えびす様と福むすめの微笑み「今宮戎神社」

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今宮戎神社の創建は推古天皇8年(600)に聖徳太子が四天王寺建立に当たり西方の守護神として祀ったことを始まりとしています。その祭神は、天照皇大神(あまてらすすめおおかみ)、事代主命(ことしろぬしのみこと)、外三神の5柱。中でも事代主命は特にえびすと呼ばれ、漁業の守り神として、そしてまた近世以降ではとりわけ商売繁盛の神様としてもおおいに信仰を集めるようになりました。それゆえか現在でも当神社は地元で通称「えべっさん」との名で親しまれ愛されています。

 

南に位置する鳥居

 

本殿

 

今でこそ庶民の町に溶け込むように鎮座している今宮戎神社ですが、かつては海岸沿いに建ち、種々の海の幸がこの地に集まっていたようです。そういえばえびす様の姿形を思い起こせばどことなく潮の香りが立ち上がってきませんか。頬を緩めた優しい微笑みで左小脇に大鯛を挟み、右手には釣竿を持っている。とてもユニークで可愛らしい出で立ちですが、実はこれ国譲り神話の中でえびす様が殊更釣を好んでやっていたことに由来するものなのです。

 

漁業の守り神としてえびす様が優しい眼差しで見守る中、平安時代には徐々に海の幸と里の産物の物々交換が盛んとなり、やがてこの地に「市」が開かれるようになります。同時に市には必ず市神を祀ることが習わしとされ、戎神がその守り神に選ばれました。平安後期、四天王寺の西門に開かれた浜の市はその代表だとされていますが、当然こうした市の勃興は人々の往来を加速させ、商業規模を膨らませていきます。室町時代に入ると市の神としてのえびす様に寄せる信仰は一層厚くなり、江戸期にあっては大阪町人の活躍する商業の町として大阪がますますの繁栄を遂げる中でえびす様は商売繁盛を司る神様として尊崇を一手に集め始めました。そして元禄期、厚い尊崇が大きな潮流となり、祭礼という形で商売繁盛を祈念する「十日戎」が初めて催されたのです。延宝3年(1675)刊行の現存する最古の大阪案内図「葦分舟(あしわけぶね)」には十日戎の賑わう状景が描かれていますが、その祭礼の賑わいがそのままの慣行で今に伝わり現在にあっても十日戎の頃には全国各地から例年およそ100万人以上の参詣者がこの地を訪れるといいます。

 

私が取材に向かった12月17日はしかし参詣者はまばらで、乾いた冬風が下町を流れる落ち着いた風情が漂っていました。境内も伽藍も比較的小柄で、年始早々、この界隈に多くの参詣者が訪れるなどとは想像だに出来ません。とはいえ境内に止められた幾台かの工事車両や社務所にかけられた足組みの木材などは十日戎に向けてのものなのか、響く槌音を耳にするたびおよそ3週間後にこの地が帯びる熱気の気配が胸中を一頃焦がします。

 

社務所

 

十日戎は1月9日(宵宮祭)、10日(大祭)、11日(後宴)の3日間、商売繁盛を祈念し執り行われます。9日の宵宮祭(宵えびす)の献鯛式では大阪木津市場の人々によって十日戎献鯛神事が行われますが、これは全国各地から選りすぐれた鯛のうち、福むすめが2匹を選んで今宮戎神社に奉納するもの、他に鯛の初セリが催されるなど、十日戎の初手から境内は粋のいい活気で満たされます。

 

そして10日の大祭(本えびす)は例大祭、昼からは芸能を代表するスターや福むすめが花やかなパレードを繰り広げる「宝恵駕籠(ほえかご)行列」が催されます。ちなみに十日戎3日間を通じ24時間体制で授与しているのが十日戎を象徴する福笹です。「節目正しく真っ直ぐに伸びる」「弾力があって折れない」などの特質を持っていることから家運隆昌、商売繁盛のご利益があるとされていて、授与される際、その福笹に吉兆(きっちょう)と称する小宝(幾つかの縁起物が束になったもの)から一つを選択し福むすめがそれを飾りつける風習が伝統的に続いているようです。

 

大国社

 

絵馬。商売繁盛の願いがたくさん記載されています

 

ところで十日戎のあらゆる行事に深くかかわる福むすめとはいったいどのような存在なのでしょうか。資料によると毎年9月の募集から始まる幾つかの選考過程を経たのち、11月の下旬に45名の福むすめが決定されるとあります。福むすめに選出されると年明け早々官公庁や関係団体への挨拶回りに始まり、7日の餅まき行事を経て、8日の舞楽奉納式に参列した後、十日戎に奉仕します。全国的に極めて注目度が高く、それだけに応募者は毎年3000人を超えるなど相当な狭き門となっていますが、過去にはこの福むすめを経た著名人も多く、その意味では福むすめの微笑みは自己を含めた多くの人を幸せと希望に導く偉大な存在であるのかもしれません。そんな今宮戎神社で年明け早々今年1年の繁栄を願ってみてはいかがでしょう。

 

本殿裏側。えびす様は耳が悪く、正面での願い事を裏側からドラを鳴らして再び祈念します

 

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アクセス

大阪府大阪市浪速区恵美須西1丁目6−10
TEL 06-6643-0150
地下鉄御堂筋線大国町駅下車 徒歩5分
南海高野線今宮戎駅降りてすぐ 他
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.imamiya-ebisu.jp/
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