挿絵で一世を風靡した岩田専太郎の美術館「金土日館」

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東京の下町散歩コースとして人気の谷根千(谷中、根津、千駄木エリアの総称)。その一角に、今回ご紹介する「金土日館」はあります。なぜ金土日かというと、金土日のみ開館しているからです。最初は開館日と館名のユニークさに注目してしまいますが、肝心のその中身(展示物)はいたってシンプル。挿絵画家・岩田専太郎の常設美術館です。

 

岩田専太郎という名前を耳にしたり、作品を見たことはありますか? 専太郎が挿絵画家として一世を風靡し、活躍したのは大正末期から昭和40年代ですから、よくご存じだという方は、おそらく50代以上の方々がほとんどでしょう。
明治34(1901)年、浅草で生まれた専太郎は、小学校卒業後、京都で図案家に弟子入りし、そのかたわら日本画も学びました。東京に戻り、19歳のとき講談雑誌でデビュー。25歳で、大阪毎日新聞に連載された吉川英治の『鳴門秘帖(なるとひちょう)』の挿絵を担当したことから、一躍その名を世に知られることになります。その後も新聞、雑誌、時代小説、現代小説などで活躍し、昭和49(1974)年に73歳でこの世を去るまでに、およそ6万点もの作品を手掛けたといいます。金土日館には、800点の原画と50点の美人画を所蔵しています。

 

住宅街の中にあり、一軒家風の「金土日館」

 

     岩田専太郎の美人画代表作『湯上り』

 

1階エントランスの正面、いちばん目立つところには、専太郎の代表作の美人画『湯上り』と『くれない』が展示されています。江戸時代の銭湯帰りの女性が描かれている『湯上り』は、大きく抜かれている衿足と袖からのぞいている右手の白さが、品よくつややかに表現されている作品です。
日本画家の伊東深水(いとうしんすい)に師事していたこともある専太郎は、晩年、挿絵の仕事と並行して美人画も制作し、数々の「専太郎美人」を世に送り出しました。伝統的な線描を踏襲しながらも、専太郎独自の鋭い感性によって、女性の内面までをも、構図、色で描き出しています。1~2階では主に美人画が展示されていて、専太郎の美人画の世界に一気に引き込まれてしまいます。

 

専太郎美人を堪能できる2階

 

  華やかな輝きを放つ女性が印象的な『毛皮のコート』

 

ここで専太郎美人を少しご紹介しましょう。
タイトル通り毛皮をまとったエレガントな女性を描いている美人画は、銀座へよく出掛けていたという専太郎のエピソードを知ると、納得の一枚の『毛皮のコート』。
『瞳』は躍動感のある一作で、小気味よいリズムが感じられる五彩の帽子と、燃える恋の痛みを潜ませている女性の空ろな目のバランスが見事に調和している作品です。
『こゆき』は、冷たい雪の寒さに耐える黒いストールに包まれた女性の姿が美しい一枚。ストールと着物にふんわりとこゆきが降りかかっている様子も、女性のはかなく繊細な美を際立たせています。

 

      作品全体に躍動感が感じられる『瞳』

 

 黒いストールに包まれた女性の姿が美しい『こゆき』

 

2階では、専太郎の美人画のほかに、浮世絵の流れを汲む日本画家の鏑木清方、専太郎の師であった伊東深水の作品も展示されています。清方、深水、専太郎の作品が並べて展示されているので、それぞれの個性と江戸浮世絵美人画を相承している流れがよくわかります。

 

地下1階では、昭和16年8~11月に朝日新聞夕刊で連載されていた、尾崎士郎の『高杉晋作』の挿絵を展示しています。新聞に掲載される挿絵は小さなものですが、展示されている原画は、新聞の挿絵より10倍以上の大きさがあります。縮小された新聞紙上の挿絵を見ると、原画とは線の太さや濃淡に変化が表れています。掲載時のサイズを考慮して、専太郎は描いていたといいます。原画とともに展示されている掲載誌とぜひ見比べてみてください。

 

地下1階では、『高杉晋作』の挿絵画展を開催中

 

   挿絵の原画とともに、掲載誌も展示されています

 

さまざまな作品を見ていくと、描くことに生涯没頭していた専太郎自身はどんな人物だったのかに興味がわいてきます。館内には、専太郎の残した言葉もいくつか掲示されているので、作品からは読み取れない専太郎の人となりを少しだけ想像することができます。
「絵はかくもんじゃない。生まれるものだ。どんな子が生まれるか。」
「きのうは過ぎ去ってもうない。あすはまだ来ない。今日があるだけ。」
これらの言葉からは、粋でクールな専太郎が浮かんできますが、実際のところはどうだったのでしょうか。展示作品の他に専太郎に関する書籍も充実しているので、座り心地の良いソファでくつろぎながら、ゆっくり専太郎の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。この秋、谷根千散歩の途中でぜひ立ち寄っていただきたい、個性派美術館です。

 

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インフォメーション

金土日館は、昭和時代に一世を風靡した、挿絵画家・岩田専太郎氏の常設美術館です。2009年にオープンし、新聞小説の原画や日本画を展示しています。

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●アクセス

東京都文京区千駄木1-11-16
TEL 03-3824-4406(金土日のみ)
地下鉄千代田線「千駄木駅」より徒歩10分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.kindonichikan.com/

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