いきなりですが、質問です。あなたの部屋に箪笥(たんす)はありますか?
一人暮らしならベッド下に収納ボックスを置いて衣類をしまったりして、箪笥を持っている人は少ないのではないでしょうか。一般家庭でも、最近のマンションにはウォークインクローゼットがあり、そこに大きな箪笥を置くとはあまり考えられません。自分の住まいにはないけれど実家にはある、という人が現代は多いかもしれません。住宅事情により、婚礼道具に箪笥を何棹も持っていくお嫁さんも減少し、大物家具の箪笥はいつのまにか私たちの周りから姿を消しています。
でも、思い出してみてください。幼少の頃に、学習机と同じように自分の整理箪笥を持ったときの嬉しさ、近所のお姉さんがお嫁に行くときに見せてくれた豪華な箪笥への憧れ。箪笥にまつわる思い出は、幸せなものではありませんか。
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さて、今回ご紹介します家具の博物館の企画展は、その箪笥が主役です。
今年で開設40周年を迎えた家具の博物館では、これを記念して企画展「衣裳箪笥」を開催しています。
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東京郊外ののどかな街に「家具の博物館」はあります
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今回の企画展では、衣裳箪笥40点が展示されています
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そもそも、箪笥ができたのはいつの時代なのでしょうか。
むかしむかし、衣類の収納には櫃(ひつ)、長持(ながもち)、葛籠(つづら)などの箱が用いられていましたが、江戸時代に抽斗(ひきだし)式の収納具である衣裳箪笥が用いられるようになりました。延宝期頃には大阪で作られるようになり、元禄期に各地に広まっていったと考えられています。
箪笥がつくられるようになった背景には、木材産業の発展があります。いろいろな工具が開発され、技術も向上したことで、薄板が使われる衣裳箪笥の製作を可能にしたのです。
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当初は、町人の中でも富裕層の間で嫁入り道具として用いられていた衣裳箪笥は、明治時代になって封建制度から開放されると、個性豊かなものが日本各地でつくられるようになりました。展示室では、東海、近畿、九州など日本各地の衣裳箪笥が見られます。箪笥とひと口に言っても、その地域独自に生み出された実用と機能を兼ね備えた箪笥の世界を堪能できます。
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写真をご覧いただくとわかるように、どの衣裳箪笥もとても豪華。それもそのはず、婚礼道具は周囲の人に見せるものだったからです。最近は少なくなったかもしれませんが、今でもそうした風習が残っている地域があります。
箪笥を大きく立派に見せるため、または水平に保つためなどの理由で箪笥の下に置いている平たい板の台輪(だいわ)の上に小さい箪笥を2つ並べて、その上に大きな上置(うわおき)を載せた三つ組の衣裳箪笥は、夫婦箪笥ともいわれるほど大きいもの。金具には透かし彫りや線彫りで、松竹梅の装飾や福や寿の文字が施されています。
ほとんどの箪笥に装飾がされていますが、それはただのデザインではありません。箪笥をはじめ、日本の家具には一族の繁栄を願う文様が施されているのです。自然界の植物や動物などさまざまありますが、その中でも松竹梅や鶴亀など縁起がよいとされている吉祥文様は、好んで婚礼道具に用いられていました。デザイン性の高さと、それを金具に表現する技術力によって完成した各箪笥に用いられている文様。それだけでも夢中になって見てしまう楽しさがあります。
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2棹とも、夫婦箪笥といわれる三つ組の大きな衣裳箪笥
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夫婦箪笥の台輪には、「福」の文字が!箪笥の装飾を見るだけでも面白い
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婚礼道具の豪華な衣裳箪笥は、嫁ぎ先で常々使用されていたかというと、そうではありません。主にはハレの日の衣裳を収納し、納戸などにしまわれていたのです。嫁入りの際に人々に裕福さを誇示するための箪笥ですから、見た目重視!な点は否めません。
箪笥の真ん中に閂(かんぬき)がある箪笥は、いま見ても装飾も凝っていて格好のいいデザインですが、肝心の使い勝手はどうでしょう。いちいち閂を取らないと抽斗を開けられないのですから、日常使いには不向きなのはいうまでもありませんよね。
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箪笥の真ん中に閂がドーン!邪魔で抽斗が開けられません
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見るだけではなく、組接ぎをしたりして木に親しむ体験コーナーもあります
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常設展では、ヨーロッパ各国の町屋や農家で用いられてきたカントリーファニチャーを展示しています
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工夫が凝らされた装飾の美しさから、美術品といってもいいほどの存在感を放っている衣裳箪笥の数々。まとめて見られるこの機会に、ぜひ見に行ってみてくださいね。企画展「衣裳箪笥」は、11月25日まで開催しています。
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インフォメーション
家具の博物館は、伝統ある家具を収集・保存して後世に伝えるとともに、新時代の家具の創造・研究に資することを目的に設立された博物館です。収納具、照明具、暖房具、容飾具、飲食具、座臥具など約1700点ものコレクションを有し、80坪もある展示場内には、約200点を常時展示しています。
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●アクセス
東京都昭島市中神町1148
TEL 042-500-0636
JR青梅線「中神駅」北口より徒歩5分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.kaguhaku.or.jp/
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