新潟県長岡市にある「駒形十吉記念美術館」では、12月14日(予定)まで『開館20周年記念 駒形十吉が敬愛した作家たち』を開催しています。
愛知県豊田市の鞍ヶ池アートサロンで、12月14日(日)まで「日本の美 − 伝統と近代」展が開かれ美術館の名前にもなっている駒形十吉(1901-1999)氏は、長岡市で生まれ育ち、北越産業無尽(現在の大光銀行)の創業者の一人であり、新潟総合テレビ(NST)の二代目社長を務めるなど、長岡のみならず新潟経済界をけん引した実業家として知られる人物です。11人の子どもの10番目に生まれた駒形氏は、兄が日本画家の三輪晁勢を後援していたこともあり、美術や作家に触れる機会が多い環境で育ちました。その影響もあってか、戦前から地元の商人らとともに美術愛好会「風羅会(ふうらかい)」を結成し、楠部彌弌や板谷波山、堆朱楊成らを後援していました。実業家の一方、美術愛好家としての側面も持っていた駒形氏は、1964(昭和39)年、国内ではじめて「現代美術館」と銘打った「長岡現代美術館」を設立しました。
長岡市では11月30日まで、「駒形十吉記念美術館」をはじめ市内の美術館、博物館を巡るスタンプラリーを開催中
速水御舟や村上華岳の作品を展示している2階展示室
速水御舟『紅梅』
NSTの社長に就任した1972(昭和47)年、この頃から駒形氏は「現代美術のピークは過ぎた」と考え、戦前から興味を持っていた日本画や工芸に眼を向けるようになりました。そして1994(平成6)年に開館したのが「駒形十吉記念美術館」です。明治以降の国内作家の作品を収集するようになり、今企画展でも展示されている『駒形十吉が敬愛した作家たち』とは、速水御舟(はやみぎょしゅう)、村上華岳(むらかみかがく)、加藤唐九郎(かとうとうくろう)、加山又造、平山郁夫のことです。この5名の作家に対し、駒形氏は特別な思いを抱いていました。
1階展示室には、加山又造と平山郁夫の作品を展示しています。駒形氏が、若手の頃からその活躍をずっと見守っていた2人です。リピーターが多いという同館。所蔵品の中から見たい作品をリクエストする人も少なくないそうです。そのため、特に希望の多い加山又造の『しだれ桜』と『秋草』は、春と秋に必ず公開する定番作品になっています。取材に行った日は『秋草』が展示されていて、館内にいながら季節を感じることができました。
2階展示室には、駒形氏が敬意を払っていた速水御舟と村上華岳の作品を展示しています。墨の濃淡と紅梅の色彩がくっきり描かれている御舟の『紅梅』(1931年、紙本彩色、135.0×44.6cm)は、駒形氏がはじめて手にした御舟の作品です。その後、御舟コレクションが増えても特にお気に入りの作品でした。伸びやかに描かれている作品を見ていると、実物の紅梅はどんな風だったか見てみたくなる、春が待ち遠しくなる作品です。
また2階には、自身も日本画や油彩などを数多く制作していた駒形氏の作品紹介コーナーもあります。その中でも『すすき・鳥・山』(1980年)は、すすきを平山郁夫、鳥を加山又造、山を駒形氏が描いたもので、3人の関係性をうかがい知ることができる貴重な一作です。
2階には作品を展示するための茶室も設えている
エレベーターもあるが、階段を利用すると駒形氏とゆかりの作家の写真を見ることができる
加藤唐九郎『志野秋草文壺』
地下1階展示室には、駒形氏が「大陶匠」として尊敬していた加藤唐九郎の作品を展示しています。黒織部や瀬戸黒、瀬戸唐津などの茶碗がずらりと並ぶ中、目を引くのが『志野秋草文壺』(1941年頃、高25.5cm 口径30.0cm)です。桃山時代の古陶の研究、復元に努めた唐九郎は、それに倣った作品を多く残していますが、これは現代的な感性でつくられた作品です。口の広い壺の胴には、正面には鉄絵で桔梗を、周囲には下地の泥漿(でいしょう)を釘などで掻き落としてススキを描いています。力強ささえ感じる桔梗の黒と、細やかな線のススキの褐色のコントラストが美しい作品です。
駒形氏自身が幼い時から美術の世界に触れて興味を持ったように、広く一般にも見てもらうため、コレクションを公開した同館。駒形氏のそんな思いを反映してなのかどうかは分かりませんが、気に入った作品があれば何回でも気軽に見に行きたくなる、300円というリーズナブルな入場料です。長岡市では11月30日まで、同館をはじめ市内の美術館、博物館を巡るスタンプラリーを開催中なので、この機会に訪れてみてはいかがでしょうか。
加藤唐九郎の作品を展示している地下1階展示室
ポストカードや額絵などを販売しているギャラリーショップ
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【参考文献】
『長岡商工人 百年の軌跡』長岡商工会議所
『コレクター・駒形十吉の眼 併設 平山郁夫展』「コレクター・駒形十吉の眼」展~併設平山郁夫展~実行委員会
インフォメーション
駒形十吉記念美術館は、新潟県長岡市の実業家・故駒形十吉氏が収集した日本画、水墨画、陶器など、約260点を所蔵している美術館です。1994(平成6)年に開館し、今年20周年を迎えました。雪の季節の12月中旬から3月中旬までは休館。毎年3月と8月の下旬に展示作品を総入れ替えし、所蔵品の中から30~50点を展示しています。
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●アクセス
新潟県長岡市今朝白2-1-4
TEL 0258-35-6111
JR長岡駅東口から徒歩10分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.komagata-museum.com
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