おばあちゃん工芸士の手わざに夢中になる「有松・鳴海絞会館」

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部分的に生地を糸で括(くく)ってから染色し、その後で糸をほどくと、括っていた部分だけが染まらずに白く残って柄になる「絞り染め」。着物よりも浴衣(ゆかた)で、見かけることの方が多い絞りですが、夏祭りや花火大会でたまに絞りの浴衣を着ている人を見かけると、つい見とれてしまうほど、決まって和美人が多い気がします。もともとその女性がステキだからなのか、それとも絞り“マジック”なのか…。
今回は絞り染めの国内生産量の90%以上を占める有松・鳴海絞りの生産地にある「有松・鳴海絞会館」をご紹介します。

 

 

 

 

名古屋駅から名鉄電車で揺られること約20分。絞りの町として有名な有松に到着します。駅を背に3分ほど歩くと旧東海道の街並みが現れます。200年を経過した美しい日本建築の貴重な家並みが、昔の繁栄を雄弁に物語っています。

 

有松・鳴海絞りが誕生したのは、今から400年も前の江戸時代はじめ。旅人が故郷へのおみやげにと、絞りの浴衣やてぬぐいなどを買い求め、これが街道一の名産品となりました。その繁盛ぶりは北斎や広重の浮世絵にも描かれたほどです。

 

有松駅から5分ほど歩くと、旧東海道に面して有松・鳴海絞会館があります。入館すると、はじめに絞りの工程をまとめたDVDを見せてくれます。

 

(1) 柄(図案)の決定
(2) 紙に型を彫っていく型彫り
(3) 白生地に型をおいて絵を刷る絵刷り
(4) 絵の部分を糸で括る絞り加工
(5) 染色
(6) 括った糸をとく糸抜き
(7) 手湯のしにして製品にする仕上げ

 

これらはすべて分業で行われていて、一つの製品が出来あがるまでには何人もの職人さんの手を経ているのです。その中でも絞り加工は100種類にも及ぶと言われていて、しかも一人一芸!一つの製品の中にいくつも絞り加工が入っていると、その数だけ職人さんの手をリレーしてきたことになります。

 

DVDで絞りの技術を理解したら、次はこの会館のメーンイベントともいうべき、伝統工芸士さんによる括り作業の実演です。毎日2人の伝統工芸士さんが常駐されていて、その方が受け継がれた括り作業を披露してくれるのです。
絞りの一連の工程の中でもいちばん重要なのが括りの作業で、「指先の魔術師」「指が勝手に動いてくれるようになったら一人前」と言っていたDVDのナレーションが印象的でした。

 

 

 

 

階段脇に横長に敷かれた畳に、ちょこんと座っているおばあちゃんが二人。ニコニコ笑って、「ここに座って一緒に並んで写真を撮るといいわよ」と、慣れた感じで話しかけてきてくれた彼女たちこそ、伝統工芸士さんなのです。
伺った日は、「突き出し鹿の子絞」の中島鈴枝さんと、「三浦絞」の藤原すみ江さんのお二人がいらっしゃいました。「どこから来たの?」と話しかけてくれながらも、手は素早く動いていて、「おおぅ!まさに手が勝手に動いてる…」と思うほど、熟練の手わざ。それもそのはず、中島さんはナント92歳!有松にお嫁

 

「目も大切だけど、手の力もいる。ぐっと絞らないかんから」と、中島さんは教えてくれました。すると、すぐに横から藤原さんが、「絞りが弱いとそこから染料が入っていくからね」と連係プレーで補足説明をしてくれました。
昔は農家の閑散期にされていた括り作業ですが、パートで外に出る人が増え、括り作業を受け継ぐ人は少ないそうです。「お教室とかで習う人はいても趣味止まりで、仕事にまでする人はいないねぇ」と話してくれた藤原さんはどこか寂しげでした。

 

近年、日本のモノづくりはアジア諸国の安価な労働力に頼っていますが、絞りもそれに違わず、同じくアジア諸国で生産されているものもあります。海外産だから仕事が雑ということは決してなく、日本と同じくすべて手作業で行われていて、括り作業も丁寧に行われているそうです。

 

素人目にはわからなくても、自分がした仕事は見れば分かり、購入してくれた人が実際に着て見せにきてくれたりすることもあり、その時が何よりも嬉しいと言っていた中島さんと藤原さん。海外産と、お二人のような伝統工芸士さんの製品では、もちろん価格に大きな違いがあります。しかし、日本の誇るべき伝統産業を絶やさないためにも価格だけにとらわれず、職人さんの顔を思い出しながら、大切に長年付き合える品物を身にまとってみたくなりました。

 

絞り独特の立体的な模様は、肌に密着せず暑い時にも爽やかです。その着心地が良いからなのか、様々な絞り加工の浴衣が欲しくなるのか、絞りにハマって何枚も持っている人がいるほど、ディープな魅力が絞りにはあるようです。
展示販売スペースでは、浴衣だけでなくハンカチやスカーフ、巾着、バッグなど小物の絞り製品も驚くほど充実しています。
今年の浴衣の時期は過ぎてしまいましたが、来年は皆さん一緒に“絞り浴衣・和美人”を目指しませんか♪

 

 

 

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インフォメーション

有松・鳴海絞会館は、この地独特の絞り文化の保存と発展のために建てられました。2階には歴史的、工業的にも価値のある製品や資料が展示され、1階では多くの絞り製品を展示販売し、幅広く絞りを紹介しています。また、会館周辺の景観は、名古屋市の町並み保存指定第1号、全国町並み保存連盟の発祥地としても知られています。

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●アクセス

愛知県名古屋市緑区有松3008番地
名鉄有松駅より徒歩5分
052-621-0111
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.shibori-kaikan.com/

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