「山と森の精霊」にLIXILギャラリーで出会った

0

建築やデザイン、文化などの周辺テーマを、独自の視点で取り上げているLIXILギャラリー(東京都中央区京橋)では、「山と森の精霊 高千穂・椎葉・米良の神楽展」が開催中です(会期は2013 年2 月22 日まで)。

 

宮崎県の九州脊梁山地には緑豊かな照葉樹の森が広がり、奥深い山間部では狩猟をし、山の斜面で農業を営む、自然と一体化した人々の暮らしが古来より続いてきました。そして、この地方には古事記や日本書紀に登場する神話の舞台が数多く点在し、独特な文化や風土を培ってきました。今回の展示では、その中でも神楽の宝庫といわれる高千穂、椎葉、米良の3地域に焦点をあて、伝承される夜神楽と民俗仮面を紹介しています。

 

野方野神楽(宮崎県高千穂町) 撮影:高見乾司 ※以下の写真も全て同氏によるもの

 

黒仁田神楽天岩戸神話に基づく「鈿女(うずめ)」。天鈿女命(アメノウズメノミコト)が岩戸に隠れた天照大神(アマテラスオオミカミ)を誘い出す舞。能の影響を受けて、優麗さが求められる難曲とされる。

 

神楽とは、神様を招き降ろして祈りを捧げ、歌舞は音曲などの神事芸能を奉納して、神様と人が一体となり宴を催す、その祭りや芸能のこと。日本の芸能の原点と位置付けられています。全国には非常に多くの神楽がありますが、宮崎県には300を超える神楽が伝承されており、神々の世界を今に語り継いでいます。

 

年に一度、11 月末から翌年2 月にかけて、村人たちが山から神々を迎え、夜を徹して共に舞い遊ぶ夜神楽は、五穀豊穣の祝祭であり、神楽が奉納されます。高千穂・椎葉・米良の3 地域は山深い秘境の地であるため、人々の生活形態だけでなく神楽も集落ごとに古い形を保ったまま残されています。

 

秋元神楽「戸取(トトリ)」(高千穂)。天照大神(アマテラスオオミカミ)が外を覗いた隙に天岩戸を剥ぎとる手力雄命(タヂカラオノミコト)。

 

嶽之枝尾神楽「注連引鬼神(シメヒキキジン)」(椎葉)。地主神の鬼神が八百万の神を招く舞。

 

●高千穂神楽(国指定重要無形民俗文化財)
九州山地の北端に位置する高千穂の神楽は、集落の氏神の祭りであり、秋の実りと収穫を感謝し、天照大神の復活を願うお祭りです。また「記紀神話」に記された古代国家創生の物語が中心となり、土地の神様の祭祀を織り込みながら伝承されてきました。この地域には今も20座の神楽が残っています。

 

●椎葉神楽(国指定重要無形民俗文化財)
椎葉村では、山地に約3000 人が暮らし、26 座の神楽を伝えています。平家の落人伝承を残し、かつてこの村に滞在した柳田国男が「後狩詞記」を記したことで日本民俗学発祥の地として知られるようになりました。椎葉神楽には、神楽の古形を伝える山の神儀礼が組み込まれるなど厳しい山岳地帯で生きる人々の生活文化が反映されています。

 

●米良山系の神楽(銀鏡神楽が国指定重要無形民俗文化財)
西米良村の中心地にある村所。南北朝末期、そこに南朝の皇子・懐良親王と肥後の豪族・菊池氏の残党が入山し、神楽を伝えました。村所に流入した宮中舞の名残をとどめながら、皇子の悲憤と菊池一族の悲劇が演じられる神楽は米良山系の村々に伝わり、土地の伝承も加味しながら伝承されました。また古式の狩りの作法を伝える「狩法神事」が神楽に組み込まれ、大きな特色となっています。現在米良には12 座の神楽が伝えられています。

 

会場では3地域の集落ごとに異なる神楽の様子を写真パネルで紹介。撮影は、20 年以上にわたって宮崎で神楽の調査・研究をされている高見乾司氏で、長年神楽に通いつめたから撮れた見事な写真ばかりです。そして、会場中心には、米良の「村所神楽」から、御神屋中央に吊られ、宇宙を表わす天蓋を再現し、動画映像とあわせて臨場感溢れる空間を演出。冬の山里で一夜に繰り広げられる精霊に扮した人々の舞、太鼓や笛の音が異空間へと誘います。

 

村所神楽「大王様」(米良)。米良に落ち延びた懐良親王の神格。村所の最重要演目。

 

銀鏡神楽「星の舞」。銀鏡(しろみ)と越野尾(こしのお)だけに伝わる星祭りの舞で、神楽の前日に奉納される。古代中国の星宿(せいしゅく)思想に則る神事で、大いなる自然神である「宿神」の降臨を促す。

 

小規模な展示ですが見学していると、眠っていた日本人のDNAが刺激され、ご先祖様とひととき対話しているような気分になりました。自然と密着した暮らしの中で受け継がれてきた、神々と交歓する一夜の儀式。この見応えある展示が、無料で手軽に見られることは驚きです。

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

昭和56(1981)年に開館した芭蕉記念館は、真鍋儀十翁等が寄贈した、松尾芭蕉及び俳文学関係の資料を展示するとともに、句会など文学活動の場を提供しています。年に約3回の展示替えが行われ、企画展や特別展を開催しています。

[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

東京都中央区京橋3-6-18 LIXILギャラリー 2F
TEL 03-5250-6530
地下鉄「京橋駅」より徒歩1分、「銀座1丁目駅」「宝町駅」より徒歩3分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。

http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_002192.html

[/su_note]