縁起ものが大集結している「町田市立国際版画美術館」

0

長く厳しかった残暑も過ぎ去り、ようやく秋めいてきたこの頃。食欲の秋、行楽の秋、読書の秋と楽しい季節ではありますが、季節の移ろいがもの悲しく、なんとなく寂しい気持ちになるのもこの季節の特徴です。そこで今回は、見るだけで元気に、幸せになれる(?!)企画展をご紹介します。

 

町田市立国際版画美術館では、11月24日まで「縁起もの~版画と絵画で楽しむ吉祥図像~」を開催しています。縁起ものというと、松竹梅や鶴亀、七福神、初夢で見ると良いといわれている一富士二鷹三茄子などが挙げられます。これらをはじめとした吉祥画題が、日本では古くから好んで描かれてきました。江戸時代には、版本や浮世絵、新年の暦の歳旦摺物(さいたんすりもの)として制作されるようになりました。

 

入館すると目の前に広がる大階段が素敵な町田市立国際版画美術館

 

縁起が悪いので、「凶」は入っていないおみくじ

 

同展では、歌川広重らの浮世絵や摺物、版本、円山応挙、谷文晁らの掛軸や屏風など、江戸時代の絵画史で大きな存在感を残した吉祥画が集結。分かりやすい3部構成で、さまざまな吉祥画題を見せてくれます。

 

来館者に同展をより楽しんでもらうために、展示室入口には粋なはからいのお楽しみがあります。“おみくじ”です。東京都で54年ぶりに開催される国体(スポーツ祭東京2013)の会期に合わせ、「祝祭」をテーマとした企画展なので、大会マスコットキャラクターの“ゆりーと”が、あなたのラッキー作品を教えてくれます。その作品を探しながら会場を進みましょう。

 

屏風などの大型のものから手のひらサイズのものまで、縁起ものだらけの展示室

 

      森狙仙『猪図屏風』(後期展示)

 

1つ目の展示テーマは「吉祥図像の王道」です。松竹梅や富貴の花として喜ばれた牡丹、日本一の山である富士山など、縁起ものというにふさわしい作品が展示されています。
森狙仙(もりそせん)の『猪図屏風』は、憂い顔の猪の図です。身を伏せている猪=「臥猪(ふすい)」は天下泰平を表す語の「撫綏(ぶすい)」と音がかかることから、吉祥画として描かれています。また、猪は多産なため子孫繁栄の象徴でもあります。
歌川広重の『冨士三十六景 駿河三保之松原』は、世界遺産に今年登録されたことでも注目の一作。羽衣伝説の舞台でもある三保の松原と、背後に描かれた雄大な富士山が印象的です。

 

歌川広重『冨士三十六景 駿河三保之松原』(前期展示)

 

葛飾北斎『お多福面と福笹』(前期展示)

 

続いて2つ目のテーマは「繁栄と福徳を祈る」です。夫婦円満の象徴であるつがいの鳥や、富・福をもたらす七福神が描かれた作品が並んでいます。多くの画題が中国由来のもので、猿や鹿、鼠など、一見なぜ縁起ものなのかわからない動植物も描かれています。この展示室に限らず、どの作品にも丁寧な解説がついているので、まずは自分で縁起ものとされている理由を考えてから、答え合わせのつもりで解説を読んでみてはいかがでしょうか。
展示作品の中でもひときわ小さい葛飾北斎の『お多福面と福笹』は、手のひらサイズの摺物で、よく見ると絵暦になっています。鶏が酉年を示しているので、酉年の絵暦です。笹の葉の先の方に“大”の文字があり、その次に横向きになった“正”、続いて数字の三、七、九、十、十一、十二と続いています。これは月の日数が多い大の月を示しています。こうした絵暦は、粋な人々が楽しんだものと考えられます。

 

      中村芳中『老松立鶴図』(後期展示)

 

見慣れてくると、小さな作品に潜んでいる意味合いを探すのに夢中になります

 

最後3つ目のテーマは「長寿を祈る」です。こればかりはどんな努力をもってしても思い通りになるとは限らないものなので、いつの世も変わらない人々の究極の願いといえるでしょう。鶴は千年、亀は万年ということわざもあるくらい長寿の象徴の鶴亀や、不老不死の象徴である仙人、意外なところでは猫や蝶が画題になっている作品が紹介されています。
中村芳中(なかむらほうちゅう)の『老松立鶴図』は、わかりやすい長寿の吉祥画題である老松と鶴が用いられている作品です。墨で横長の楕円に描かれただけの目がなんとも優しく、まるで微笑んでいるかのように見えます。齢を重ね、人生を達観しているような余裕すら感じられる、どこか人間くさい雰囲気が魅力の作品です。

 

同展は10月27日までが前期、10月29日~11月24日までが後期展示期間で、それぞれ約100点が展示されます。前後期で総入れ替えされるので、これほどの縁起ものが一堂に会するまたとない機会をお見逃しなく! 隣接する芹ヶ谷公園の紅葉も楽しめる好シーズン、お散歩がてら訪れるのにおすすめの美術館です。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

町田市立国際版画美術館は、国内外のすぐれた版画作品と、それに付随する美術資料を収集保存しています。見るだけではなく、作る楽しみを経験してもらうため、版画工房とアトリエを併設していて、講座などの開催を通じて版画の楽しさを広めています。

[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

東京都町田市原町田4-28-1
TEL 042-726-2771
小田急線、JR横浜線「町田駅」より徒歩15分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://hanga-museum.jp/

[/su_note]