6月9日まで全館さくらの日本画で彩られている「郷さくら美術館 東京」

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3月中旬頃から各地の桜の開花ニュースを耳にするようになり、街のあちらこちらでも可愛いピンクの花をつけた桜の木を目にすることが多くなりました。
見る人の顔をほころばせ、春の到来を感じさせてウキウキとした気持ちにしてくれる桜は、人々に新しい季節への活力も与えてくれます。そんな日本人の暮らしの節目に欠かせない桜が、一年中いつ訪れても咲き誇っている美術館が東京・中目黒にあります。

 

東京」は、その名の通り、主な展示作品が桜の美術館です。昭和生まれの作家の日本画を展示している現代日本画専門の美術館で、50号以上の大きなサイズの作品を中心に収集し、広く一般の方々に現代日本画の魅力に触れてもらいたいと同館では考えています。

 

桜の名所・目黒川のそばにある「郷さくら美術館 東京」

 

1階展示室Aでは、三春の瀧桜が満開

 

3階からなる美術館の1階は『桜の饗宴vol.5』と題し、展示室Aには林潤一、中島千波、平松礼二の3氏が描いた福島県三春の瀧桜をはじめ、見る者を圧倒する存在感の屏風絵が5点展示されています。
続いて展示室Bにも各地の桜の絵が展示されていますが、その中でも注目は横尾英子、伊藤深游木、家本佳生琉の3氏です。50歳代の女性3人で、並んで展示されていることで、色彩、技法などそれぞれの特徴がより際立っています。絵を見るときは1点1点と対峙することがほとんどかもしれませんが、見方を変えて、他の作品と比べて見ることで、気付かなかった個々の新たな一面を発見することができます。
同じように作家を男性と女性で分けて見てみると、大きな違いがあることに気付きます。石井正伸館長によると、コントラストの効いたバリッとした画面は男性が多く、女性はハーフトーンの扱いが上手で、やわらかい雰囲気を醸し出していることが多いそうです。たとえ日本画に馴染みがなくても、どの作品も日本人に身近な桜がモチーフにされているため、こうした絵の見方をして楽しむことができます。

 

1階展示室Bでは、同世代の女性3人の絵に注目

 

2階から3階では『第1回郷さくら美術館 桜花賞展』を開催中

 

2階から3階では、『第1回郷さくら美術館 桜花賞展』を開催しています。
同美術館は福島県郡山市に2006年に開館し、東京は昨年3月に開館したばかりの新しい美術館です。東京の開館1周年を機にコンペティションが行われ、今回その出品作品がすべて展示されています。
桜花賞展は、日本人に愛されている桜を通じて“日本画”のすばらしさを再発見してもらい、出品作品を同館のコレクションとして収蔵・展示することで、日本画の魅力を後世にも伝えていくことを目的に開催されたコンペティションです。
出品作品は、未発表の「桜」をモチーフにした50~80号のサイズの日本画で、今後の活躍が期待される昭和40年以降に生まれた気鋭の日本画家に出品を依頼したものです。

 

大賞/加藤恵『花音―滝桜―』(郷さくら美術館蔵)

 

石井館長によると、古くは源氏物語絵巻にも描かれていた桜は、これまで様々な作家に描かれており、すばらしい作品も数々あるのため、桜を好んで描く現代の作家は少ないそうです。確かに、日本画の大家たちが秀逸な作品を残していて、言うなれば出尽くしている感のある桜を、あえて描こうとはなかなか思わないのかもしれません。そうした背景がある中で、記念すべき第1回目に31作家が果敢にもチャレンジして出品し、日本画家の中島千波、林潤一の両氏が審査員となり、その中から大賞・優秀賞・館長賞・奨励賞が選出されています。

 

大賞の加藤恵さんの『花音―滝桜―』は、遠く離れていても目を引く満開の枝垂れ桜が描かれていて、まさに春爛漫。日本画は、絹本(けんぽん・絹の布)か紙本(しほん・和紙)に描かれることがほとんどで、この作品は絹本です。「裏彩色」という日本画の伝統技法で、1枚の絹に、表と裏から描かれています。手織り絵絹の「透ける」性質を利用して、さらに絹本体を裏打ちする際、裏打ち用の和紙にも桜を描いているのです。

 

館長賞/永井健志『春秋』(郷さくら美術館蔵)

 

館長賞の永井健志さんの『春秋』は、ところどころ凹凸があり、盛り上げ剤が使われています。昔は盛り上げ剤として盛り上げ胡粉(ごふん、貝殻を粉末にしたもの)が使われていましたが、時間の経過とともに劣化してしまうのが難点でした。それが新しい画材の登場によって、20年ほど前からこの技術がよく使われるようになったそうです。今回の出品作品の中にも、盛り上げ剤が使われているものが数点ありました。永井さんの抒情的に季節の移ろいを描いた絵の中にある、そうした技術にも注目です。

 

奨励賞/齋藤ゆりあ『春流譜』(郷さくら美術館蔵)

 

奨励賞の齋藤ゆりあさんの『春流譜』は、パステル調のふうわりとした若々しい雰囲気の作品だと思ったら、それもそのはず1982年生まれの若手作家。点で表された光が、枝垂れ桜の五線譜の上で踊っています。

 

シロウト眼にも、1階の作家作品が写実的なのに対し、2~3階の若い作家の描いた桜は幻想的な雰囲気の作品が多いことに気付きます。また、いつもは桜などを描いたりしない作家が、今回はじめて挑戦したのかな?とひと目でわかる作品もあります。
賞はすでに決まっていますが、それは気にせず素直な気持ちで、次世代を担う若い日本画家たち31人の渾身の作品のすべてを見て、どれがあなたの心に響くかを感じてみてください。1人でもお気に入りの日本画家が見つかれば、まだ若い彼らがこの先10年、20年後にどんな作品を描いていくのかを見続けていく楽しみになります。そうなれば、日本画がより身近なものになるでしょう。

 

1階から3階まで桜が満開の今回の展示は、6月9日まで開催しています。ぜひ、あなた好みの日本画家を探しに、郷さくら美術館 東京へ出掛けてみてください。ステキな出合いがあるかもしれませんよ。

 

1枚50円~とリーズナブルな、桜ポストカードは好評

 

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インフォメーション

郷さくら美術館は、現代日本画の専門美術館として2006年10月に福島県郡山市に開館、続いて2012年3月に東京・中目黒に東京館をオープンしました。現在500点以上の所蔵品があり、両館では企画展や季節にあわせて収蔵作品を一般公開しています。

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●アクセス

東京都目黒区上目黒1-7-13
TEL 03-3496-1771
地下鉄日比谷線・東急東横線「中目黒駅」より徒歩5分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www.satosakura.jp/tokyo/

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