鈴虫寺へと通ずる石段を登っていくと、正門から続く長蛇の列ができていました。
何事かと思いながらその最後尾について、列が解消するのを待っていましたが、5分経過してもなかなか前に進みません。
よほど境内に人が滞留しているのかと思っていた折、袈裟に身を包んだお坊さんがやってきてお待たせしましたと、50人ほどの参詣者を一挙に中へと導きます。通されたのは客殿の中の大きな広間。机の上にはお茶と茶菓子が用意されていました。どこからかリィーン、リィーンと鈴のように心地よい虫の響きが耳に聞こえてきますが、所在は今のところ分かりません。銘々が座布団に腰を下ろしてしばらく待っていると、寺の住職である桂紹寿(かつらしょうじゅ)さんがにこやかな表情をして参詣者の前に現われます。
石段。正門まで結構距離あります
正門
「お暑い中、お越しいただきありがとうございます」
柔らかく優しい言葉で私たちをねぎらう桂紹寿さん。遠慮からかなかなかお茶とお菓子に手をつけない私たちに、それは、禅宗の教えの一つである「茶礼」に基づいた作法だからと、そのお寺オリジナルの茶菓子を笑顔で勧めてくれます。
そうした柔らかさもあって10分も経過するころには、広間に集った参詣者の緊張はほとんど解消されていました。おそらくリズミカルでユーモアあふれる桂紹寿さんの話し方にも心の角を丸くする作用があったのかもしれません。
桂紹寿さんの説法は通称「鈴虫説法」と呼ばれています。広間で飼われた鈴虫の音色に併せて話が展開されることからそうした呼び名がついているのでしょうか。説法の中ではお参りの仕方、日々の心の持ち方について、新たな気づきを得られるようなありがたいお話をたくさん聞くことができます。一方で神社仏閣巡りが隆盛を極める中、参詣者とお坊さんとの距離だけはどうしても縮まらず、堂宇やお庭を見てそく帰るだけの参拝に日ごろから煮え切らない想いを抱いているという心情も吐露してくださいました。当寺が鈴虫説法で必ず最初に参詣者を客殿へ迎え入れるのもお寺本来の在り方として人との距離、ご縁をとても大切にしているからこそなんでしょうね。
客殿
本殿
庭
鈴虫説法はおよそ40分程度で終了します。全く堅苦しくはありません。むしろ楽しく幸せな気持ちになるので、日ごろあまり無い機会でしょうからぜひ一度は聞きに訪れてみてはと思います。
さて、鈴虫説法を聞き終えた一団は黄色のお守りを手にして、正門脇に立つ「幸福地蔵さん」の元へと足を運びます(任意)。幸福地蔵さんは本当の名を「幸福地蔵菩薩」と言い、右手に錫杖(しゃくじょう)、左手には宝珠(ほうじゅ)を持っています。
この幸福地蔵さんに黄色いお守りを手にした状態で願いを念じると一つだけ叶えて欲しい想いが成就するとされています。ちなみにこの幸福地蔵さんが仏様としては唯一わらじをお履きになっている理由は、このわらじを履いて、願いを念じた人の元へわざわざ歩いて訪れてくれるところにその由来があるようですね。
幸福地蔵さん。この世に生きる私たちの願いを叶えてくれるほか、地獄に堕ちた人々を救ってくださる慈悲をも併せ持ちます
幸福地蔵さんに願いを届けたあとは、再び山門をくぐって、鈴虫寺のお庭をぜひ拝観ください。松尾山麓に佇む立地柄、周囲には四季によって色を変える花や石や竹林が境内に彩を与えています。空気は清く、客殿から鈴虫の音色が聞こえるほどにお庭は静かですから、日ごろ忙しさにかまけてなかなか向き合えない自分と対話し、新たな側面を見出してみるのもよいですね。
竹林の続く庭
鈴虫小屋
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アクセス
京都府京都市西京区松室地家町31
TEL 075-381-3830
阪急電車嵐山線松尾駅下車徒歩15分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.suzutera.or.jp/
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