岐阜市にある岐阜県美術館で、2015年5月17日(日)まで「タグチヒロシ・アートコレクション パラダイムシフト てくてく現代美術世界一周」展が開催されています。岐阜県郡上市出身のタグチヒロシ(田口弘)氏の現代美術コレクションのなかから絵画やオブジェ、映像など約70点を紹介。氏の故郷における初めての展覧会です。
美術館外観。緑に囲まれた広々とした敷地は、訪れる人たちの憩いの場となっている
田口氏は、実業家であると同時に現代美術作品のコレクターとしても知られています。「見てわかりやすい、楽しい」作品を収集し、いまではその数約180点。展示作品を見ても、なるほど、パッと目を引く面白いものばかりです。
作家たちの出身地は、日本をはじめヨーロッパ、北アメリカ、南米、アジア全域と多岐にわたります。現代美術は、今日の社会を映し出すもの。展示室を“てくてく”と巡ることで、価値観が変革する時代のうねり(パラダイムシフト)を感じながら、日本中、世界中の「いま」を知ることができるでしょう。
展示は、まず「世界をワクワク」から。ポップアートのパイオニアであるアンディ・ウォーホルやキース・ヘリングらの色鮮やかで力強い作品が目に飛び込んできて、一気に気分が盛り上がります。
ウォーホルの「無題(オレンジの花)」「無題(黄色の花)」は、絵画シリーズ「花」の1つ。花の写真をキャンバスに転写したもので、鮮やかな配色に加え、形のズレ、インクのかすれなどが絶妙です。このシリーズ作品は大ヒットし、900枚以上制作されました。まさに大量生産・大量消費のポップアートの幕開けと言えるでしょう。
太くシンプルな線と原色使いが特徴のヘリングの作品は「無題5月31日」と「アクロバット」の2点で、「アクロバット」はアルミニウムを素材としたオブジェ。青とオレンジの2人の人間がユーモラスな格好をしており、思わずクスッと笑ってしまいそうです。
「世界をワクワク」エリア。手前のオブジェが、キース・ヘリング(アメリカ)《アクロバット》1986年
興味深いのが、トム・フリードマンの「無題」。美しい白のオブジェの素材は、なんとすべてストローです。全体に丸く、滑らかな曲線が生み出されており、遠目ではストローで作られているとは分かりません。フリードマンの作品には、トイレットペーパーや爪楊枝など日常のありふれたモノを組み合わせたものが多いのですが、これは現代美術によくみられる手法です。スボード・グプタ「サンフラワー」の素材は、お玉などの台所用品。ピカピカに光るこのオブジェは、グプタの出身地であるインドの経済成長を表しているそうです。
トム・フリードマン(アメリカ)《無題》1997年
スボード・グプタ(インド)《サンフラワー》2010年
ヴィック・ムニーズの「マリリン・モンロー、女優、ニューヨーク、1957年5月6日、リチャード・アヴェドン(ジグソーパズル)」は、不思議な雰囲気が漂う作品。アヴェドンが撮影したモンローの写真をジグソーパズルにしたもので、ピースのズレで銀幕のスター「マリリン・モンロー」ではなく本名の「ノーマ・ジーン」を、心が千々に乱れた素の彼女を表現しています。
ミニチュアサイズのエレベーターも。マウリツィオ・カテラン(イタリア)《無題》2001年
ⓒMaurizio Cattelan,Photo:Attirio Maranzano, Courtesy of Maurizio Cattelan’s Archive and Emmanuel Perrotin
ヴィック・ムニーズ(ブラジル)《マリリン・モンロー、女優、ニューヨーク、1957年5月6日、リチャード・アヴェドン(ジグソーパズル)》2007年
世界を回り終えたら、次は「日本をテクテク」へ。ここでは、国内外で活躍中の草間彌生や奈良美智、村上隆などの作品を見ることができます。
7mと大きなキャンバスが目をとらえるのは会田誠の「灰色の山」。この灰色の山は、実は人の山です。おびただしい数の背広を着たサラリーマンが積み重なって横たわり、巨大な山をなしているのです。会田の作品には「サラリーマン」を題材にしたものが多く、それらにはサラリーマンに対する違和感や批判が反映されています。
村上隆(日本)《黄色い麦藁帽子の女の子》2010年
会田誠(日本)《灰色の山》2009-10年
そのほか、アフリカや東南アジアの木彫り人形のような、ユニークかつ不気味な加藤泉の絵画やオブジェ、高田安規子・政子姉妹の溜め息が出るほど細かい刺繍が施された「切り札」など、見ていて飽きない作品がいっぱいです。本展には「子どもたちにもたくさんの作品を見てもらいたい」という思いも込められており、実際、訪れた子どもたちは楽しそうな笑顔を見せているとか。
共に奈良美智(日本)の作品。手前が《ANYMORE FOR ANYMORE》2010年、向かって左奥が《サイレント・ヴァイオレンス》1996年
共に加藤泉(日本)の作品。手前が《無題》2010年、奥が《無題2010》2010年
現代美術というとつい構えがちですが、とても気楽に楽しめる展覧会です。散歩するような気持ちで回ってみてはいかがでしょうか。また会期中、ミュージアムショップでは、展示作品関連だけでなく、田口弘氏の出身地である郡上にちなんだグッズも販売しています。きれいな手拭いやハンカチ、食品サンプルのアクセサリなどさまざまありますので、ぜひそちらも覗いてみてください。
展示室の外にも作品が展示してあるので、お見逃しなく
岐阜県美術館は「美とふれあい、美と対話する」をテーマに昭和57年(1982)に開館。以来、川合玉堂、前田青邨、山本芳翠、熊谷守一など、郷土にゆかりのある作家の作品を収集・展示してきました。ほかにも国内外のすぐれた作品を積極的に収集・展示しており、なかでもフランスの画家オディオン・ルドンのコレクションは世界有数です。さらに、多角的でユニークな企画展、企画展と連動した「美術講座」「作品鑑賞会」「キッズ・エンジョイ・アート」などを開き、多彩な教育普及活動に努めています。
岐阜市宇佐4-1-22
TEL 058-271-1313
JR東海道線「西岐阜」駅下車 徒歩15分
岐阜バス JR岐阜駅前または名鉄岐阜駅前から加野団地線で「県美術館」下車
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.kenbi.pref.gifu.lg.jp