若宮15社を巡る「春日大社」

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奈良公園の広大な敷地に参道が伸びているためか、陽を受けて艶めく緑の木々からゆったりとした足取りで鹿が道を横切って行きます。その往来に多くの参詣者は足を止め、シャッターを切り、その毛並を撫でつつ煎餅をその口元へ持っていく微笑ましい姿はおよそ1.2キロ先にある二ノ鳥居に至るまで散見されます。ところが二ノ鳥居を抜けると様相は一変。木々は深みを増して森となり、社と脇に連なる苔むす燈籠が辺りを一種荘厳な張りつめた空気で満たしていきます。まさに神域に入ったかのような感覚、とでも言いましょうか。そんな厳かな心持で石段を登っているとようやく視線の先に、鮮やかな朱塗りの南門がその姿を現します。

 

参道。ここで見る鹿には常ではないオーラが漂っています

 

南門。高さは12mあり春日大社最大の門

 

社伝によると春日大社の創始は、平城京鎮護を願い、御蓋山(みかさやま)の山頂浮雲峰(うきぐものみね)に鹿島神宮から武甕槌命(たけみかづちのみこと)を迎え、そののち神護景雲2年(768年)に御蓋山中腹に造営した社殿に、香取神宮の経津主命(ふつぬしのみこと)と、枚岡神社の天児屋根命(あめのこやねのみこと)、比売神(ひめがみ)を併祀したことを始まりとしています。藤原氏の氏神であることから藤原摂関家の繁栄に併せて当社の権勢も高まり、時代を通じて武家と公家の手厚い信仰も集めたことで、今ではおよそ3000ある春日神社の総本社となりました。

 

その本殿(大宮)には先に挙げた4柱がそれぞれ独立した4つの御殿に祀られています。
残念ながら直接それらの御殿を見ることは出来ませんが、特別参拝の受付を済ませれば中門の前から礼拝することが出来ます。また受付をしていなくとも少し遠目の幣殿・舞殿の前からも参拝は可能ですので是非拝んでいきましょう。

 

林檎の木。神事が行われる林檎の庭に面し、およそ800年前に高倉天皇の手により献えられました

 

地中門・御廊。約10メートルの高さの中門から左右に約13メートル、鳥が翼を広げたように御廊が延びています

 

春日大社と言えば厄除け、交通安全のご利益が有名でしょうか。後者に関しては、武甕槌命が御蓋山へ無事降りた際、乗っていた生き物が白鹿であったというお話があります。それに由来し、今でも鹿は春日大社の重要な神使いとされているようですね。

 

奥へと進むと、本殿北西隅に末社の多賀神社が建っています。祭神は伊弉諾命(いざなぎのみこと)で、参ると延命長寿のご利益あり。過去にあっては平安期から鎌倉期にかけて活動した高僧俊乗房重源(しゅんじょうぼうちょうげん)が東大寺大仏殿を再建する際に寿命を頂いたという言い伝えが残っています。

 

社頭の大杉。周囲8.7メートル、高さ25メートルで、樹齢はおよそ800年から1000年に達しています

 

多賀神社

 

多賀神社の隣には摂社の椿本神社が建ち、その祭神は角振大神(つのふりのおおかみ)。身の周りのさまざまな災いを祓い退けるとても力の強い神様で、参ると魔除けのご利益があるとされています。なおその社の名について、椿の木が昔この付近にあったことに由来しているようです。

 

ちなみに本殿には上記2つを含めた総計15の摂社・末社が存在しています。しかし春日大社境内全域に目を転じてみれば、その摂末社の数は何と61社にものぼります。中でも人気なのが、境内南側に所狭しと並び立つ15の摂末社。それぞれの社には、人が生涯を送る中で遭遇する多くの難所を守ってくれる神様が祀られていて、参ることでたくさんのご利益にあやかれます。そうした噂が人気を引きつけ、いつからかこの道を歩むことは「若宮15社めぐり」と呼ばれるようになりました。場所は本殿南門から出て、両側に石灯籠が立ち並ぶ御間道(おあいみち)を真っ直ぐ言った先。間もなく第1番の若宮神社が見えてくるので、順に道に沿って第15番の夫婦大國社(めおとだいこくしゃ)まで巡拝しましょう。

 

若宮神社の祭神は天押雲根命(あめのおしくもねのみこと)。天児屋根命と比売神の御子神で、長保5年(1003年)に比売神の御殿に姿を現したとされています。しばらくは御殿に祀られていたのが平安末期に相次いだ洪水飢饉で、保延1年(1135年)には本殿と同じ規模の御殿を現在地に造営し、遷宮しました。毎年12月17日にはおよそ880年途切れることなく催されてきた「春日若宮おん祭」で境内は賑わいます。

 

御間道。大宮と若宮の間にある道なので「おあいみち」との名がつけられました

 

夫婦大國社

 

夫婦大國社は日本で唯一、夫婦の大國様(大国主命と須勢理姫命)を祀っている社。夫婦円満、家内安全、縁結びのご利益があることから、男女連れだっての参拝者が散見されます。社の前には願いの記されたハート型の絵馬がたくさん下がっていましたが、夫婦大國社では古くから絵馬の代わりに甲福杓子を奉納する習慣もあり、それはどうやら須勢理姫命の手に持つ杓子に由来があるようです。11月16日の例祭に加え、甲子の日には甲子祭が執り行われます。

 

その他、若宮15社を巡ることで、子孫繁栄、金運守護、心願成就に商売繁盛などのご利益にあやかれます。一之鳥居から、若宮神社に辿りつくまでには相当な距離を歩かなければいけませんが、ここは是非とも疲労を押しきり、15社すべてに足を向けて欲しいと思います。

 

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アクセス

奈良県奈良市春日野町160
TEL 0742-22-7788
奈良交通バス(市内循環外回り)「春日大社表参道」下車 徒歩約10分
http://www.kasugataisha.or.jp/index.html
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