源平ゆかりの古刹 ~敦盛の好んだ青葉の笛~ 「須磨寺」

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須磨寺の創建は仁和2年(886)聞鏡(もんきょう)上人が淳和天皇の勅命を受けて当地に聖観世音菩薩を本尊として安置したのが始まりとされています。正式名称は上野山福祥寺ですが、古くから「須磨(すま)寺」の名で親しまれてきました。

 

龍華橋と仁王門

 

そのゆえはこの機内の西の隅(すみが訛ってすま)に位置する須磨の地が、古来より名高い景勝地であり全国の参詣者がここに足を運んだ由。実際、正岡子規が寺を訪れて歌を詠んでいます。また山本周五郎は寺を題材に筆を起こしています。加えて松尾芭蕉や与謝蕪村らも句を詠んだこともあって、現在では総計24もの碑文が寺の境内各所に据えられています。

 

松尾芭蕉の歌を見てみましょう。

 

・須磨寺や ふかぬ笛きく 木下闇

 

寺の木下闇にとどまっていると、吹いてもいないのに笛の音が聞こえてくるような気がする、といった意味でしょうが与謝蕪村の歌を見てみると

 

・笛の音に 波もよりくる 須磨の秋

 

芭蕉同様笛にまつわる歌を詠んでいますね。笛の音と須磨寺が何がしかの縁で結ばれているのでしょうか。ふと視線を上げると蕪村の碑文の先、広がる源平の庭に馬に跨る二体のモニュメントが対峙していました。右が熊谷直実で左が平敦盛。一ノ谷での一騎打ちの場面を再現しているようですが、由緒書によればこの場面は平家物語の中でも最も悲しくあわれを誘うシーンであるようです。

 

寿永3年(1184)2月、一ノ谷に陣を構えた平氏を討つため,その山上に出た源義経は、一気に山肌を駆け下って平氏を背後から急襲(鵯越えの坂落とし)します。これに成すすべなく惨敗した平氏は撤退し、味方の船を求めて海岸へと殺到。背後から猛追していた熊谷直実は、その中から沖へと馬を泳がせている一人の若武者を見つけ「後ろを見せるとは卑怯なり、返せ、返せ」と呼んだところ、その若武者は馬を陸へと戻し、浜辺で一騎打ちと相成りました。

 

源平の庭。庭の端には光源氏が手植したものといわれる若木の桜があります

 

結果勝利した直美は早速首をとるべく若武者の顔を引き寄せたが、その表情がとても若くて美しい面差しであったため、名前を尋ねてみるも、名乗らず逆に直美が名乗れば「良き名前なり、我が名は誰かに聞けば知っている者もあろう」と言って、首を差し出しました。

 

しばらく躊躇していた直美でしたが、部下の手前もあって涙ながらに若武者敦盛(享年17歳)の首をはねました。その折、敦盛の腰の笛に気づいた直美はその日の朝、陣中で聞いた美しい笛の音色がまさにこの敦盛が奏でた笛の音であったことに気づくと、殺しあわなければならない戦の世に無常を感じて後に出家を決意します。

 

直美に出家を決意させたその笛が、小枝の笛と呼ばれる通称「青葉の笛」。芭蕉や蕪村が歌に詠んだ他、能の「敦盛」や歌舞伎の「一谷嫩軍記」などの題材にもなりました。

 

なお「源平ゆかりの古刹」としての須磨寺は、上記の青葉の笛以外にも多くの源平史跡が境内に据えられています。

 

例えば「弁慶の鐘」は一ノ谷の合戦の折、弁慶が山田庄安養寺からこの鐘を刀の先に掛けて運び、陣の鐘の代用にしたものといわれています。また「敦盛公首洗いの池」は敦盛の首を洗い清めた池といわれ、「義経腰掛けの松」は一ノ谷の合戦の後、義経はこの松に座って敦盛の首と笛を実検しました。その敦盛の首は「敦盛公墓所(首塚)」に祀られています。ちなみに胴体は須磨浦公園にある「敦盛塚」に祀られているようですね。

 

弁慶の鐘。この鐘は一の谷合戦八百年記念に複製した新鐘で、旧鐘は宝物館に納められています

 

敦盛公首洗いの池と義経腰掛けの松

 

敦盛公墓所(首塚)

 

全国的には「源平合戦ゆかりのお寺」なのでしょうが、意外にも地元の人にしてみれば「楽しく笑える不思議なお寺」の評もあるようです。その意は境内を歩けばすぐに分かりました。例えば直美と敦盛が対峙する源平の庭の外れには「七福神マニコロ」と称する不思議な亀の像が据えられています。これは恵比寿や毘沙門天など神仙七人を集めたもので、亀の背にある七福神を回しながら拝めば福・徳・壽の幸運がもたらされるようです。

 

七福神マニコロ

 

また「弁慶の鐘」の横には長い白髭をたくわえた、ひどく頭の長い翁の像が据えられています。これは「福禄寿尊」と呼ばれ、名の”福”は幸せ、”禄”はお金、”寿”は長生きを現し、福禄寿尊の頭を笑いながら撫でるとボケ封じに、また体を撫でるとガン封じになると言い伝わっています。

 

福禄寿尊

 

更には「敦盛公墓所(首塚)」のそばにも「五猿」と称する様々な表情を浮かべた猿が据えられています。それぞれ見ザル、言わザル、聞かザル、怒らザル、見てごザルで、頭を撫でると手が動きます。何のご利益があるかは分かりませんが、見て即座に心が和んだのはこの妙な猿に得も言われぬパワーが宿っているからでしょうか。

 

五猿

 

訪れる前は源平の史跡にばかり気持ちは向かっていましたが、実際境内を歩いてみて印象はガラリと変わってしまいました。みなさんも源平合戦ゆかりのお寺を堪能した後は、ぜひ楽しく笑える不思議なお寺の側面も堪能してみてください。

 

ぶじかえる。目玉と首が回るカエル。ビックリしたい人は目玉を、借金で困っている人は首を回してください

 

正岡子規句碑。暁や 白帆過ぎ行く 蚊帳の外

 

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アクセス

兵庫県神戸市須磨区須磨寺町4丁目6−8
TEL 078-731-0416
JR「須磨駅」下車 徒歩12分
山陽、阪神、阪急電車「須磨寺駅」下車 徒歩5分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.sumadera.or.jp/index.html
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