開館5周年の「アミューズミュージアム」で触れて感じるBOROの世界

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美肌美術館でもこれまで何度か紹介してきました浅草にある布文化と浮世絵の美術館「アミューズミュージアム」が、このたび開館5周年を迎えました。それを記念して、2014年3月30日まで『ワークウェアを超えたアート~布への想いが美を作りだす~』展が開催されています。

 

アミューズミュージアムでは、青森生まれの民俗学者・田中忠三郎氏がコレクションしてきた、青森の農村で実際に使われていた“BORO(ぼろ)”と呼ばれる衣服や布類を多数、常設展示しています。布を再生して継ぎあてが重ねられ、簡単に捨てられることなく時には世代をまたいで使われていた“BORO”は、アート・テキスタイル・デザインの分野で高く評価されています。たかがBOROとあなどってはいけません。アミューズミュージアムに展示されているBOROを見たら、BOROにマイナスイメージを抱いている人は、きっと考えが変わることでしょう。

 

東北の人々を苦しめた北東風(ヤマセ)が吹き荒れている様子をイメージした展示室内

 

 現代のサルエルパンツのような形をしている「タッツケ」

 

今回の開館5周年記念特別展では、重要有形民俗文化財「南部タッツケ」が展示されています。タッツケとは、青森県の南部地方(現在の八戸あたり)で、畑仕事をするときに女性がはいていた作業着のことです。南部は貧しい地域で、冬は寒さが厳しいのに木綿は高級品だったため、人々が身に付けるものは麻が中心でした。寒さをしのぐために考え出されたのが、麻に刺し子をほどこすことです。木綿糸を刺すことで、麻は保温と補強の両方を兼ね備えることができました。上衣は他の地域でも例がありますが、下衣に刺し子をほどこしたものは類を見ません。足元を温かくするとともに、南部は畑作が中心だったので、植物のトゲや虫を防ぐために生み出されました。女性は5~6歳から針を持ち、14~15歳になると4日で1枚くらい仕上げていたというのですから、タッツケにほどこされた細かな刺し子を目の当たりにすると、その驚異的なスピードに驚くばかりです。

 

とてもおしゃれで実用的

 

先に生地に刺し子をほどこしてから、タッツケに仕立てます

 

青森の刺し子といえば「こぎん刺し」が有名ですが、地方によって刺し子も異なり、南部では「菱刺し」が主流でした。どちらもベースは麻布ですが、偶数の目をひろって刺すか、奇数の目を刺すかの違いがあり、それによって仕上がる柄が異なります。こぎん刺しはヨコに、南部の菱刺しはタテのラインに広がりが感じられるのが特徴です。また、タッツケは、その多くがジーンズのような藍色、もしくはそれよりも薄い浅葱色をしています。貧しい暮らしの中では衣類の染めに使える藍の量も限られていたので、貧しい南部では薄い浅葱色が主流でした。

 

南部では主流だった「菱刺し」(写真左)、青森の刺し子といえば「こぎん刺し」(写真右)が有名

 

展示されているタッツケは、貧しさゆえ藍の薄い浅葱色をしていても、継ぎあてが重ねられてようとも、まったく悲壮感は感じられません。そこから浮かんでくるのは、畑仕事をする作業着といえども、ただ刺すだけでなくなんとか可愛くしようと試行錯誤していた、女性たちの愛らしくいじらしい姿です。せっかく苦労して自分で作るのですから、人とは違うものを身に付けたいと思うもの。変わった柄のタッツケを着ている人がいると気になって、その人の後をついていって見て覚えたというエピソードも残っているくらいですから、女性たちにとっては、決して嫌な作業ではなく家庭での楽しい手仕事だったのかもしれません。

 

アミューズミュージアムでは開館当初から、田中忠三郎氏の「実際に触らないと感じてもらえない 」との理由から、文化財なのに館内の展示品はどれに触れても良いことになっています。訪れたらぜひタッツケを手に取って、細かな刺し子を近くで見て、刺し子によって強く、そして温かくなった麻の手触りを感じてみてくださいね。

 

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インフォメーション

日本の大衆文化を生み出した浅草にオープンしたアミューズミュージアムは、民俗学者・田中忠三郎氏のコレクションの“BORO(ぼろ)”の展示のほか、世界で最も美しい浮世絵と称される「スポルディング・コレクション」のデジタル映像上映、伝統芸能などのライブイベントも開催する、新しい形のライブミュージアムです。

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●アクセス

東京都台東区浅草2-34-3
TEL 03-5806-1181
地下鉄銀座線、東武伊勢崎線「浅草駅」より徒歩5分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.amusemuseum.com

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