名古屋には「文化のみち」と名付けられたエリアがあります。名古屋城から江戸時代の大名庭園を再現した徳川園に至る地域のことで、江戸から明治、大正時代へと続く名古屋の近代化の歩みを伝える建築遺産の保存と活用が行われています。
ここにある施設の1つ「文化のみち二葉館(名古屋市旧川上貞奴邸)」は、各施設の情報を発信する、文化のみちの拠点施設となっています。
nbsp;
平成17(2005)年に現在の場所に移築・復元された二葉館の創建は大正9(1920)年頃。外観はオレンジ色の屋根が特徴の瀟洒な洋館です。設計・施工を行った“あめりか屋”は、アメリカ帰りの橋口信助がはじめた日本で最初期の洋風住宅専門会社で、あめりか屋のつくる住宅は、当時一世を風靡したほど人気があったそうです。
そのステキな館に暮らしていたのが日本初の女優・川上貞奴と、木曽川水系に7カ所もの発電所を建設し、電力王と呼ばれていた福沢桃介です。創建当時は文化のみちエリアの北端の東二葉町にあり、名古屋城や御岳も一望できる高台に建ち遠くからも目立ったため、周囲からは「二葉御殿」と呼ばれていたそうです。2,000坪もの敷地を有していたというのですから、御殿と呼ばれていたのもうなずけます。
nbsp;
館内に入ってすぐの1階大広間は、暖かな日差しが差し込む明るい雰囲気で、福沢桃介の義弟・杉浦非水(当時人気を博したデザイナー)の原画をもとに作成されたステンドグラスがあります。まわり階段や円形に張り出したソファが、大広間でいいムードを醸しているものの、訪れた人の心を掴んで放さなかったのは光を受けて輝くステンドグラスだったに違いありません。
nbsp;
遠くからでもわかるオレンジ色の屋根が特徴の「文化のみち二葉館」
nbsp;
ステキなステンドグラスが主役になっている1階大広間
nbsp;
創建当初のままの和室にある、貞奴が愛用していた文机と座布団
nbsp;
羽裏にも凝っている男物の羽織と、貞奴直筆の大胆な馬紋様の名古屋帯
nbsp;
明治4(1871)年に生まれた川上貞奴(本名・小山貞)は、16歳で芸者になり“奴”と呼ばれるようになりました。23歳で「オッペケペー節」で有名だった書生演劇の川上音二郎と結婚。川上一座が興行で訪れたアメリカで女優としてはじめて舞台に立ち、パリ万博公演で一躍有名になりました。マダム貞奴に魅了された芸術家は数知れず、ピカソは貞奴を描き、そのデッサンは館内に展示されています。
音二郎の7回忌を経て女優を引退した貞奴は、その後、なんと起業し、名古屋で輸出向けの上質な絹を生産・販売する会社を設立。その後、親交のあった福沢桃介の事業パートナーとして二葉御殿で生活を共にしました。1階大広間で、財界人をもてなして発電所建設の事業推進のために尽力する一方で、経営者としての仕事もこなしていたようです。
芸者から女優、実業家へと見事な転身を果たした貞奴ですが、女性としても優れた美意識の持ち主だったことが、二葉館の設えや彼女の愛用していた品々からうかがい知ることができます。
nbsp;
左手の和室との和洋折衷のバランスが美しい1階廊下
nbsp;
1階大広間から2階へとつづくまわり階段
nbsp;
二葉館は設計・施工を行ったあめりか屋と、貞奴のセンスの良さから生まれた館のように思われるかもしれませんが、生活を共にした福沢桃介の痕跡もしっかり残っています。二葉館は当時としては珍しく電気設備が充実していました。自家発電装置があり、屋根の上には、夜間でも庭を照らすことができるサーチライトがあったというのですから、さすが電力王の邸宅だっただけあります。大理石でできた、創建当初の巨大な配電盤も見ることができます。
nbsp;
郷土ゆかりの文学者の資料を展示している2階では、城山三郎の書斎を再現
nbsp;
貞奴気分で優雅にまわり階段を上り2階へ行くと、郷土ゆかりの文学資料が展示されています。坪内逍遙をはじめ、城山三郎など名古屋を中心とする郷土ゆかりの文学者と文学作品を資料やパネルで紹介しています。城山三郎の書斎部屋は、再現とはいえ『硫黄島に死す』や『官僚たちの夏』などがここから生まれたかと思うとファンにはたまらない空間ではないでしょうか。
nbsp;
文化のみちには、このほか大正11(1922)年に建てられたネオ・バロック様式でレンガ造りの「名古屋市市政資料館」、陶磁器商だった井元為三郎が大正末期から昭和初期にかけて建てた洋館・和館・蔵が残っている「文化のみち橦木館」など、外観を見るだけでも目の保養になるような、現代にはないステキな建築物が点在しています。
大正ロマンがあふれる文化のみち散策に、たまには気分を盛り上げて楽しむための演出で、着物で出掛けてみてはいかがでしょうか。
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション
文化のみち二葉館は、日本初の女優・川上貞奴と、電力王・福沢桃介が、大正から昭和初期にかけて暮らしていた邸宅を移築・復元し、川上貞奴に関する資料を展示するとともに、郷土ゆかりの文学資料の保存・展示をしています。
[/su_note]
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス
愛知県名古屋市東区橦木町3-23
TEL 052-936-3836
地下鉄桜通線「高岳駅」より徒歩10分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.futabakan.jp/
[/su_note]