生誕100年に全国からファンが集まる~愛知県半田市・新美南吉記念館

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「ごん狐」「手袋を買いに」などの童話で知られる児童文学者・新美南吉が生まれて、今年(平成25年)でちょうど100年を迎えました。これを受け、新美南吉記念館を中心に半田市各所で、企画展や朗読会、演奏会などさまざまな記念行事が行われています。

 

展示室の入口では、本を読む南吉(人形)がお出迎え

 

天井には「ごん狐」で兵十が使う“はりきり網”が。実物を展示することで、今の子どもたちにも分かりやすくしている

 

新美南吉は、大正2年(1913)7月に半田市岩滑(やなべ)で畳屋の次男として生まれました。本名は正八。旧制半田中学校(現・半田高校)在学中から文学に興味を持ち始め、童謡童話や詩を盛んに投稿するようになります。半田第二尋常小学校(現・岩滑小学校)代用教員時代に、「南吉」のペンネームで『赤い鳥』に作品が掲載されました。昭和7年(1932)4月には、東京外国語学校(現・東京外国語大学)に入学。北原白秋に師事し、文学修業に励みながら創作活動を続けるものの喀血、大学卒業後に帰郷せざるを得ませんでした。そして昭和13年(1938)4月、24歳で安城高等女学校(現・安城高校)の教諭となります。この頃、教職と創作活動で充実した日々を送ったようです。「おじいさんのランプ」「牛をつないだ椿の木」「花のき村と盗人たち」など代表作を次々と書き上げました。伝記『良寛物語 手毬と鉢の子』、作品集『おじいさんのランプ』の2冊を出版して世に知られ始めましたが、病状が悪化。昭和18年(1943)に喉頭結核のため永眠、29年の短い生涯を閉じました。

 

「おじいさんのランプ」のラストに登場するランプを吊るした木。原寸大で再現されている

 

「手袋を買いに」のジオラマ。場面ごとに作られており、小さい子にも理解しやすい

 

29歳の若さで亡くなった南吉ですが、多くの作品を残しています。先に挙げた「おじいさんのランプ」などのほか「赤いろうそく」や「でんでんむしのかなしみ」といった作品も、ストーリーは忘れていても、なんとなく記憶にあるという人は少なくないのではないでしょうか。「でんでんむしのかなしみ」は、美智子皇后が子ども時代に親しまれた話としても話題になりました。

 

しかし、やはりなんといっても一番よく読まれているのは、「ごん狐」でしょう。狐のごんが、人間にしたいたずらを後悔し、つぐなおうとしますが…。この作品は、昭和31年(1956)から小学4年生の国語教科書に採用され、昭和55年(1980)からはすべての教科書会社が継続して採用しています。これまでに全国で6000万人以上が学んだことになるとか。もちろん、絵本にもなっており、海外でも出版されています。また、「手袋を買いに」も人気の高い作品です。母さん狐に片方の手だけ人間の手にしてもらい、町へ手袋を買いに行く子狐の話。こちらも国語科教材になっているほか、英語、ドイツ語、韓国語、中国語などに翻訳され、各国の子どもたちに読まれています。

 

南吉が東京時代に過ごしていた下宿部屋を再現。高窓は、実際に使われていたもの

 

「手袋を買いに」に登場する帽子屋を再現。かわいらしい子狐が、扉から店の中をのぞいている。奥の本屋は図書閲覧室

 

新美南吉記念館では、南吉の生涯と文学活動・作品を年代順に紹介しています。自筆原稿や日記、手紙、関連図書を始め、作品のストーリーを模型で紹介するジオラマや南吉の人形なども展示。全体に南吉文学をイメージしたつくりになっており、視覚的にも楽しめ、分かりやすい構成になっています。実際、観覧者には、親子連れや先生に引率された子どもたちの姿も多く見られました。

 

生誕100年記念に寄贈されたステンドグラス「南吉のふるさと」。南吉の母校・岩滑小学校の生徒たちも制作に参加した

 

受付横では、関連図書の販売もしている。ぜひ、手にとってみて

 

今年は生誕100年を祝い、数々の記念行事が目白押し。7月30日の誕生日を挟んだ「新美南吉生誕祭」では式典や朗読会、音楽祭、シンポジウムなどが行われ、大勢の市民や全国の南吉ファンが集いました。新美南吉記念館の特別企画展としては、11月9日から来年1月13日まで「『でんでんむしのかなしみ』原画展〜皇后さまと南吉〜」が開催されます。12月21日には「生誕100年フィナーレイベント」として、元HNKアナウンサー・山根基世さんの講演と朗読、灯り行事、ふるまいなどが予定されています(行事内容は変更されることもあり)。ぜひ、足を運んでみてください。

 

「ごん狐」の舞台となった中山に建つ記念館。岩滑の里山の稜線をイメージし、建物は半地下式になっている

 

記念館のすぐ北側を流れる矢勝川の堤は、彼岸花に彩られていた。ほかにも菜の花やコスモスなど、四季を通じて花を楽しむことができる

 

新美南吉が生まれ育った半田市岩滑地区周辺には、生家や墓など、ゆかりのスポットがたくさんあります。また、童話の舞台となった寺社や矢勝川、半田池なども点在しているので、記念館を訪れたあとに散策してはいかがでしょうか。記念館内にある「café & shop ごんの贈り物」や知多半田駅前観光案内所でのレンタサイクルの利用もおすすめです。足跡をたどることで、南吉の世界に浸れること間違いありません。

 

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インフォメーション

新美南吉記念館は、半田市出身の児童文学者・新美南吉の顕彰を目的に平成6年、半田市によって設立された記念文学館です。展示室には自筆原稿や日記、手紙などの資料を始め、「ごん狐」など6作品のストーリーを模型で紹介するジオラマが展示されているほか、作品の映像を月替わりで上映するビデオシアター、自筆資料がタッチモニターで見られる視聴覚コーナーがあります。また、図書閲覧室には南吉の全集や絵本だけでなく、研究書や日本の児童文学に関する文献なども揃っており、南吉文学をより深く、より広く知ることができます。

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●アクセス

愛知県半田市岩滑西町1-10-1
TEL 0569-26-4888
名鉄河和線半田口駅より西へ徒歩20分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.nankichi.gr.jp/

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