「暑さと衣服」~民族衣装にみる涼しさの工夫~

0

1年の世相を表す漢字が毎年年末に発表されますが、2010年は「暑」でした。猛暑が続き、熱中症にかかる人も続出した昨年同様、今年も暑さが厳しくなりそうです。それに加え今年は節電が求められ、電力消費が大きいエアコンの設定温度を見直すなどの努力が必要とされています。

 

こうした背景がある中、東京・新宿にある文化学園服飾博物館では現在、興味深い展示が行われています。
エアコンがなかった時代の日本の衣服、日本よりも暑い国の衣服ではどんな素材を使い、涼しさを得る工夫がされていたのかを、なんと34か国にも及ぶ各国の衣服を実際に見ながら知ることができます。いかに快適に暑さと付き合っていくか、東南アジア、アフリカなど暑さの厳しい地域や日本の夏の伝統的な衣服をみることで、それぞれの地域の先人の知恵をうかがい知ることができます。

 

 

2階に展示されている諸外国の衣服から少しご紹介します。

 

インド

こちらは言わずと知れたサリー。ひだをとって広がった裾から空気の入れ替えが行われ、下半身の熱と湿気が排出されます。また、上半身は汗をかきやすい背中や熱を放出する首が解放されていて、熱と汗を逃しやすくなっています。

 

中東湾岸地域

イスラム教を信仰する地域では女性は顔や体を隠さなければなりませんが、乾燥酷暑の気候のため、強烈な日射を遮り、砂嵐によって鼻や口から異物が入らないように全身を覆い包む必要もあります。衣服内全体に空気が取り込めるように、ゆったりとした形態が多いのも特徴。男性の白い頭布は、日射を遮ると同時に、太い皮膚血管がある首周りには外気を送って冷却するためです。

 

 

どちらの衣服も体を覆いすぎていて一見暑そうですが、日射によって体の水分が過剰に蒸発するのを防ぐためであったり、要所要所は空気を取り込めるようになっていたり、見事に計算されつくした形態になっています。
続いて1階に降りると、そこには明治から昭和の始めにかけての日本の浴衣や着物が展示されています。

 

諸外国の衣服にはなく、日本の夏の衣服にだけ見られる特徴は“色”と“柄”です。爽やかなブルーの地に大振りの撫子と流水で涼しさを感じさせる趣向が凝らされていたり、黒地に白のそろばん玉が爽やかさを誘っていたり、川を鮎が泳いでいたりと、着ている本人だけでなく、周りにも涼を感じさせるようなものが数多く見られることです。そうした心遣いができる涼しげないでたちの和美人が、当時は多かったのかもしれませんね。

 

 

今回の展示で特に注目したいのは、文化・衣環境学研究所や文化学園大学テキスタイル研究室の協力を得て、各国の衣服の布地の吸水性、透湿性、通気性、接触冷感の4項目にわたる調査結果がグラフで示されていたり、伝統の中にある涼しさの工夫を科学的にも検証している点です。
また、現代の衣服への応用も考察していて、暑さに対処するために今夏は特にさまざまなインナー(肌着)が販売されていますが、その素材に着目した実験と結果も展示されています。市販品から6種類を選び、夏のインナーとしての着心地と密接な関係を持つ吸水性、透湿性、通気性、接触冷感について調べ、実験結果とともにそれぞれの素材も並べて置いてあり、触って特性を実感することができるようになっています。

 

今夏の暑さを乗り越えられるような、遠く離れた時と空間を超えた涼しさの工夫が、このほかにも満載です。観る人それぞれの視点からまた新たな工夫が生まれ、周囲に涼しさを届けられるような和美人がたくさん増えますように!

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション

文化学園服飾博物館は学校法人文化学園の付属施設で、文化服装学院と文化学園大学は日本の服装教育の中心的存在として、服飾界に多くの人材を送り出しています。1979年に開設された博物館には、日本のみならず世界各地の服飾資料を所蔵。年に4回テーマを設けた展覧会を開催しています。

[/su_note]

 

[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス

東京都渋谷区代々木3-22-7新宿文化クイントビル
JR・京王線・小田急線新宿駅(南口)より徒歩7分
TEL 03-3299-2387
詳しくは下記オフィシャルサイトをご参照ください。
http://www.bunka.ac.jp/museum/hakubutsu.htm

[/su_note]