緑豊かな八幡の自然とエジソン「石清水八幡宮」

0

「われ都近き男山の峯に移座して国家を鎮護せん」
上記は、貞観元年(859年)に行教和尚(ぎょうきょうわじょう)が宇佐八幡宮にて受けたご神託で、これに従い翌貞観2年(860年)に清和天皇が、男山の峯に本殿を建立したのが石清水八幡宮創建の端緒だとされています。その神託が示すように石清水八幡宮本殿は山の上(上院)に鎮座しています。しかし山の麓(下院)にも荘厳な頓宮(とんぐう)を始め、五輪塔、摂社の高良神社が建っていることから山頂へと通じるケーブルカー(有料)のない頃は下院を回って満足し、山を登らずにすぐ帰ってしまう参拝者も少なからずいたようです。また徒然草第52段には仁和寺の法師が高良神社を本宮と勘違いしてそのまま社を後にしたという有名なお話もあるほどですが、どうせ参拝するなら準備万端整えて、下院とは別種の趣流れる上院の壮観な境内も堪能してほしいところです。

 

摂社高良神社境内にあるタブの木。古来より厄除の木として厚く信仰されてきました

 

頼朝松。その先に二ノ鳥居が建ちます

 

頓宮を抜け、高良神社と樹齢700年を誇るタブの木を横目に歩を進めるとやがて石造りの二ノ鳥居が見えてきます。そして同時にここが山への入り口ともなっているようです。
脇には太い松の木が斜めに参道へせり出し大きな枝葉を広げていました。実はこの松の木、別名「頼朝松」とも称されるほどに源頼朝とのゆかり深く、「男山考古録」によれば公私併せて幾度も当宮を参詣した頼朝がこの地に6本の松を奉納したとされています。残念ながら昭和22年にはその6本のうち唯一残っていた松が落雷で焼失してしまいますが、昭和30年に再び奉納された現在の2代目「頼朝松」が実に堂々とした雄姿で、山へと入る参拝者の背中を力強く後押ししてくれます。

 

七曲りと呼ばれる参道

 

一ツ石。本殿へ続く長い参道の中途にあります。百度参り・千度参りの起点になっていたことから「お百度石」とも呼ばれています

 

傾斜し曲がる幾重もの石段を登り、真っ直ぐ峯へと続く参道を抜けるとようやく三ノ鳥居が見えてきます。標高は143メートルですのでそれほど登るに過酷というわけではありませんでしたが、やはり日頃動き慣れていない身体には少しこたえます。それでも心地良い疲労であると感じられたのはひとえに周囲の澄んだ空気と鮮やかな緑が癒しとなったからでしょうか。実際、長い男山の歴史に育まれた豊かな森林には800種以上もの植物が生育していると言います。サカキにエノキにヤブツバキ、ムクノキ、ベニシダ、ナナメノキ、さらに上院境内へ入ってもキンモクセイやミヤギノハギ、キタヤマスギなどバリエーション豊かな植生が馬場先と称する石敷の参道脇に彩りを与えています。とりわけ本殿南総門脇に聳える巨大なカヤの木は圧巻の一言でしょう。根回り7メートル、樹冠30メートル、高さはおよそ20メートルにも達し、その樹齢は700年を超えているのだそう。またカヤになるその実は石清水祭の神饌(しんせん)として、加えて初釜式においては新春の蓬莱山飾りとして用いられているようです。

 

右にカヤの木、左に南総門

 

本殿。御祭神として東御前に神功皇后、中御前に応神天皇、西御前に比咩(ひめ)大神を祀っています

 

別の巨木にも着目してみましょう。南総門をくぐると眼前に1150年余の歴史を誇る八幡造りの本殿が迫ります。その右脇を裏手に向かって進んでいくと日の陰る土の上、太く根をおろし幹には縄を結んだいかにも霊力に満ち満ちた巨木が現れます。これは「おがたまの木」と呼ばれ、神様をお招きする樹木として広い社には必ず据えられるのだそう。成る実は赤く、鈴の形に似ていることから、神楽の鈴が作られたとの説がありますが、より卑近な例ではおがたまの葉は一円硬貨に描かれた葉っぱの素案でもあったようです。

 

おがたまの木

 

楠木正成公の楠

 

おがたまの木より本殿を挟んだ対角向かいには、京都府指定天然記念物のクスノキの巨木が聳えます。根回り18メートル、樹冠40メートル、そして高さが30メートルにも及ぶこの木は「洛陽名所集」によれば「戦勝軍利を祈り、楠千本を八幡山にうへけり」とあるように建武元年(1334年)に必勝祈願参拝の際に楠木正成が奉納したものだとされています。
樹齢700年を誇り、その他、御神木として保護されるクスノキの中でも最大級のものですので本殿へ参拝なされた際は一度ご覧になってみてください。

 

エジソン記念碑。毎年2月11日にはエジソン生誕祭、命日である10月18日にはエジソン碑前祭が斎行されます

 

谷崎潤一郎文学碑。展望台の隅にひっそりと建っています

 

ところで、当宮境内に息づく八幡の真竹(まだけ)がエジソンの研究に多大な貢献をなしたのはご存知でしょうか。明治12(1879)年に炭化木綿糸をフィラメントとする白熱電球を発明したエジソンはより長持ちする電球をと研究を続け、紙や糸や繊維などを基に各種のフィラメントを作っては電球の試作を繰り返していました。そして試作すること6000種、中から寿命が飛躍的に延びたのが竹であることを発見するやその究極を求めて即座に研究員を世界中へ派遣し、やがて届いた多くの竹の中から男山に生える八幡の真竹をフィラメントの材料として採用しました。一説によればその真竹を使用した電球は1000時間以上(それまでは40時間が限界)も輝き続けていたと言います。まさに偉大な才能と優れた材質の奇跡の邂逅、そして偉業。文明の飛躍的な進歩の裏には石清水八幡宮の雄大な自然の力が関わっていたのですね。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
アクセス

京都府八幡市八幡高坊30
TEL 075-981-3001
京阪電車「八幡市駅」から男山ケーブルにて「男山山上駅」 下車徒歩5分

http://www.iwashimizu.or.jp/top.php
[/su_note]