景観の良さに一句詠んで投句したくなる「芭蕉記念館」

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日本で、世界で、もっとも著名な俳人・松尾芭蕉(1644~1694年)の資料を展示している「芭蕉記念館」が、芭蕉ゆかりの土地の東京・江東区にあります。芭蕉はもともと三重県出身ですが、1672年に江戸へ転居。1680年には現在の江東区に位置する深川の草庵に移り住み、草庵を拠点に活動し『おくのほそ道』などの紀行文を残しました。草庵は芭蕉亡き後も保存されていましたが、幕末から明治にかけて消失。1917年の台風の高潮の後、この地から蛙の形をした石“芭蕉遺愛の石の蛙(伝)”が出土したので、草庵のあったとされるこの地が「芭蕉翁古池の跡」と東京府に指定され、江東区は芭蕉の業績を顕彰するため芭蕉記念館を開館しました。
芭蕉記念館の門をくぐると、そこはもう喧騒とは無縁の世界。小さな日本庭園があり、芭蕉の俳句にちなんだ花や草木、池、滝が配されています。庭園築山には草庵を模した茅葺き屋根の祠(ほこら)と、有名な「ふる池や蛙飛こむ水の音」などの芭蕉句碑あり、訪れる人を芭蕉の世界へ誘います。

 

芭蕉が暮らした草庵のあったとされる地に建てられた「芭蕉記念館」

 

こじんまりとした館内ですが、一句ずつじっくり見ていくと時間が過ぎるのはあっという間

 

芭蕉記念館では現在、企画展「近現代の作家と文化人~詩歌の世界~」を4月21日まで開催しています。私たちがよく知っている作家や文化人が、実は俳句や短歌にも精通していたことに驚かされる展示です。
たとえば、作家では夏目漱石や尾崎紅葉、芥川龍之介、谷崎潤一郎といった面々。小説家として名を馳せた彼らの、あまりお目にかかることのない俳句や短歌を見ることができます。それぞれの小説を読んだときに感じた雰囲気が、字数の少ない俳句や短歌にも漂っているのが不思議です。また、歌舞伎界からは初代中村吉右衛門、二代目市川猿之助らの俳句が展示されています。舞台上の彼らとは違う、素の彼らを少しだけ垣間見たような気分です。

 

出土した“芭蕉遺愛の石の蛙(伝)”も展示されています

 

企画展「近現代の作家と文化人~詩歌の世界~」

 

同時開催されている、芭蕉の『おくのほそ道』を古裂で表現した「山鹿文子の布絵『おくのほそ道』」も必見です。江東区に長年在住していた山鹿文子さんが、自身の着物古裂で「布絵」の手法に挑んだもので、芭蕉記念館に寄贈された『おくのほそ道』全56作品のうち、選りすぐりの34作品が展示されています。俳句の文字だけを見てそこに詠まれている世界を想像していたところへ、山鹿さんのやさしい布絵がプラスされたことで、また新たな受け取り方もできる、見る人によってよりイメージが広がる作品になっています。

 

芭蕉の俳句に新たな魅力を生み出している「山鹿文子の布絵『おくのほそ道』」

 

芭蕉記念館の見どころは、これら館内の展示だけではありません。本館から徒歩3分ほどのところに分館があり、そこには見事な景色を堪能できる史跡展望庭園があります。隅田川と小名木川に隣接していて四季折々の水辺の風景を楽しめるので、川を悠然と眺める芭蕉像の横に並び、一句詠みたくなる風情があります。

 

さすが芭蕉記念館と思えるものがあります。それは、館内のほか記念館庭園、史跡展望庭園にも設置されている“投句箱”です。こちらに投句すると、1年に1度ホームページ上で芭蕉記念館の選による入選作品が発表されます。このほかにも、芭蕉記念館では芭蕉の命日を偲んで俳句の大会『時雨忌(芭蕉忌)全国俳句大会』も行っていたりと、俳句に親しむ人々に大きな目標となる場も提供しています。
展示を見て、庭園を散策して、何かひらめくものがあれば、訪れた記念に一句詠んでみてはいかがでしょうか。

 

庭園内にある“投句箱”

 

芭蕉像もある史跡展望庭園は、川沿いで眺めバツグン

 

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インフォメーション

昭和56(1981)年に開館した芭蕉記念館は、真鍋儀十翁等が寄贈した、松尾芭蕉及び俳文学関係の資料を展示するとともに、句会など文学活動の場を提供しています。年に約3回の展示替えが行われ、企画展や特別展を開催しています。

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●アクセス

東京都江東区常盤1-6-3
TEL 03-3631-1448
地下鉄新宿線・大江戸線「森下駅」A1出口より徒歩7分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.kcf.or.jp/basyo/index.html

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