もやし

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植物が芽を出して、もやもやとした状態になったものを「萌(もやし)」といいます。日本人は昔から萌えいづる芽を食したり、利用してきました。

 

豆に芽を出させて、その芽を食するのが「もやし」です。現在、日本国内では緑豆やブラックマッペ、大豆を種子とするもやしが生産されています。それぞれに特徴があり、料理など目的で使い分けられています。

 

緑豆の種子は中国やミャンマーで採れたものが中心で、日本国内の工場でもやしが作られます。国内で流通するもやしの主流は緑豆から出来たもので、やや太く、クセのない味。炒め物や鍋物、ラーメンなどに広く利用されています。

 

ブラックマッペの種子はミャンマーやタイ産。ブラックマッペのもやしは、やや細めで甘みがほのかにあります。しっかりした食感が好まれていて、焼きそばやお好み焼きなどに合います。大豆の種子はアメリカ、カナダ、中国などから。大豆のもやしは、もやしに豆が付いたまま食され、独特の味と食感で人気があります。韓国料理のナムルによく使われます。

 

もやしと日本人、その付き合いは古く、平安時代に書かれた日本で最も古い薬草の本「本草和名(ほんぞうわみょう)」に「毛也之(モヤシ)」として紹介されており、薬用として栽培されていたという話があります。また、南北朝の時代には、楠正成が籠城した際、兵に豆の芽を食べさせて敵の兵糧攻めに堪えたと言われています。

 

江戸時代の「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」には、黒豆をもやしにして、芽が五寸ほどの長さになったところで乾燥させ、よく煎って服用すると、痺れや膝の痛み、筋のひきつりなどに効くと記されています。江戸末期には長崎に漂着した異人から豆萌(もやし)のつくり方を教えられ、それが地方に広まりました。その後、当時天下の珍味としてこれを将軍に献上したという話もあります。

 

第二次大戦後、もやしは日本各地で盛んに栽培されるようになりました。各地に小さな「もやし屋さん」が登場し、一時は全国で1,000社以上あったと言われています。
また、スーパーマーケットの登場により、それまで八百屋さんが店頭で目方売りしていたもやしの販売方法が、小袋包装へと変化していきました。

 

今日では、もやしを生産する工場は集約化が進み全国に150社ほど。清浄な水と先端技術を用いた環境で育成されていて、安全安心な“工場野菜”となっています。

 

植物の芽はとても成長力があるので、昔から神秘的にさえ思われてきました。事実として豆類のもやしにはカルシウム、リン、鉄分などのミネラルのほか、ビタミンB群、C、Eなどのビタミン類も豊富です。それも豆だけの時より2倍近く微量栄養素が増加するのですから、発芽させてから食するのは栄養学的に見ても大変理にかなった知恵なのです。

 

「たかがもやし」などと、軽くみるのは間違いのようです。

 

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【参考資料・web】

「食と日本人の知恵(著:小泉武夫)」岩波現代文庫
「大豆もやし普及委員会HP」もやし生産者協会
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