玉照姫にあやかり良き縁を願う〜名古屋市南区・笠寺観音

0

尾張四観音の一つ、笠寺観音(かさでらかんのん)。真言宗智山派の寺院で、正式名は天林山笠覆寺(てんりんさんりゅうふくじ)と言います。尾張四観音とは、名古屋城を中心に尾張地域の四方に位置する「笠寺観音」「甚目寺観音(海部郡甚目寺町)」「荒子観音(名古屋市中川区)」「竜泉寺観音(名古屋市守山区)」の四つの寺院のこと。尾張を守護する観音様として古くから崇敬されてきました。

 

寺のはじまりは今から1200年以上も前、天平5年(733)<天平8年(736)の説も>にさかのぼります。浜辺に1本の浮木が漂着し、夢でお告げを受けた善光上人が、その木を刻んで十一面観音菩薩像をつくりました。観音様を安置するために建立した堂が、現在の笠寺観音です。当初は、天林山小松寺と呼ばれていました。

 

しかし、建立から百数十年を経て小松寺の堂は朽ち、観音様は風雨にさらされたままになっていました。そこに現れたのが、長者にこき使われていたという女人でした。ある雨の日、ずぶ濡れになっていた観音様を見て可哀想に思った彼女は、自分が冠っていた笠をとり、観音様にかぶせたのでした。後日、鳴海に寄った、都の貴族、中将・藤原兼平(ふじわらのかねひら)公がその心優しき娘をみそめ、妻として迎える事となりました。彼女はその後『玉照姫(たまてるひめ)』と呼ばれました。二人はこの巡り合わせを感謝し、大きな堂を建てます。そこに笠をかぶせた観音様を祀ったことから、笠をかぶった寺、即ち笠覆寺と名が改められたのでした。

 

門をはじめ、山内の堂はどれも歴史を感じさせ、落ち着いた空間が広がります。
まずは、御本尊の十一面観音が祀られている本堂へ。玉照姫の話の通り、笠をかぶっています(秘仏のため、御開帳は8年に1度。次回は平成27年(2015)4月)。厄除け、健康、商売、結縁など、御利益はさまざま。そして手を合わせたあとに振り返ると、小さなお地蔵様たちが並んでいるのが目に入るでしょう。このお地蔵様たちは「おもかる地蔵(抱き地蔵)」といって、抱き上げてお参りするという珍しいものです。身をかがめ、そっとお地蔵様を抱き上げながら、心の中でお願いごとをします。続けてお参りするうち、願いによって腕に感じる重みの違いが分かるようになってくるそうです。

 

本堂。普段は「お前立ち(身代わりに立つ観音様)」の姿を見ることができる

 

おもかる地蔵。奥に並んでいる小さなお地蔵様がそれ。静かにそっと抱いてください

 

玉照姫と兼平公が祀られている玉照堂は、本堂に向かって右手前にあります。平成14年(2002)に再建されたばかりなので、まだ新しくてきれい。近づいて堂の中をのぞいてみると、かわいらしい夫妻の像が並んでいるのが見えます。言うまでもなく、ここでは縁結びや交際円満などをお願いしましょう。

 

玉照堂。本尊の観音様とあわせてお参りを

 

山門(仁王門)。大きな仁王様(金剛力士)が左右に立ち、寺の入口を守っている

 

山内には、いくつかの堂が点在しています。南のほうにある「鐘楼(鐘つき堂)」の梵鐘は鎌倉時代、阿願上人によって作られたもので、「尾張三名鐘」の一つ。愛知県の指定文化財でもありますが、毎年大晦日には、参拝者も除夜の鐘をつくことができます。鐘楼の近くには、お稲荷様を祀った「笠寺稲荷」、水の守護尊(守り神)を祀った「白龍社」、やはり水の守護尊で技芸の守護尊でもある「弁財天」があるので、ぜひ回ってみてください。

 

鐘楼。尾張三名鐘には他に「甚目寺観音」と知多郡美浜町の「大御堂寺(野間大坊)」がある

 

笠寺稲荷。小さなかわいらしい稲荷なので、見過ごすことがないように

 

また、西門のほうには「行者堂」「延命地蔵堂」「白山社(白山大権現:『見ざる聞かざる言わざる』の『三猿』も祀られている)」、「六地蔵堂」、阿弥陀如来を祀った「多宝塔」などが並んでいます。山内はそれほど広くありませんが、一つひとつ回っていくと1時間ぐらいかかるかもしれません。しかしその間はとても穏やか、充実した時間を過ごせることでしょう。

 

多宝塔。阿弥陀如来を祀った二重の塔(現在は保管上の理由で外部に寄託中)

 

六地蔵堂の、六種の姿をしたお地蔵様。すべての生きる者たちの苦悩を救おうとしてくださる

 

笠寺観音では、毎月「6」のつく日(6日・16日・26日)が祈願日で、同時に青空市「六の市」を開催(雨天中止)。また、毎月18日の観音縁日にはフリーマーケットも開かれ(雨天中止)、多くの人でにぎわいます。地名にもなっている笠寺は、旧東海道の鳴海宿(緑区)と宮宿(熱田区)の間に位置し、笠寺観音の門前町として栄えてきました。今では商店街となりましたが、往時の面影が残っており、さらに周辺には見晴台遺跡や笠寺一里塚、高射砲陣地跡など、さまざまな時代の遺跡があります。時間があれば、ぶらぶらと町歩きをしてみるのもおすすめです。

 

放生池から山門を見たところ。池にはたくさんの亀が生息しており「亀の池」とも呼ばれている

 

西門。山門、本堂、多宝塔とともに、名古屋市の都市景観重要建築物等に指定されている

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
アクセス

名古屋市南区笠寺町上新町83
TEL 052-821-1367
名鉄名古屋本線「本笠寺」駅より徒歩3分、JR東海道本線「笠寺」駅より徒歩20分
http://kasadera.jp/
[/su_note]