大正から昭和の女学生たちを熱狂させた越後のモダニスト「蕗谷虹児記念館」

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新潟県新発田市の蕗谷虹児(ふきやこうじ)記念館では、9月28日まで「竹久夢二×蕗谷虹児 詩と挿絵の世界」を開催しています。蕗谷虹児(1898~1979)とは、大正から昭和にかけて少女雑誌等で活躍した、竹久夢二(1884~1934)、高畠華宵(1888~1966)などと並び一世を風靡した挿絵画家です。
今春、同記念館の作品倉庫から竹久夢二の詩画集『青い小径』改定版の描き下ろし原画全23点が発見されました。その原画がいち早く特別公開されています。この機会を見逃すまいと、蕗谷虹児ファンをはじめ竹久夢二ファンも全国から訪れています。

 

公共建築百選にも選ばれている蕗谷虹児記念館。建物を見に訪れる人も多い

 

新潟県のふるさと切手にも起用された蕗谷虹児の代表作の一つ『花嫁』

 

蕗谷虹児をまだ知らない…という人でも、1968年、70歳で描いた作品『花嫁』の絵、もしくは1924年、25歳のときに発表された『花嫁人形』の歌詩、どちらかを見聞きしたことはありませんか。
『花嫁』は1997年に新潟県のふるさと切手として起用され、一躍全国的に有名になった絵柄です。その美しさからファンならずとも縁起物として婚礼用等に購入する人が後を絶たず、ふるさと切手としては異例の増刷が6回、計5,700万枚も発行されたベストセラーです。
一方、「金襴緞子(きんらんどんす)の帯しめながら~」ではじまる童謡『花嫁人形』の歌詩は、蕗谷虹児の作です。当時、人気詩人・西條八十の詩に挿絵を依頼されていた蕗谷虹児は、出版社で詩が届くのを待っていました。ところが締め切り間際になっても詩は届きません。困り果てた出版社に急きょ頼まれ、わずか2時間ほどで書き上げたというエピソードが残っています。

 

蕗谷虹児自筆の『花嫁人形』の歌詩

 

「竹久夢二×蕗谷虹児 詩と挿絵の世界」を開催中の1階展示室

 

新発田市出身の蕗谷虹児は、15歳で同郷の日本画家・尾竹竹坡(おたけちくは)の内弟子として上京。1919年、21歳のとき、その後の人生を一変させる人物と出逢います。その人物とは、蕗谷虹児を語るうえで欠かせない存在の竹久夢二です。夢二の紹介で『少女画報』に挿絵画家としてデビューを果たし、みるみるうちに売れっ子スター画家へと成長します。

 

1階展示室入り口では、蕗谷虹児の生涯がわかりやすく紹介されています

 

このほど発見された竹久夢二の詩画集『青い小径』改定版の描き下ろし原画全23点が並ぶ

 

人気絶頂の中、1925年、27歳のときにさらなる絵の研鑽を積むためパリへ留学。世界レベルの舞台でタブロー画家を目指し、多くのサロンへの出品・入選を重ね、念願だったシャンゼリゼ通りの画廊で個展を開催するなど、その画才を一気に開花させました。帰国後は、パリ仕込みのモダンな画風で日本の女性たちを夢中にさせました。他の主な挿絵画家は海外の雑誌を参考にしていた時代に、蕗谷虹児はパリで直に見たファッションを描き日本に送り続け、鮮度の高さは群を抜いていました。洋服、帽子、アクセサリーなどの小物、化粧・髪型に至るまで蕗谷虹児は熱心に観察し、絵に反映させました。蕗谷虹児の描く女性は、こうしたファッションセンスの高さばかりでなく、まるで現代女性を予測するような楚々とした中にも凛とした強さが感じられる点が魅力です。

 

蕗谷虹児が絵、竹久夢二が短歌を書いた、2人の貴重な合作色紙

 

2階の常設資料展示室で目を引く蕗谷虹児の写真。非常にモテたというのも納得のイケメンです

 

絵はもちろん、詩や小説も書いた蕗谷虹児ですが、彼の才能はそれだけにとどまりません。1958年、日本の初期のアニメーション映画『夢見童子』で、構成、演出、作画に携わりました。今で言う宮崎駿監督のような仕事を、すでに半世紀以上も前にしていたのです。2階の常設資料展示室では、蕗谷虹児の多才な仕事ぶりを目にすることができます。

 

蕗谷虹児が表紙を飾った『少女画報』『令女界』

 

製図機、水彩絵具、岩絵具、日本画用刷毛など晩年の蕗谷虹児の愛用品

 

蕗谷虹児は人生を変えるきっかけをくれた夢二に対し感謝の気持ちを忘れることなく、生涯「先生」と呼んで慕い、夢二の晩年は病床にも通い続けました。また夢二の方も、越後人特有の寡黙でやさしい気質の蕗谷虹児に心を許していました。このほど発見された夢二の描き下ろし原画は、近年になって23点もの作品がまとめて発見されることは大変珍しく、経緯はこれから研究・解明されるものの、2人の絆があってこその出来事ではないでしょうか。
「2人の最初の出逢いから95年余り。今、開催中の企画展で2人は再び出逢いました。大正から昭和へ大きく移り行く時代の中で生まれた両者の詩画集を対比して見ていただき、それぞれの作品への強い思いと、恩師に追いつけ追い越せと同業を歩んだ虹児と、恩師・夢二との深い関係も知ってもらいたい」と企画展示担当の長谷川靜生さん。

 

自分用、プレゼント用にと、100種類から選べる人気のポストカード

 

夢二の紹介で挿絵の世界に飛び込んだ、越後のモダニストの魅力を体験しに、蕗谷虹児記念館を訪れてみてはいかがでしょうか。同記念館では、作品一つひとつの裏にあるエピソードを知って、蕗谷虹児の作画に対する思いをより感じてもらいたいとの考えから、入館時に受付に申し込めば、事前予約不要で1人だけでも作品解説を行う、きめ細やかなサービスも実施しています。

 

インフォメーション

蕗谷虹児記念館は、蕗谷虹児の故郷である新潟県新発田市に昭和62(1987)年に開館しました。所蔵品は、蕗谷家から寄贈された原画約800点や直筆原稿、書籍、印刷物、その他資料も合わせ、約3000点にものぼります。2階は常設の資料展示、1階は半年ごとに企画展を開催しています。

 

●アクセス

新潟県新発田市中央町4-11-7
TEL 0254-23-1013
JR新発田駅から徒歩15分、または市内循環バス「郵便局前」下車徒歩2分

詳しくは下記「しばた観光ガイド」サイトをご覧ください。

http://shibata-info.jp/archives/sightseeing/