遠くたって、また行きたくなる「小さな郷土玩具館 杜」

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東京都心から電車・バスを乗り継ぐこと約1時間半、緑豊かな場所に、個人の方が運営している「小さな郷土玩具館 杜」はあります。
広い敷地の民家の一角に建てられた郷土玩具館は、田舎に帰ってきたような懐かしい雰囲気で、入る前からワクワクする外観をしています。一歩中へ入ると、両サイドの棚の中に2重、3重にぎっしり詰まっている小さな郷土玩具が目に飛び込んできます。最初は、その量に圧倒されて言葉がでません。次に、スゴイところに来たかも…、コレクターの方の大切な場所へ入れていただいている、という気持ちが自然に湧いてきます。

 

のどかな町にぴったりの『小さな郷土玩具館 杜』

 

天井まである棚にぎっしり郷土玩具が詰まっています

 

館長の森田一郎さんは、40年以上も郷土玩具を収集している筋金入りのコレクター。郷土玩具に興味を持つようになったのは、20代の頃だそうです。うら若い青年が、なぜ郷土玩具?!と不思議に思いましたが、その理由を聞いて少し納得しました。
皆さんは、旅行に出掛けたとき、お土産に何を買って帰りますか?
たいていの方はお菓子ですよね。ところが森田青年は違いました。「残るものがいい」と思い、土鈴(どれい)を買ったのがきっかけでした。行く先々で土鈴を買い求めていると、あるとき、熱海と那須高原で同じものが売っていることに気がつきました。どこでも買えるものではつまらない。それから調べはじめ、その土地でしか手に入らない郷土玩具にハマっていったのです。

 

そもそも郷土玩具とは、木材に恵まれている山問部では「こけし」や「独楽(こま)」などの木地玩具、商家等で帳簿に使われてホゴ紙などが多く出る城下町では「張子人形」、良質の粘土に恵まれている田園地帯では「土人形」というように、地域の特性に合った暮らしの中から生まれたものです。それらに共通しているのは、子どもたちが災難に遭わないように、健やかに賢く育つように、病気にかからないようにといった親の願いが込められていることです。

 

年賀切手には毎年各地の郷土玩具が描かれているのをご存知ですか? 最初に描かれた昭和29年以降の郷土玩具と年賀切手を展示しています

 

鳥笛もこんなに集まると、各地の特徴がよくわかります

 

森田館長がコレクションしてきた郷土玩具は、古いものは譲ってもらったり、各地の骨董市やオークションで探し求めたりしたもので、新しいものは旅先で出合ったものや作家さんを訪ねて行って直接購入したものもあります。作家さんたちと交流してきた森田館長は、こんなものが欲しいとリクエストしてつくってもらったものもあるそうです。
このように、40年以上各地を旅行しながら郷土玩具と関わってきた森田館長ですが、後継者がおらず、せっかくの技術が途絶えてしまった地方の哀しい現実をたびたび目にしてきました。森田館長よりも郷土玩具をたくさんコレクションしている個人の方もいるそうですが、広く皆さんに見ていただくことで、日本各地の民族文化が途絶えることなく、後世にも受け継がれていくための一助になればと森田館長は考え、郷土玩具館をオープンしたそうです。

 

森田館長に館内を案内していただくと、「これは〇〇県○○市の〇〇さんのもので、〇代目。お父さんがつくったものも向こうにあって…」と、イキイキと作家さんの話や作品の特徴を話してくれます。作家さんの代弁者、また一人のファンとして感じる作品の魅力を来館者にわかりやすく伝えてくれるので、これまで知らなかった郷土玩具の世界に親しみが湧いてきます。

 

    賢い子どもの象徴「まんじゅう喰い人形」

 

近年は受験生のお守りとしても人気の「鷽(うそ)」。館長は3月初めにも九州へまだ持っていない鷽を買い求めに行ったそうです

 

入館してすぐの展示室は常設で、天井まである棚には、東北地方の木地玩具「えじこ」「ねまりこ」、全国各地の鳥笛(主に鳩笛と梟笛)、張子、土人形や年賀切手に描かれている郷土玩具が、きれいに並んでいます。
その中から1つ、館長が教えてくれたユニークな人形をご紹介します。おまんじゅうをパカッと2つに割って、両手に持っている子どもの人形、その名も「まんじゅう喰い人形」です。名前と姿から、単に食いしん坊の子どもの人形かと思ってしまいますが、それは大きな間違い。故事がもとになっている人形だそうです。
ある聡明な子どもに「お父さんとお母さん、どっちが大切?」と聞いたところ、子どもは手にしていたまんじゅうを半分に割って、「どっちのまんじゅうが美味しい?」と問い返して、両親への愛情は同じであることを示したというお話です。子どもが授かりますように、このような賢い子どもに育ちますように、という願いを込めて、以前多くの家庭でまんじゅう喰い人形は飾られていたそうです。館内には各地の大きさも様々なまんじゅう喰い人形が展示されていて、圧巻です。

 

奥には特別展示室があり、全国各地の雛人形、武者人形、天神人形、干支人形、張子のお面などを時季に応じて展示しています。取材に伺った3月末日は、雛人形が展示されていました。展示替えには4日ほど掛かるそうで、「もうお雛様は片付けて5月の節句の武者飾りを出したいけど、畑仕事もしているからなかなか時間がなくてね」と森田館長。そのおかげ(?!)で、ギリギリ間に合って、部屋いっぱいのお雛様を見ることができました。私たちに馴染みのある豪華な生地の衣裳を身にまとった衣裳雛(いしょうびな)は1つもなく、展示されているのは、土雛(つちびな)ばかり。衣裳雛は、公家や武家など経済的に余裕のある人たちが飾っていたもので、土雛は庶民(とはいえ、庶民の中でも裕福な人々)のものだったそうです。土雛は素朴な温かみがあり、大人になった今でも欲しくなる魅力がありました。

 

郷土玩具の魅力を皆さんに伝えている森田館長。話が尽きることはありません

 

入口脇にある“事務室兼応接室”で森田館長からお話を伺いましたが、その部屋にはコーヒーが用意されていて、来館者に館内の案内が終わった後お出しして、いろいろお話をするそうです。コーヒーをいただきながら館長の郷土玩具の話に耳を傾けていると楽しくて、リピートする方が多いというのも納得です。
ちょっと遠いですが、電車とバスに揺られてのんびりお出かけするにはピッタリの場所です。郷土玩具の世界を覗きに、出掛けてみてはいかがでしょうか。

 

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インフォメーション

杜は、全国各地の生活や習俗、風土を反映して生まれ、庶民に親しまれてきた郷土玩具の個人コレクション館です。主に、「木(紙)」と「土」を材料とした玩具(張子や土人形など)が展示されています。

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●アクセス

東京都西多摩郡日の出町大久野8616
TEL 042-597-0556
JR青梅線「福生駅」西口よりバス「日の出折返場」下車徒歩5分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www4.ocn.ne.jp/~hatobue/

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