“黄金期の北欧のやきもの”が一堂に~愛知県陶磁美術館 開館35周年記念 企画展

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愛知県瀬戸市の愛知県陶磁美術館では、2014年3月23日(日)まで開館35周年記念企画展「モダニズムと民藝 北欧のやきもの:1950’s-1970’s デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド」を開催しています。第2次世界大戦後の1950年代から1970年代、北欧のやきものは数々の国際展で多くの賞を受け、欧米市場の高い評価を得るなど、まさに黄金期でした。本展覧会は、その“黄金期の北欧のやきもの”を日本で初めてテーマにしたもので、北欧とかかわりのあった日本人デザイナーや陶芸家の作品を含む約160点を紹介しています。

 

アクセル・サルト 銅紅釉花瓶 1957年 ロイヤル・コペンハーゲン、デンマーク 個人蔵

 

グッテ・エリクセン 白濁釉鉢 1960年代 デンマーク 京都国立近代美術館蔵

 

デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドの厳しい自然環境と限られた資源の中で、陶磁器産業は軽工業、特に手工芸品生産の延長線上に生まれました。20世紀初頭には、グラス産業と並んで主要な産業のひとつとなっています。この陶磁器産業を語る上で欠かせないのが、北欧デザイン・工芸の大きな特色である、工業製品のデザイン(産業)と美術工芸品(芸術)との恊働です。「恊働によって生み出された日常品が、人々の生活と社会の倫理を向上させ、国家を繁栄させる」とする考え方が徐々に広まり、それは後に日本にも大きな影響を与えました。

 

作品を見ているだけでも楽しいですが、このような歴史的背景を頭の片隅に置いていると、また違った見方ができ理解が深まりそうです。作品は国ごとにまとめて展示してあるので、各国の暮らしや考え方なども併せて見ていくとより面白くなるでしょう。

 

ヴィルヘルム・コーゲ 澱青釉角皿 1952年 グスタフスベリ製陶所、スウェーデン 日本民藝館蔵

 

バーント・フリーベリ ミニチュア・ストーンウェア 1950年代-1960年代 グスタフスベリ製陶所、スウェーデン 個人蔵

 

デンマークは、近代以降の北欧陶芸をはじめにリードした国です。ロイヤル・コペンハーゲンが有名ですが、ドイツのマイセンなどヨーロッパの影響を受けると同時に、中国や日本の陶磁器にも着目。東洋陶磁風のフォルムや釉を消化しながら、自分たちの美術工芸品として確立していきました。確かに、展示されている多くの作品は非常に日本的です。しかし、よく見ると色が淡くてきれいだったり、全体のラインが直線的で硬質だったりと、日本のやきものとの違いが分かります。これは、もともと金属やガラス製品をメインに作っていたからだそうです。

 

カール=ハリー・ストールハーネ 黄地白濁釉稜碗 1960年代 レルストランド製陶所、スウェーデン 京都国立近代美術館蔵

 

ビルゲル・カイピアイネン オブジェ《ビーズ・バード》 1960年頃 アラビア製陶所、フィンランド 有限会社スコープ蔵

 

スウェーデンでは1945年にスウェーデン工芸協会が設立され、「より良い製品を一般市民の生活へ」をモットーに、デザインを用いた社会運動が活発に進められました。先に記した産業と芸術との恊働がそれで、工場に芸術家を招き、彼らのクリエイティブな創作意欲を奨励しています。東洋陶磁や古いヨーロッパの陶磁などから影響を受けながらも、合理的かつデザイン性に優れたフォルムが特徴。バートン・フリーベリのミニチュア陶器は“ろくろ目”がなく、興味深い作品の1つです。

 

タピオ・ヴィルカラ(フィンランド)《アイスブルーム》サーヴィス 1963年 ローゼンタール(ドイツ) 瀬戸窯業技術センター蔵

 

リーサ・ハラマー 色マット釉大皿 1960年代 アラビア製陶所、フィンランド 京都国立近代美術館蔵

 

ノルウェーは国として独立したのが1905年と遅かったため、当初はなかなか個性を出しにくい状況でした。マイセンやロイヤル・コペンハーゲンを手本に製作を続け、1920年代頃からはドイツのバウハウスやアール・デコ・スタイルなどを取り入れて芸術性を高めていきました。一方、フィンランドでは、1873年に設立されたアラビア製陶所が国の経済にも大きく貢献しています。注目したいのは、同製陶所に入社する前にイラストレーションやグラス、テキスタイル・デザインなどを手掛けていたカイ・フランク。彼の代表作であるテーブルウェア<キルタ(Kilta)>は、現在も北欧食器の定番として高い人気を誇っている<ティーマ(Teema)>シリーズの原型です。

 

展覧会を訪れた人の中からは「イメージしていた“北欧のやきもの”と少し違った」の声も聞かれるとか。実際「北欧」というと、モダンなデザイン、明るい色味やカラフルなパターンを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、本展覧会では意外に落ち着いた日本的なものが占めています。しかし、デンマークのところでもご説明したように、北欧のやきものが欧米の影響を受けると同時に、中国や日本の技術なども取り入れたこと、更に独自のものへと昇華させたことを知れば納得ですね。

 

館内は広く、ゆったりと見て回ることができる。ミュージアムショップやレストランもあります

 

広大な敷地内の真ん中に位置する本館。ほかに南館や西館、陶芸館があり、展示や作陶体験などが行われている

 

1950年代から1970年代にかけては、「工業デザイン」と「民藝運動」の2つの側面から日本も北欧の陶芸・デザインとさまざまな交流を行いました。本館2階には、当時かかわりのあった濱田庄司、柳宗理、剣持勇、芳武茂介らの作品も展示しています。どのような影響を受け、それがどんな作品になったのか、ぜひご自身の目で確かめてみてください。

 

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インフォメーション

愛知県陶磁美術館の前身は、愛知県陶磁資料館。1978(昭和53)年6月1日、日本最大級の窯業地である瀬戸市に、愛知県政100年記念事業として開館しました。日本やアジアを始めとする世界各地のさまざまなやきものの魅力を、展覧会や関連催事を通じて紹介。2013(平成25)年3月末現在、コレクションは重要文化財3点を含む6,117点で、国内屈指の陶磁専門ミュージアムとして知られています。2013年6月1日に35周年を迎えたのを機に「愛知県陶磁美術館」と名称を変更し、再スタートしました。

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●アクセス

愛知県瀬戸市南山口町234
TEL 0561-84-7474
リニモ:「陶磁美術館南」駅下車、「知の拠点あいち」横の歩道を約600m
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.pref.aichi.jp/touji/

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