香りを聞く~馥郁たる香りの街に佇む「磐田市香りの博物館」

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世界でも珍しい「香り専門」の博物館である「磐田市香りの博物館」に行ってきました。この館は藤や金木犀などの馥郁(ふくいく)たる街の象徴として、1997年に静岡県旧豊田町のまちづくり計画の一環で設立されました。その後、2005年の市町村合併により「豊田町香りの博物館」から「磐田市香りの博物館」となり、引き続き香りの文化を紹介しています。

 

「磐田市香りの博物館」の愛称は香りの森を意味する「パルファン・フォーレ」

 

外壁・館内の至るところに施された、香りのレリーフ

 

博物館の入口にある「藤の門」。これは豊田町池田にある国の天然記念物で、樹齢800年といわれる熊野(ゆや)の長藤をモチーフにしています。その頂にある「旭日(太陽)」の向こうで圧倒的な存在感を放っているのは、左右の壁面上方まで刻まれたレリーフです。古代四大文明の香りにまつわる文化や、蓮や牡丹の花、香油壺などが緻密に彫刻されています。

 

館内は人気の「香りの体験コーナー」をはじめ、香りにちなんだ展示があり、楽しく学んだり感じることができます。その中から幾つかを紹介します。

 

月の表面の静かな海をイメージした「鏡の泉」

 

香りと人類の関わりを紹介する「香りの文化史コーナー」

 

■「香りの文化史コーナー」
火の知識を得た人類が気づいた、すばらしい香りの煙が出る植物…これこそが香りの歴史の幕開けでした。香りは目に見えない不思議なものとされ神との会話に使われたのが始まりで、神に捧げる生贄の保存や消臭、薬効などにまで用途を広げました。その後1096年からの十字軍侵攻に伴い香料がヨーロッパへと流れ、1370年頃に香水の原型とされる「ハンガリーウォーター」ができました。

 

ところで、西洋と日本では香りの役割が大きく異なったようです。西洋ではクレオパトラをはじめ歴史に名を残した女王だけでなく、皇帝にまで香りが愛用されました。自分を魅力的に表現するために香りを身に纏う文化であるといえます。薔薇を水に浸しただけの「薔薇水」から、アルコールの普及によって保存可能な「コロン」に進化し、化学技術が目覚しく発展した18世紀中頃より多様な香りが創られるようになりました。

 

一方、奥ゆかしく内に秘めた「心」を大事にする日本の香り文化は、「香りを『聞く』」という表現が何よりもそれを物語っているのではないでしょうか。595年、淡路島に漂着した香木(こうぼく)が起源とされ、仏教伝来以降は亡き人に香りと一緒に「心」を届けるという、宗教的な意味合いが強い香り文化が根づきました。その後、源氏物語で貴族に愛用される様子が垣間見られるように、香りは雅豊かなものとして自己表現の役割も強めていったのです。

 

■「香りの体験コーナー」
このコーナーでは自分の香りを創ることができます。最初に全13種類の基本となる香りから1つだけ選びます。そして好みのファッション、髪型、血液型や色など11の質問に答えて診断された「レシピ」をもとに3本の香りの瓶と調香セットを受け取ります。1本目は自分で選んだ「ベース」、2本目は深みを持たせる「アジャスト」、3本目は個性をプラスする「アクセント」。170パターン以上の組み合わせとなり、お好みの分量で配合すればまさに無限の世界…自分だけの香りを楽しむことができるのです。

 

「香りの体験コーナー」での調香

 

「潮香る貝の魅力~甦る東貝道五十七次 水田博幸の世界展~」

 

■「香りの企画展」
9月29日(日)までの「潮香る貝の魅力~甦る東貝道五十七次 水田博幸の世界展~」では、東海道と京街道が繊細かつ立体的な貝工芸で表現されています。設置された香りを体感しながら、小さな景色の中で息づく昔の人々を覗き込むのは、風情ある贅沢なひとときでした。

 

そのほか、「香りのミュージアムショップ」には、40種類ものお香や約100種類もの香水、香り袋、ポプリなどが所狭しと並んでいます。季節ごとに体験できる香りが変わる「香りのスポット」は、並んだ夏の香りをクイズ形式で体感してから絵本を読むという粋な計らいとなっていました。

 

熊野の長藤をモチーフにしたオリジナル香水「藤かほり」

 

「香りのカフェテラス」でのおすすめは特産品磐田メロンのアイスクリーム

 

隅々まで満喫したら最後に立ち寄りたいのは、香りの図書ばかりが200冊も取り揃えられた「香りのカフェテラス」です。お茶をしながら香りの余韻に浸るもよし、道一本向こうに広がる「香りの公園」を眺めるもよし。香りを楽しむ数々の工夫は、「香りの森」を意味する「パルファン・フォーレ」の愛称にふさわしい奥行きを感じさせます。

 

国内に2つしかない香りの博物館のうちの一つ、「磐田市香りの博物館」。身近でありながら知らないことも多い香りの世界を訪ねてみてはいかがですか。

 

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●アクセス

静岡県磐田市立野2019-15
TEL 0538-36-8891
JR東海道本線「豊田町」駅下車、徒歩5分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.iwata-kaori.jp

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