珍しいデコ盛り絵付け製品を間近で見られる「名古屋陶磁器会館」

0

名古屋がその昔、陶磁器の輸出で一時代を築いたことがあるのをご存知ですか。名古屋に住んでいても、残念ながら知る人は少ないかもしれない、輝かしい名古屋陶磁の歴史。隆盛を極めた当時に拠点施設として建設され、現在は名古屋陶磁の歴史と文化を発信している「名古屋陶磁器会館」を訪れました。

 

映画やドラマの撮影でたびたび使用される昭和レトロなビル「名古屋陶磁器会館」

 

展示室へ向かう館内の雰囲気、床、扉、ガラスなどに歴史を感じます

 

日本製の陶磁器の輸出は明治初期にはじまりました。同じ愛知県内の瀬戸や美濃といった、やきものの歴史のある産地の良質な素地に当時の瀬戸や美濃ではまだ難しかった高度な上絵付けを行う業者が同館の周辺に開業。しだいに名古屋に上絵付業・加工問屋業が増えていきました。

 

日清戦争(明治27~28年)後に、川や港が近いため荷物の運搬をしやすかったということだけでなく、絵付を行う場所が必要になったことから、同館周辺に本格的に陶磁器業が立地しはじめました。 同じ名古屋市内でも、中心地に比べて東部地区の同館周辺は地価も安めで、武家屋敷跡が多かったため、広い敷地を安く入手することができたからです。
明治29(1954)年には、森村組(現在、国内外でファンが多いノリタケカンパニーの母体)が東京と京都の専属画工場を同館周辺に集約したことは、名古屋の陶磁器絵付加工にとって、とても大きな出来事で、この後、名古屋の絵付け業はさらに発展を遂げていくことになります。

 

その後、大正時代後半には、絵付け業のほかに、生産・加工に不可欠な原料、薬品、問屋、メーカー、銀行、運送、通信など、陶磁器輸出に付随するさまざまな関連業態がこの地域に集中しました。伊万里や九谷、京都などの上絵付工も名古屋へ移ってくるなど、名古屋が陶磁器の中心地になっていったのです。そして昭和初期には、名古屋の東北部のごく小さなエリアが、陶磁器輸出で国内を牽引していくまでに発展したのです。同館のビルが建設されたのは、ちょうどその頃の昭和7(1932)年のことです。平屋の木造家屋が多かった当時、鉄筋コンクリート3階建のビルは、名古屋の陶磁器業界の隆盛を示すものでした。

 

展示室には、この地から海外へ輸出された陶磁器が展示されています

 

花や着物の柄が立体的に見える効果がある、デコ盛り技法

 

1階の展示室には、名古屋から海外へ輸出された陶磁器が展示されています。一見したところ、デザインは日本的なものというより海外の人がイメージする日本といった風情の、オリエンタルな色柄の陶磁器が多いのが特徴です。
名古屋絵付けならではの技法があり、その代表的な技法が、“デコ盛り(盛り上げ)技法”です。白素地にチューブ状の器具で色絵具を塗り重ねたり、盛り付けたりする技法です。つぶつぶで浮き彫りのような仕上がりになることから、立体効果をねらったデザインに使われていました。

 

躍動感があり迫力のある、龍のデザインのティーセット

 

占領下時代につくられた“Made in Occupied Japan”と印されているカップ

 

このように順調に発展を遂げてきた名古屋の陶磁器業ですが、第2次世界大戦によって転機が訪れます。昭和20(1945)年の終戦後、日本はGHQの占領下に置かれることになりました。2年後、制限つきですが、日本の貿易が認められることになり、輸出が再開。しかし、輸出品には“占領下の日本製”を意味する“Made in Occupied Japan”または“Occupied Japan”のマークをつけることが義務付けられていました。これは、昭和26(1951)年にサンフランシスコ講和条約が締結されるまで、5年間ほど続き、翌年からは“Occupied”の文字はなくなり、“Made in Japan”に戻ったのです、占領下時代のオキュパイド・ジャパン製品は残っている数が少なく、現在ではコレクターの間で高く評価されています。

 

どの展示棚にも貴重な陶磁器がぎっしり詰まっていて見ごたえがあります

 

1965年頃アメリカに輸出された、瀬戸の優れた原型師によるノベルティ(半磁器)

 

その後、名古屋の陶磁器業は勢いを取り戻し、日本の高度成長とともに躍進。しかし、周辺諸国の台頭や円高などの影響を受け、輸出向け陶磁器業は徐々に衰退し、現在に至ります。名古屋の陶磁器文化、技術の継承を図るために、同館は存在し、文化を発信し続けているのです。

 

たくさん展示されているクリスマスのノベルティ

 

デコ盛り技法が施された製品も並んでいる「販売コーナー」

 

展示されている歴史的価値のある貴重な陶磁器を見終ったら、最後にぜひ立ち寄りたいのが販売コーナーです。陶磁器製品の数々が展示販売されています。もちろん名古屋で絵付けされたもので、主にヨーロッパに向けた輸出用製品のため、国内では流通していません。購入できるのはここだけなので、名古屋の陶磁器の歴史を知りその技術に魅了された人は、このチャンスをお見逃しなく。
日本の陶磁技術に名古屋独自の絵付け技法がプラスされ、海外の人々を魅了し続けてきた名古屋の陶磁器。明治・大正・昭和に輸出されていた当時の製品は、どれも日本人の私たちが見ると新鮮なデザインの色柄です。ノベルティ(陶器製人形)も豊富にあり、見ごたえのある名古屋陶磁器会館へ、ぜひ足を運んでみてくださいね。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

名古屋陶磁器会館は、かつて名古屋で陶磁器の輸出が盛んだった頃の陶磁器の数々を展示し、名古屋の陶磁器文化や伝統的な絵付け技法を後世に伝えている館です。昭和7(1932)年に、当時の名古屋陶磁器貿易商工同業組合の事務所として建設された建物内にあります。

[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

愛知県名古屋市東区徳川1-10-3
TEL 052-935-7841
地下鉄「名古屋駅」「栄駅」よりバス「赤塚」下車徒歩5分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://nagoya-toujikikaikan.org/

[/su_note]