湛海律師と村民の絆「宝山寺」

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宝山寺は斉明天皇元年(655)に役行者が開いたとされる真言律宗大本山の寺院。当初は修験道場として発ち、あの空海も境内に今なお残る般若窟で修行を行ったとされています。それから時を経た延宝6年(1678)に湛海律師が寺を再興、鎮守神として歓喜天を祀ると、寺名をそれまでの都史陀山大聖無動寺(としださんだいしょうむどうじ)から宝山寺と改名しました。今では親しみを込めて生駒の聖天さんなどとも呼ばれているようです。

 

惣門

 

宝山寺を語るうえでは創始者の湛海律師(たんかいりっし)の人生に触れないわけにはいきません。湛海律師は寛永6年(1629)に三重県は津市にある一色村に生まれ、ある日に訪れた堺の神鳳寺(現大鳥神社)の円忍律師より戒を授かりました。

 

壮年の頃より、学問ではなく、行こそが人を救う道であるとの信念を抱き、それを実践すべく大和葛城山麓の山林では千日不出の木食行を続けたとされています。その千日目、自らの行を完成するにふさわしい生駒山の存在を不動明王より冥示されると、程なく湛海律師は数名の弟子を引き連れて生駒山に入山。数々の困難にあいながらも、苦行を重ねた結果、村民からの惜しみない協力を受けて、とうとう延宝8年(1680)には8万枚の護摩供を修した仮本堂を築くに至りました。生駒の伽藍はそれから10年のうちにほぼ完成したのだそうです。

 

本堂。背後に迫る断崖が般若窟

 

湛海律師は彫刻や絵画の分野で非常に秀でた才覚を持ち合わせ、厨子入五大明王像や本尊の不動明王像といった傑作を今に伝えています。また生きながら悟りの境地に達することを目指し、常より苦修練行を絶やさなかったといいます。だからでしょうか、いつの頃からか「生駒に優れた験者あり」との噂が広まり、それを聞きつけた多くの悩み人が湛海律師の元へと訪れました。

 

例えば関白近衛家熙もそのうちの一人。悩みの種であった腫れ物を治すべく湛海律師の元へと来訪しています。その祈祷によって彼の腫れ物はすぐさま治癒しました。その奇蹟が家熙を介して東山天皇や徳川家宣にも伝わり、その勅命である息子誕生祈願にも湛海律師は難なく応えてみせました。以後は「求子の祈祷」や「世継ぎの安泰祈祷」が相次ぎ、やがては貴族ばかりでなく、商人、庶民も盛んに宝山寺の湛海律師の元へと訪れるようになったのだそうです。

 

ちなみに現在の宝山寺はとりわけ商売繁盛の現世利益に強い効験があるようです。その故は聖天堂に祀られている歓喜天(聖天)の存在と無縁ではないでしょう。歓喜天は人気、商売繁盛の神さまとして、全国的な信仰を集めています。また宝山寺の歓喜天は数ある聖天さんの中でも、東京の本龍院、埼玉県の歓喜院(所説あり)に並ぶ日本三大聖天の一つとされ、そのご利益にあやかるべく年間300万人以上の参拝客が宝山寺を訪れるといいます。

 

なお聖天堂の施主は大阪の医師であった谷村昌安玄仙。貞享3年(1686)、湛海律師の求めに応じて築き上げられました。八つ棟造りのお堂は棟や破風の数の多い一風変わった外観を有しており、寺院建築としては非常に珍しいものなのだそう。

 

聖天堂拝殿

 

そしてその横手の本堂は貞享5年(1688)に郡山藩家老であった梶金平一雄と梶民部一貞父子が施主となり、延宝8年に建築の仮本堂を建て替えて築かれました。宝山寺創建当初の威風を残す唯一最古の建造物とされ、堂の内部には本尊である不動明王像が安置されています。その建築年からおそらくこの本堂も村人や家老が湛海律師の求めに協力する形で成立したものなのでしょう。

 

観音堂。観音堂の前身である建物は天和4年(1864)の完成。その時仮本堂以外これといった建物がなかったため、宝山寺境内においては最も早い時期での建立

 

参道を歩いていて、山の中腹に築かれた各種伽藍が、広大な境内にまとまりよく配置されているのがとても印象的でした。その理由に湛海律師の影を見てしまうのはきっと私だけではないのでしょう。

 

文殊堂。参れば学業成就のご利益があるとされています

 

多宝塔。昭和32年(1957)に十八世実道和尚の手によって建立されたもの

 

奥の院に通じる参道

 

大師堂。観音堂と奥の院の間、緑茂る静かな林道脇に建っています

 

般若窟。その名の由来はかつて役行者がここに般若経を納めたからであると言われています

 

奥の院本堂。かつてこの堂内には大黒天や毘沙門天など総計16の像が祀られていました

 

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アクセス

奈良県生駒市門前町1-1
TEL 0743-73-2006
近鉄生駒駅下車ケーブル線。宝山寺駅下車徒歩10分
詳しくは、下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.hozanji.com/index.html
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