょうどう)」と言い、その場面を表しています。このとき釈迦は右手で大地を指さし魔王たちを退散させたとされ、悟りを開く重要な場面のため、数多くの像が造られています。
一方、『彩色仏倚像』(さいしきぶついぞう パキスタン・ガンダーラ 3世紀)は、ちょっと珍しい仏像です。なぜ珍しいのか、それはイスに座っているからです。ガンダーラにおける仏像の表現は立像か結跏趺坐像(けっかふざぞう)が一般的で、このような倚坐像はあまり見ないそうです。
館内はグレーを基調としたシックな雰囲気。広々とした2階展示室は特に魅力的な空間
青銅仏坐像(インド・ナランダ 7~8世紀)
大小さまざまな仏像を見たあとで現れるのは、蓋付きの小さな壺です。釈迦の遺骨を納める『石造舎利容器』(パキスタン・ガンダーラ 2~4世紀)で、9個ほどが展示されています。石洞美術館の所蔵品のほとんどは、美術館が入っているビル、千住金属工業株式会社の社長と会長を歴任した佐藤千壽(さとうせんじゅ・1918~2008年)氏が収集したものですが、舎利容器のコレクションが突出して多いのは、佐藤氏の思い入れが強かったのかもしれません。個人コレクションは好みが色濃く出るので、その人が長年かけて収集したものを見ることは、その人の人生の一部を見せてもらっているようです。
彩色仏倚像(パキスタン・ガンダーラ 3世紀)
石造舎利容器(パキスタン・ガンダーラ 2~4世紀)
まもなく開館8周年を迎える石洞美術館ですが、大々的に宣伝をしているわけではないので、知る人ぞ知る美術館です。しかし、1度訪れたらリピーターになる人も多いというのも納得。屋根は銅板葺きおろし、壁は煉瓦タイル貼りの平面六角形のユニークな建物と、館内のシックな雰囲気に魅了されること間違いありません。まだ訪れたことがない人は、貴重な企画展とともに、美術館の持つ特異な魅力を感じに出掛けてみてはいかがでしょうか。
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インフォメーション
石洞美術館は、美術工藝を通した国際間の文化交流、相互理解の促進、日本文化の向上を図るため、公益財団法人 美術工芸振興佐藤基金が2006年4月に設立しました。所蔵品は佐藤千壽氏の収集したコレクションが核になっており、世界各地のやきもの、茶の湯釜、ガンダーラの仏像、漆器、青銅器、玉器などを有し、館蔵品を中心とした企画展を年3回程度開催しています。
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●アクセス
東京都足立区千住橋戸町23
TEL 03-3888-7520
京成線「千住大橋駅」より徒歩3分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://sekido-museum.jp/
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