紅葉の宴~谷に架かる三名橋からの眺め~「東福寺」

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元々東福寺の境内地には法性寺という藤原氏の氏寺がありました。延長2年(924)に藤原忠平によって建てられたお寺ですが、鎌倉中期に至るおよそ300年余りの間に、この地には藤原家やその本宗である九条家によって次々と壮大なお堂が建設されていきました。
寛弘3年(1006)には藤原道長が五大明王像を祀る五大堂を建てました。続く久安4年(1148)には藤原忠通が正室の宗子のために最勝金剛院を建て、そして九条兼実によっては阿弥陀像を安置した別荘でもある月輪殿が建てられるなど時の権力者の手による巨大な伽藍群が当時大いに衆目を集めていたようです。

 

その巨大伽藍建設の先例にならい、この地に高さおよそ15メートルの釈迦像を安置するお堂を建立することを発願したのが兼実の孫である九条道家。京都最大の大伽藍を造営するべく、嘉禎2年(1236)からあしかけ19年を費やしようやく建長7年(1255)に寺の堂宇の完成にこぎつけます。完成に伴い、法性寺は新たな敷地に合併吸収、その名を東福寺と改め、当初は旧仏教との争いを避けるべく天台、真言、禅の3宗兼学大道場として始まりました。なお工事途上の寛元元年(1243)には開山として円爾弁円(えんにべんえん)を迎えていますが、後に花園天皇より賜った「聖一国師」の名は日本禅僧最初の賜号だと言うことはよく知られています。

 

ちなみに東福寺は奈良のお寺をモデルに建てられました。それは巨大な伽藍の建ち並ぶ南都奈良の壮観な佇まいへの憧憬があったのかもしれません。実際道家の発願文にも「洪基(こうき)を東大に亜ぎ、盛業を興福に取る」とあるように東福寺の名は当時奈良で最大の規模を誇った東大寺と興福寺からそれぞれ各1字を取っています。また法性寺の頃から終始一貫したこの巨大な伽藍へのあくなき追及は後に東福寺が愛称として伽藍面(がらんづら)と称される所以ともなりました。

 

東福寺の境内、伽藍面として最も注目すべきはとりわけ大仏様で造られた正門の三門でしょうか。至徳2年(1385)に造営が開始され、応永12年(1405)にようやく完成した五間三戸の二階二重門で、高さはおよそ22メートル、現存する禅宗寺院の三門としては最古で最大のものだと言われています。その楼上には宝冠釈迦如来や十六羅漢などの諸仏が安置され、その天井には足利義持筆の「玅雲閣」の額や、明兆とその弟子による「迦陵頻伽(かりょうびんか)」が描かれています。

 

三門

 

本堂。昭和9年築の入母屋造の建築

 

また禅堂も見逃してはいけません。現在の禅堂は建武元年(1334)に焼失した後に再建された切妻造の建物ですが、わが国最古で最大、中世唯一の僧堂建築として有名です。

 

禅堂とは住まう禅僧たちが日夜坐禅を組んでいた場所のことで、東福寺のそれはおよそ500人以上の修行僧が参禅できるほどに大規模な修行場となっています。また別名「選仏場(せんぶつじょう)」とも称されるのは、堂の中に円爾の師である無準師範(ぶじゅんしばんが)描いた「選仏場」の額が掲げられていることによっているようですね。

 

禅堂

 

愛染堂。南北朝時代の建築

 

さらにこの一大伽藍群に格別な彩りを与えているのが境内に広がる自然の景観であることに疑う余地はありません。例えば「方丈庭園」。方丈庭園は昭和の名庭作家重森三玲の手により昭和14年(1939)に作庭されました。元々「八相の庭」と銘打っていましたが、2014年に名勝に登録されて以後は「東福寺本坊庭園」とその名を改めています。
方丈の東西南北に四つの庭を巡らせていますが、いずれも作庭前に提示された唯一の条件である「一切の無駄をしてはならない」との禅の教えを元に、三玲は本坊内にあった材料全て捨てることなく、再利用して完成させました。仕上がりは日本庭園として従来の規範にとらわれない斬新な意匠構成であるとの評があったようですが、作庭に当たり禅の厳しい制約が課せられたからこそ逆に東庭の北斗七星や西庭の大市松に北庭の小市松、そして南庭の四つの神仙島や京都五山が生まれたのだと考えるとその評者の想いも納得のいく気がします。

 

方丈。明治23年再建

 

開山堂。聖一国師を祀っています

 

そして何といってもちょうどこの季節、渓谷・洗玉潤(せんぎょくかん)に栄える紅葉は絶対に見ておきましょう。谷に架かる臥雲橋、通天橋、偃月橋(東福寺三名橋)からの眺めの中でも方丈と開山堂を結ぶ通天橋からの景観がとにかく見事としかいいようがないのです。染まる赤の葉群れの隙間に覗く開山堂や方丈と人の笑顔で膨らむ向かいの臥雲橋、目を凝らせば赤に混じって珍しくも葉先を黄金に輝かせた三ツ葉楓も確認することが出来るでしょう。京都五山4位の東福寺ではありますが、全く素晴らしい随一の雅を京の秋に感じることが出来ました。

 

臥雲橋からの眺め。遠くに見えるのは通天橋

 

通天橋からの眺め。方丈が見えます

 

通天橋からの眺め。遠くに見えるのは臥雲橋

 

通天橋の下には広大な庭園が広がっています

 

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アクセス

京都府京都市東山区本町15丁目778
TEL 075-561-0087
JR奈良線・京阪本線「東福寺駅」下車、徒歩10分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.tofukuji.jp/index.html
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