名古屋市千種区城山町に鎮座する城山八幡宮は、500年以上前から産土神(うぶがみ。うぶすなのかみ:生まれた土地の守り神)として崇敬を集めてきました。創建当初は、現在地より300メートルほど東北の旧・田代町字楠(現在の千種区春里町2丁目南端)に鎮座していましたが、明治になって村内の八幡社、浅間社、山神社、一ノ御前社、白山社が合併合祀。
非常に広い氏子の区域を持つことになったため、氏子崇敬者の浄財寄進により1936年(昭和11)、現在地に遷座されました。
閑静な住宅街に鎮座する、八幡宮南側一の鳥居。戦時中に受けた爆撃の傷跡が今でも残されている
二の鳥居と空堀にかかる反橋。急な階段が続くので、ここで少し休憩をするのもいい。椅子あり
かつて、城山の森一帯には、織田信長の父・信秀が築いた末森城がありました。信秀の死後、弟・信行が跡を継ぎましたが、1556年(弘治2)、信長との「稲生が原の戦い」に敗北。その2年後には、信長に殺されてしまいます。末森城は主を失い、ついには廃城となったのでした。城山八幡宮は、広さ約1万坪、標高43mの末森城址のほとんどを境内としています。神門前の広場(駐車場)が本丸跡、昭和塾堂(後に記述)周辺が二ノ丸跡、そして境内を囲む森は深さ7メートルほどの空堀跡と、室町末期の城址を今にとどめています。
多くのご利益がある中、とくに霊験あらたかなのが厄除開運、交通安全、必勝守護、家内安全、そして縁結び。近年は縁結びでマスコミなどに取り上げられることも多く、本殿裏手の参道沿いにある「連理木(れんりぼく)」が恋のパワースポットになっています。幹周り4メートル、根周り4メートル70センチ、樹高15メートルの名古屋市内最大のアベマキ(ブナ科の落葉高木)。いったん2つに分かれた幹が、再び連なってさらに枝を出していま
本殿。主神(八幡神)は譽田別命(ほんだわけのいこと)、息長帯比賣命(おきながたらしひめのみこと)、帯中津日子命(たらしなかつひこのみこと)
手前が揖斐石、奥が桃取石。一度でたどり着かなくても大丈夫。二度、三度と挑戦してみよう
本殿横では恋・良縁・開運占いもできます。一途な思いを叶えるという「桃取石」。離れた位置にある揖斐石(赤石)から桃取石(青石)まで、目を閉じて歩いてみましょう。うまくたどり着けば、思いが叶うとか。これは1人でもできますし、男女2人ですることもできます。2人の場合は、それぞれの石から向かい合う形で同時に歩き始め、無事相手にふれることができれば恋が成就するということです。良縁とは、恋の縁だけではありません。人との縁、物との縁、自然との縁、運命との縁、神様との縁……自分なりの祈りを込めて、試してみてはいかがでしょうか。
末社。山神社(大山祇神)、神明社(天照大神)、津島社(祭神建速須佐之男命)が祀られている
神楽殿。古い建物で普段は閉まっているが、御神楽の奉納など年中行事(神事)の際に使われる
もう1つ、「恋の三社めぐり」も人気です。城山八幡宮の「連理木」、高牟神社(名古屋市千種区)の「古井(恋)の水」、山田天満宮内にある御嶽神社(名古屋市北区)の「よりそい石」と、恋の神様をめぐる旅。三社に置かれている台紙に各社のスタンプを集め、恋愛運上昇のお守りにします。台紙に添付されている「願い文」は神前に奉納することもできるので、願いのある方はぜひ。
豊玉稲荷社(稲荷大神)。ずらりと並ぶ、かわいらしい赤い鳥居をくぐり抜けると小さな社が見える
大きな自生の連理木。この木の下で真剣に祈れば、必ず奇跡が起きるとのこと。信じることが大事
境内は非常に広いですが、緑も豊かなので散策がてらぐるりと回ってみてください。本殿のほかに末社として山神社、神明社、津島社、豊玉稲荷社が祀られており、また、社殿東南の空堀跡には茶室「洗心軒(献茶殿)」があります。元名古屋商工会議所会頭、故・高松定一氏の別邸で、明治期の名古屋における代表的な数寄屋建築。中区竪三ッ蔵町に建てられていたものを1968年(昭和43)に移築しました。加えて、先にも少しふれましたが、境内西南の二ノ丸跡に建つ「昭和塾堂」も一見の価値があります。これは、1928年(昭和3)に愛知県が建てた青年教育・社会教育のための施設です。「帝冠様式(日本趣味を貴重とした近世式)」の先駆けで、真上から見ても横から見ても「人文字形」に見えるように設計されているのが特徴。現在は、愛知学院大学大学院歯学部研究棟として使用されています。
昭和塾堂。戦後は名大医学部や県教育文化研究所、県職員研修所、千種区役所仮庁舎などに利用
昭和塾堂の付属体育館だった養心殿。現在は合気道や古武道などの武道場として使われている
この辺りは愛知学院大学や名古屋大学があるため、学生向けの飲食店やファンションビルが多くあります。一方、幹線道路から一歩奥に入ると閑静な住宅街に。城山八幡宮も、落ち着いた雰囲気の広がる住宅街の中に鎮座しています。木々に囲まれた急な階段を上っていけば、まるで別世界に入っていくような感覚に陥ることでしょう。
余談ですが、『総会屋錦城』『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』などで有名な、名古屋市出身の直木賞作家、故・城山三郎(本名:杉浦英一)は、城山八幡宮の近くに住んでいたことから「城山」のペンネームを付けたそうです。
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アクセス
名古屋市千種区城山町2-88
TEL 052-751-0788
地下鉄東山線「覚王山」駅から徒歩7分、東山線・名城線「本山」駅から徒歩6分
http://www.shiroyama.or.jp/
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