石をまたいで子宝祈願「梅宮大社」

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松尾大社を背にして川を渡り、10分程進むと左横手に梅宮大社が見えてきます。鳥居をくぐった先には昭和58年に京都府登録文化財に指定された随身門(楼門)、その左右には兵杖を帯びた2体の神像、左に豊磐間戸命(トヨイワマドノミコト)、右に奇磐間戸命(クシイワマドノミコト)が格子の内側に安置されています。更に上に視線を転ずれば屋根下に30程の酒樽が、そして抜けて入った取水社前にもズラリ盛大に60程の酒樽が並んでいました。お酒の神様を祀る松尾大社でも境内にたくさんの酒樽がありましたが、類する梅宮大社でもお酒に関わる伝説信仰が数多く存在しているようです。

 

梅宮大社楼門。元禄13年(1700年)に再建されました

 

全国の酒造家から奉納された酒樽

 

およそ1300年の歴史を誇る梅宮大社。橘諸兄(たちばなのもろえ)の母、県犬養三千代(あがた いぬかい の みちよ)が山城国綴喜群(つづきぐん、つづきのこおり)井出寺の中に橘氏一門の氏神として初めて祀ったのがその創始とされています。
その後、光明皇后や牟漏女王(むろのおおきみ)によって奈良の都、木津川上流のかせ山へとその所在を次々と転じ、最終的には嵯峨天皇の皇后橘嘉智子(たちばなのかちし)の手により現在の地に遷座されました。祭神は本殿に4柱。(ここでは省きますが相殿にも4柱)
酒解神(さかとけのかみ)である大山祇神(おおやまずみのかみ)、酒解子神 (さかとけこのかみ)である木花咲耶姫命(このはなのさくやひめのみこと)、大若子神 (おおわくこのかみ)である 瓊々杵尊(ににぎのみこと)、小若子神 (こわくこのかみ)である彦火火出見尊(ひこほねでみのみこと)。特に大山祇神にあっては農業山林鉱山航海の守護神であるとともに日本最古の醸造の祖神として全国の酒造家から厚い信仰を集めてきました。

 

『木花咲耶姫命が彦火火出見尊を御安産になったのを非常に喜び給い、狭名田(さなだ)の茂穂を以て「天甜酒(あめのたむさけ)」を造ってお祝いなされた』

 

日本書紀に記載の上記伝説は、穀物を用いて酒を醸した日本酒醸造始まりの神話として古来より多くの人により語り継がれてきました。大山祇神を酒解神、木花咲耶姫命を酒解子神と称する所以もここに端を発しているようです。

 

本殿は楼門同様元禄13年に再建され、昭和58年に京都府登録文化財に指定されています

 

祓所。扉を抜けた先にまたげ石があります

 

またこの神話に関連し、木花咲耶姫命が懐妊した際にちょっとした夫婦間の悶着がありました。一夜で懐妊した木花咲耶姫命に対し、夫の瓊々杵尊が「他の子のものでは?」と懐疑をかけるのです。これに妻は「天津神であるあなたの本当の子なら何があっても無事に産めるはず」として、産室に火を放ち燃え盛る炎の中で無事、彦火火出見尊を安産したと言い伝えられています。その神話はやがて梅宮大社が血統相続守護の神を祀る社として尊崇される元にもなりました。

 

取材ということで許しを得て、近づいて撮影させていただきました。夫・妻の順に3回またぐと子が授かると言われています

 

浜神苑入口

 

ところで、梅宮大社には授子安産守護の象徴ともいえるものが存在します。それは本殿奥の「またげ石」。平安期、子に恵まれなかった檀林皇后が、この石をまたいで祈願するや仁明天皇を授かった故事を持ちます。以来、この石は「血脈相続の石」として信仰を集め、今でも子宝に恵まれない夫婦が全国より子授けの祈願へと訪れるのだそうです。本来、夫婦共々の祈祷でない限り、またげ石への案内は行っていないようですが、今回取材ということで特別に間近で拝見させていただきました。水で手を清め、本殿脇の小さな扉から奥へ入ります。入ると目の前に小さな社、横目に大きな本殿を抜けた先にひっそりとまたげ石は存在します。連なる葉の隙間から一筋の細い光がスッと石に注がれ、周囲も常とは異なる引き締まった空間が広がっていました。さらに敷き詰められた白砂に散ったピンク色の花弁、それを背景に雫で輝く寄り添う二つの小さな石がくっきりと存在感を際立たせてもいて、その美しくも神秘的な気配に誰もが必ず圧倒されてしまうことでしょう。なお、このまたげ石、本殿外側からでも見ることは出来ますので、お立ち寄りの際は是非ご覧になってみてくださいね。

 

神苑は広大で、東神苑、北神苑、西神苑に区分けされています

 

ロウバイの花。雨に打たれてやや垂れ気味です

 

さて、この季節、境内の庭「神苑」においては息づく冬の花がとても綺麗とのこと。中でも1月から2月にかけて黄色い花を咲かせるロウバイは一見の価値ありだそうです。
つぼみから抽出する蝋梅油(ろうばいゆ)は薬品としても使用されていますね。また、ロウバイ以外にも数多くの花々が四季に応じて鮮やかな彩りを与え、春には梅やツツジやカキツバタ、夏にはアジサイ、睡蓮、花菖蒲、そして冬には他に早咲きの梅などが花を咲かせます。特に梅は創設以来、梅宮大社の神花となっており、現在では実におよそ40種、550本の梅の木が植えられていると言います。春の神苑も冬とは違った格別の表情を見せてくれることでしょう。

 

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アクセス

京都府京都市右京区梅津フケノ川町30
TEL 075-861-2730
阪急電車嵐山線 松尾駅下車徒歩約10分

http://www.umenomiya.or.jp/
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