恋愛成就の第一歩「地主神社」

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京都市内にある清水の本堂を抜けると左手に太いしめなわを結んだ大きな鳥居が見えてきます。その手前には良縁祈願、えんむすびの神と書かれた立て板が。さらには鳥居の先、やや傾斜のある石段が続く脇の授与所の軒下にも丸く朱色で「縁」と塗られた丸板が下がっていました。清水の舞台からの絶景を堪能した後だからでしょうか、鳥居を抜ける参拝者の表情はどこか幸せそうで、石段を登る足取りもとても軽やかです。辺りは恋占いに訪れた女性や一家の幸せを祈願しに来た男性の興奮と活力に満ちた声が飛び交い、平日でありながらまるで縁日のような賑わいを見せていました。

 

地主(じしゅ)神社の創建は神代(かみよ)の時代、つまり日本の建国以前とされています。京都盆地がまだ湖であった頃、地主神社の鎮座するこの辺りは「名勝蓬莱山(宝来山)」と称され古くから不老長寿の霊山として厚い信仰を集めてきました。遠路はるばる舟でこの地に訪れる者もいたようで、その名残は境内に隣接する崖下に今なお船着き場史跡として残っています。

 

因幡の白兎と大国主命。鳥居を抜けて登った先にあります。

 

恋占いの石。通りの先にも同様の石が据えられています。

 

主祭神は大国主命(おおくにぬしのみこと)。縁結びの神様として知られていますが、関連する故事として「因幡の白兎(白兎神社の祭神)」のお話が有名ですね。ここでは詳細は省きますが、鮫に毛をむしられ泣いている兎に八十神たちが「海水を浴びて風に当たり寝ていなさい」と助言を与え、それに従ったばかりに一層裸の皮の傷口に塩が染みこみ、痛さで砂浜に伏せるばかりの兎は次に通りかかった大国主命の「真水で塩を洗い、蒲(がま)の花粉をしきちらした上に寝ころびなさい」との助言に従うや元気になったというお話。その後、感謝の念から兎が縁をとりもった八上姫(やがみひめ)は大国主命の第1の妻とされています。やがて大国主命は多数の女神と結ばれます。それが縁結びの神様として称される由縁となった他、大国主命が男女の縁のみならずこの世のいっさいの縁を統率していたことから現在ではより広く人と人との根本的な縁を結ぶ神様としても尊崇されています。

 

そのゆえか、境内至るところに縁結びのご利益のあるスポットが点在しています。その一つが「恋占いの石」。しめなわを巻いた、高さ50センチほどの小さな石が本殿前の通りに2つ、距離として10メートルほど離れて据えられています。一方の石から眼を閉じて歩き、反対側の石に無事にたどりつくことが出来れば恋の願いが叶うとされ、また途中誰かの介添えを頼んでも、他者の助けで恋愛は成就されるとのこと。歴史は古く、遡れば室町時代の文献「清水寺参詣曼荼羅」に恋占いの石に向かい拝む男性の姿が描かれています。また江戸時代の文献からも「老若男女、終日嬉嬉としてたわむる」との記述が残っていますが、近年の研究で恋占いの石がはるか縄文時代の遺物であることも確認されています。悠久の歴史を生きるとても霊験あらたかな守護石ですから、お立ち寄りの際は是非恋愛成就に向けて果敢にチャレンジしてみてください。

 

しあわせの銅鑼。神様に願いを聞き入れてもらう前の場作りのための道具です。

 

おかげ明神と祈り杉。どんな願い事でもひとつだけなら必ず叶うとされています。

 

さらに奥へと進んでみましょう。本殿横に銅鑼(どら)を飾った社が建っています。
これは「しあわせの銅鑼」と呼ばれ、三度軽く打つとその心地よい響きが神様に伝わり良縁に授かれるというもの。銅と錫(すず)という二種の異なる金属を組み合わせた銅鑼の造りが人と人との出会いを引き寄せる暗喩にもなっています。また銅鑼の清らかな響きには古来より邪霊を祓い周囲を浄化してくれる力があると言われており、三度打ち叩くのは三という数字が万物の生成と繁栄を約束するめでたい数だからなのだそうです。

 

撫で大国さま。撫でる箇所により良縁、受験必勝、安産、商売繁盛、勝運などのご利益があるとされています。

 

水かけ地蔵さま。身の丈50センチほどの小さなお地蔵さまです。

 

銅鑼の社前には人の列が絶えず大盛況でした。叩き終えた人の流れも、この開けた空間に据えられた一願成就の「おかげ明神と祈り杉」や、撫でる場所によって幾多のご利益が授かれる「撫で大国さま」、そして水をかけて祈願すると願いの叶う「水かけ地蔵さま」の列と渾然一体となって賑わい、私が鳥居に入る前に抱いた、さながら縁日のようであるとの印象はここにきて最高潮に達しました。

 

地主桜

 

人の流れを斜めにぬって拝殿を通り過ぎる横目に「地主桜」の案内板と、枯れた一本の木が目に入りました。幹も枝も細く枯れた状態ですが、案内板によると地主桜は古来より天下の名桜と謳われ、一樹に八重と一重の花を同時に咲かせるとても貴重な桜の木なのです。別名「御車返しの桜」とも称され、平安時代にあっては嵯峨天皇が枝に咲き誇る桜の色彩があまりに美しく、二度、三度と車を引き返しては桜の花を眺め続けたといいます。
今回は季節柄、桜の花を拝見することは出来ませんでしたが、桜の色味で飾られた神社の景色は、石の間を行き交う参拝者の笑顔と重なり春には、今とは別のほんのり暖かい表情を見せてくれるに違いありません。

 

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アクセス

京都市東山区清水一丁目317
TEL 075-541-2097
JR京都駅・近鉄京都駅から市バス206・100系統で12分
阪急河原町・京阪祇園四条駅から市バス207系統で12分
*「五条坂」「清水道(きよみずみち)」各バス停で下車、徒歩10分

http://www.jishujinja.or.jp/index.html
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