清和源氏発祥の地「多田神社」

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当時摂津守であった源満仲は次に居住する新しい館をどこに築くべきか思い悩んでいました。思案してもよい答えが出てこなかったので、思い切って住吉大社に参篭し、神のお告げが降りてくるのをずっと待っていたところ、その27日目に「北に向って矢を射よ。その矢の落ちる所を居城とせよ」との宣託を受けたので満仲は早速外に出て矢を放ちます。

 

しばらくして矢の落ちた場所に赴いてみると、大きな沼のある場所に九つの頭を持つ巨大な大蛇(九頭竜)が暴れまわっていました。見るとその目には満仲が放った鋭利な矢が深く突き刺さっているではありませんか。矢とはいえ当たりどころか悪かったのでしょう。瀕死の状態で暴れまわっていた九頭竜もやがては動きが鈍くなり、沼のほとりに体を横たえると、そのまま息を引き取ってしまいました。程なくじわりと九頭竜の体内から水が流れ出します。その水は周辺の土地に潤いを与え、界隈の多くの田んぼをとてもよく肥やしたのだとか。この地は今でも「多田」の名を冠し存在していますが、裏にそうした興味深いエピソードが影響を与えていることを思うと、単なる地名にも並みならぬ興味が喚起されてきますよね。

 

南大門。元は両脇に仁王像がありましたが、神仏分離令によって満願寺山門に移転されました

 

なお満仲が開いたこの多田の地は古来より、ここにて勢力を蓄えた源氏が頻繁に模擬軍事訓練を重ね、武士団としての武力と組織力を磨いてきた拠点でもありました。そして満仲亡き後も廟所や遺像を祀る堂宇が数多く建てられ、後に源氏が政権を握った鎌倉時代には、清和源氏発祥の地として殊更重要視された経緯を持ちます。室町に入っても源氏の嫡流であるところの足利尊氏からは厚い尊崇を受けて、多田神社は大量の社領の寄進を受けています。戦国時代には織田信澄の手により堂宇の悉くが大きなダメージを受けてしまいましたが、江戸時代に入ると、常より清和源氏の流れを汲む血統だと主張してきた徳川家綱が多田神社の復興に着手、寛文7年(1667年)には日光東照宮を建てた建築家諸々の手により大規模な再建工事が行われました。その伽藍の荘厳さは今なお多田神社をして関西の日光と称されるほどに、人々から多大な注目を集めたようです。

 

参道

 

隋神門。三楝造と呼ばれる伝統的な手法により建てられた八脚門

 

拝殿

 

本殿には御祭神として創建の主である源満仲をはじめ源光、源頼信、頼義、義家の5柱が祀られています。上にも挙げたように当本殿は寛文7年に家綱の手により再興、桃山時代の姿をそのまま継承した造りとして非常に貴重な堂宇です。が、それ以上に満仲と本殿の関わる伝説としては多田院鳴動という名の不思議な現象をまずは紹介しておく必要があるでしょう。

 

案鬼首洗池。源頼光が大江山の鬼退治をした折、この池で鬼の首領である酒呑童子の首を洗ったと言われています。本殿横にあって禁足地

 

多田院鳴動とは「多田院の霊廟から源氏一門を護るため、大地を揺るがす鳴動に転じて国内の安否を知らせるだろう」という満仲の遺言にもある超常的な現象をさします。実際、天下の大事が起きる直前には、幾度も満仲の祀られた廟所が激しく揺れたといいます。その後は源頼朝の時代に1回、また室町時代から戦国時代にかけては計8回にわたる多田院鳴動が観測されました。死してもなお満仲の日本を思いやる思念にはまことに驚嘆する他ありません。

 

「田尻稲荷神社

 

招霊木(おがたまのき)。霊を迎えるのでオギタマ(招霊)から転じたと言われています。本殿横にあって禁足地

 

さて、多田神社は古来より参ることで、類まれな勝運のご利益にあやかれる社としても人気を集めてきました。源氏の流れを汲む足利氏や徳川氏といった有名歴代将軍の遺骨が多田神社に分骨されている事実も、関西圏のみならず、全国各地からの厚い信仰を集める所以をつくりだしているのでしょう。そう考えれば、殿内二の宮に祀られている源頼光の大江山鬼退治伝説や土蜘蛛退治などの武勇に富んだお話も、勝ち運にご利益ある多田神社の今を形作る伝承として非常に興味深いものに映ってきますよね。

 

六宮所。伊勢、賀茂、稲荷、春日、住吉、熊野の神々を祀っています

 

無患子(むくろじ)。樹齢は定かではありませんが、一説には1000年にも達するとも言われています

 

宝物殿。源家の宝刀である鬼切丸をはじめ、甲冑、刀剣、書画に古文書等を数千点所蔵しています

 

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アクセス

兵庫県川西市多田院多田所町1-1
TEL 072-793-0001
能勢電鉄妙見線 多田駅下車徒歩約15分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.tadajinjya.or.jp/
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