極細ウエストのドレスに驚く「杉野学園衣裳博物館」

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目黒駅から歩くこと2~3分のところにあるドレメ通り。この通りで個性的なファッションに身を包んだ若い子たちの姿をよく見かけるのは、杉野服飾大学、ドレスメーカー学院などが建ち並んでいるからです。目黒のファッションストリートともいえるそのドレメ通りにあるのが、今回ご紹介する日本で最初の「衣装」をテーマにした博物館「杉野学園衣裳博物館」です。

 

同館では、今秋までの予定で『平成25年度 館収蔵品展‐ウォルト・イヴニングドレスの復元とドゥーセ・オートクチュールから見た女性の装い‐』を開催しています。
カタカナがたくさん並んだこのタイトル。展示内容があまりピンとこないかもしれませんが、この中には2人の人物の名が含まれていて、“ウォルト”と“ドゥーセ”は、服飾関係者なら知らない人はいないくらいの重要な人物です。
デザイナー(クチュリエ/クチュリエーヌ)が自身のアトリエを持ち、デザインした衣裳をモデルに着せて展示会を開き、それを見て気に入ったお客から注文を取り、仮縫いや試着を経てそのお客さまに合ったものをつくる。この一連のオートクチュールのシステムをつくったのがウォルト(1825~1895年)です。

 

価値ある年代物の収蔵品の数々を、展示するのにふさわしい雰囲気を意識して建てられた「杉野学園衣裳博物館」

 

自然にこんなに退色、劣化してしまうことに驚く、ウォルト作のイヴニングドレス(1898年~1905年頃)

 

館内に入るとすぐ、古びた年代物のドレスが展示されています。1898年~1905年頃につくられたと推察される、ウォルト作のイヴニングドレスです。この貴重なドレスを忠実に再現して、技術とその造形を広く一般に公開し、国内外の服飾史研究に役立てることを目的に、ウォルト・イヴニングドレス復元プロジェクトが始動したのは2007年のことです。服飾のプロである杉野服飾大学の教授陣によって、デザイン、素材、パターン、構成、縫製方法などの調査・研究が徹底的に行われました。

 

杉野服飾大学が木綿(シーチング)でつくった、ウォルト作のイヴニングドレス復元用のトワル(2009年)

 

杉野服飾大学が3年かけて復元したウォルト・イヴニングドレス(2009年)

 

完成に至るまでには、パターンをとって木綿(シーチング)でトワル(試作品)をつくったり、部分縫いをして試したり、試行錯誤しながら3年の月日を費やし、ようやくドレスが完成しました。退色してしまっているウォルト・イヴニングドレスと並べるとまったく別のドレスに見えますが、ウォルト・イヴニングドレスにわずかに残った色から判断すると、元々はライトブルーで、復元されたドレスのようにシルクサテンの光沢が美しく輝いていたそうです。ドレスのシルエットの特徴は、身体にフィットしたSカーブラインで、ウエストを軸に胸が前方へ出ていて、ヒップが後方に突き出したスタイルです。

 

一方、ドゥーセ(1853~1929年)が活躍したのは、ウォルトよりもう少し後の時代です。2階には、1900年頃のドゥーセ作のコルサージュ(上着)が展示されています。そのウエストサイズは、驚異の47㎝! コルセットで身体を締め付けて細く見せるのが当たり前だった時代とはいえ、驚きのサイズです。ただでさえ細いのに、袖山にギャザーを寄せて大きく膨らませたジゴ袖(形状が羊の脚に似ていることから呼ばれる)との対比によって、顔を小さく、腰をより細く見せる工夫がされていました。

 

階段脇の小さな窓に付けられている、長さピッタリのカーテン。さすが(?!)ものづくりに携わる杉野学園の博物館は、細部まで違います

 

ドゥーセ作のコルサージュ(1900年頃)。袖の形は1820年代頃に流行ったもので、その時代のリバイバルともいえる

 

彼らが活躍した19世紀中ごろから20世紀初頭は、女性の装いが様々な変化を遂げた時代でした。特に20世紀初頭において、それまでコルセットで細く絞っていたウエストがコルセットから解放され、身体を締め付けないファッションへと移り変わっていきます。今回の展示では実物資料や「ファッション・プレート」によって、スカートや袖の形などに注目し、装いの変化をうかがうことができます。「ファッション・プレート」とは、当時の雑誌に掲載されていた図版です。銅版で刷りだした版画に1枚1枚丁寧に着色を施し、最新ファッションを発信していました。

 

19世紀中ごろから20世紀初頭の、女性の装いの様子を詳細に見ることができるファッション・プレート

 

ドレスの裾を持ち上げたときに足の甲がチラッと見えるので、その部分に凝ったデザインがされていたストッキング(19世紀、フランス製、絹)

 

1・2階とはうって変わり、今春から再公開されている3階には、主に日本の衣裳が展示されています。必見は、昭和55~57(1980~1982)年に杉野女子大学和裁研究室が「十二単の構成について」と題した研究の一環として制作した「1/2十二単(複製)」です。展示手法がユニークで、着付け順に番号が記されているので、十二単とはどんなものを着ているのか、どうやって重ね着していくのかが一目瞭然です。

 

久しぶりに公開された3階展示室

 

同館では、入館時にお願いすればスタッフの方が館内ガイドをしてくれます。華美なだけに見えるドレスも、種類によっては隠しポケットがあり便利だったことや、階段を上る時などにドレスを持ち上げると靴と足の甲が見えるので、ストッキングの甲部分は凝ったデザインがされていた、現代と変わらず(?!)当時の男性も女性のストッキングが好きだった、といったファッションのこぼれ話も聞けるかもしれませんよ。
華やかなファッションの潮流を覗きに、杉野学園衣裳博物館を訪れてみてはいかがでしょうか。

 

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インフォメーション

杉野学園衣裳博物館は、1957(昭和32)年に開館した、日本で最初の「衣装」をテーマにした博物館です。日本人の洋装化と服飾教育に尽力した杉野学園の創設者・杉野芳子氏が、新しいモードの創出のためには西洋衣裳の歴史を知る場が必要だとして、西洋衣装や各国民俗衣装を収集し設立されました。収蔵品は、西洋・日本の衣装、民族衣装など、約1400点。

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●アクセス

東京都品川区上大崎4-6-19
TEL 03-6910-4413
JR山手線、地下鉄南北線・三田線「目黒駅」より徒歩7分

詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.costumemuseum.jp/

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