3年に1度の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2013」が、10月27日まで開催されています。第2回目となる今回は「揺れる大地―われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」をテーマに、国内外122組のアーティストが集まりました。会場は名古屋市内の栄・白川公園・長者町・納屋橋、そして近郊の岡崎市と5エリアに設けられていますが、ここではメイン会場である愛知県美術館(栄エリア:愛知芸術文化センター内)を中心に紹介しましょう。
「揺れる大地」というテーマからも分かるように、今回は東日本大震災を含む、世界各地で起きている社会の変動を意識した作品が積極的に選ばれています。芸術監督を東北大学大学院教授(都市・建築学)の五十嵐太郎氏が務めていることもあり、全体に建築的な視点が取り入れられているのも大きな特徴です。体験型の作品も多く、アートを楽しみながら、社会について考えられる内容となっています。
ヤノベケンジ作《サン・チャイルドNo.2》(2011)。放射線防護服に身を包んだ6.2mもの子どもの立像は、東日本大震災後に希望のモニュメントとして制作された。
ヤノベケンジ作 平和や安全、愛の力を象徴した《ウルトラ・サン・チャイルド》(2013)。太陽神をイメージしており、結婚式のときにはこの前で愛を誓う。
数ある作品の中から数点をピックアップするのは至難の業ですが、まず注目したいのが、ヤノベケンジによる《太陽の結婚式》です。《ウルトラ・サン・チャイルド》や《ファンタスマゴリア》、《クイーン・マンマ》、《太陽の礼拝堂》など9つの作品で構成されるインスタレーション(空間全体を作品として体験させるアート表現)で、非常に幻想的。なんと、開催初日の8月10日には、実際にここで結婚式が挙げられました。現在も10月13日まで、挙式希望のカップルを募集しているので、予定のある方は応募してみるのも良い思い出になるかもしれません(スケジュールが埋まり次第締め切り)。また、地下2階に設置された、同じくヤノベの代表的な作品である《サン・チャイルドNo.2》も必見。放射能の防護ヘルメットを外し、傷つきながらも上を向き続ける、再生と希望のシンボルです。
ヤノベケンジ作 イッセイ・ミヤケの店舗のために制作された《クイーン・マンマ》(2011)。母胎型の着衣室で、新郎新婦はここで着替える。「母胎で着替える(生まれ変わる)=再生する」の意味も。
ヤノベケンジ作 フランスの画家アンリ・マティスの作品を中に取り入れた《太陽の礼拝堂》(2013)。正面中央のステンドグラスの原画をビートたけしが手掛けたことでも話題に。
体験型の作品としては、平田五郎の《Mind Space-空中の庭園》があります。パラフィンワックス(蝋)で制作された小さな3階建ての家。狭くて屋根も低い、大人1人がなんとか入れる空間を這うようにして入って行きます。窓もなければ照明もありませんが、パラフィンワックスが外からの光を半分通過させるためほんのり明るく、3階に到着するとほっとした気持ちに。裸足であれば、足裏に伝わる蝋のひんやり、すべすべ感も心地よいでしょう。衣服に蝋が付着したり、閉所が苦手な人は難しかったりといった注意点はあるものの、貴重な体験ができてお勧めです(予約制)。
平田五郎作《Mind Space-空中の庭園》(2013)。布で仕切られたパラフィンワックスの細い道が、家を取り囲んでいる。ぐるぐる回りながら進もう。
ハン・フェン作《浮遊する都市2011-2013》(2013)。ゆらゆらと揺れ続ける都市を見ているうちに、何となく切ない気持ちになる人もいるのでは?
海外アーティストの作品では、中国・上海を拠点に活動するハン・フェンの《浮遊する都市2011-2013》などが印象的。トレーシング・ペーパーで作られた建物の模型を天井からテグスで吊るし、浮遊して揺れ動く都市を表現しています。上海の街並みをイメージしており、模型に貼られた写真は、作者自身が1枚1枚撮ったものだというから驚きです。
ほかにも、原寸大の原子炉建屋を再現した宮本佳明(かつひろ)の《福島第一さかえ原発》、プレスされた金管楽器が環状にぶら下げられ、壁面に影を揺らすコーネリア・パーカーの《無限カノン》、自らが経験した1945年の東京大空襲を描いた岡本信治郎の《ころがるさくら・東京大空襲》など、観ている者を圧倒する作品が目白押し。今回の取材では、同館広報担当者の「東日本大震災を機に(アートに携わる者として)これから何ができるかを考えるようになりました」との言葉も心に残りましたが、私たち鑑賞者も作品を通して「何ができるか」を考えることができるのではないかと感じられました。
青野文昭作《なおす・代用・合体・侵入・連置》(2013)作品群の1つ。東日本大震災後、被災地で収集した瓦礫や廃材を用いて制作された。たんすなど、ほとんどが家具でできたトラック。
ルーマニア出身のダ・ペルジョヴスキによるドローイング《ザ・トップ・ドローイング》(2013)。窓ガラス一面に、白いペンで文字やイラストが描かれている。作家の批評精神やユーモアに溢れた作品で、観ているだけで楽しい(愛知芸術文化センター11階展望回廊)。
愛知県美術館での現代美術を始め、愛知芸術文化センターではダンス・演劇などのパフォーミングアーツやオペラのステージプログラム、映像プログラムも多数用意されています。また建物の中だけでなく、まちなかにもアートを展開。まちを歩きながら、アートを楽しめるのも魅力です。主要会場間を無料で運行するベロタクシー(自転車タクシー)もあるので、ぜひ利用してみてください。
美術館を飛び出すまちなか展開も。 駅や地下街を青く塗り、白い線で絵を描くことで、現実世界に異空間を出現させた《長者町ブループリント》(2013)(打開連合設計事務所作:長者町エリア)。
若手アーティスト・ユニットNadegata Instant Partyによる《STUDIO TUBE》(2013)。電力開閉所跡地を特撮スタジオに見立て、回遊型のインスタレーションと映像作品を発表(長者町エリア)。
現代美術というと尻込みする人もいるかもしれません。もちろん、難解な作品はあります。しかし、素直に面白いと思える作品もたくさんあります。あいちトリエンナーレ2013では、一貫したテーマがあるため「分かりやすい」「共感しやすい」といった声も多いようです。あまり構えず、気軽に足を運んではいかがでしょうか。
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インフォメーション
愛知県美術館は1992年、名古屋市の中心部、栄にそびえ立つ愛知芸術文化センターの上層に開館。10階が所蔵品・企画展示室、8階がギャラリーとなっています。コレクションの中心をなすのは、ピカソ、クリムト、梅原龍三郎、横山大観など国内外の20世紀美術で、国外作品ではドイツ表現主義やシュルレアリスム、戦後アメリカ美術などが充実しているのも特徴の1つです。
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●アクセス
名古屋市東区東桜1-13-2(愛知芸術文化センター)
地下鉄東山線・名城線「栄」駅、名鉄瀬戸線「栄町」駅下車。オアシス21を経由して徒歩3分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://aichitriennale.jp/
(問い合わせ先:あいちトリエンナーレ実行委員会事務局 TEL 052-971-6111)
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