“和美人になれる美術展”で紹介するのにピッタリ!な企画展が、6月19日まで東京家政大学博物館で行われています。
同展では、少し昔の日本では各家庭で当たり前に行われていた年中行事を、そのいわれと共に、旬の食材や縁起の良い食材でつくった行事食も紹介しています。
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日本には、節句(端午の節句、七夕の節句など)や、1年を24等分にした節気(春分、大暑、冬至など)等の季節の変わり目ごとに行事や祭りが行われてきました。それらは農作祈願や子どもの成長祝い、家族の健康に感謝するものでした。
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東京家政大学の百周年記念館内に博物館はあります
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(左)明治以降、関東では西洋にならって左が男雛、右に女雛。
(右)関西では日本古来の風習に従っていてその逆になっています
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展示されていた年中行事や行事食の中から、いくつかご紹介します。
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◎衣更え(ころもがえ)/新暦6月1日・10月1日、旧暦4月1日・10月1日
制服のある学校や職場では6月1日と10月1日に衣更えを行いますが、近年は各家庭で厳密に行うことはなくなりました。
着物を着ていた江戸時代、人々は季節に応じて袷(あわせ)、単衣(ひとえ)、綿入(わたいれ)の3枚の着物が必要でした。布は高価で何枚も持つことができない庶民は、季節ごとに仕立て直して着まわすのが一般的でした。夏は裏地をとって一枚にして単衣に、秋に裏地をまたつけて袷にし、冬になって寒さが厳しくなると着物と裏地の間に綿を入れて綿入に、春になると綿を抜いてまた袷にしていたのです。
春の衣更えを「綿貫(わたぬき)」と言い、旧暦の4月1日に行ったので、「四月一日」は「わたぬき」とも読みます。四月一日さんという、この名字の方も存在するそうですよ。
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◎重陽の節句(ちょうようのせっく)/新暦・旧暦9月9日
重陽とは、陽数(奇数)の最大値が重なる日で、中国では大変おめでたい日とされています。古代中国では、邪気をはらい長生きする効能がある菊の花を酒に浸した菊花酒を飲む風習がありました。日本では、平安時代から宮中行事として菊花酒を飲み、菊を観て詩歌を読む宴を行い、不老長寿を願う行事として定着しました。
また、重陽の節句の前夜に菊の花に綿をかぶせ、露に濡れて菊香の移った綿で9日の朝に顔をぬぐうと長寿を保つという風習「菊の被綿(きせわた)」も行われていました。『枕草子』や『紫式部日記』にも記されている、風流な習わしです。
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左から単衣(6・9月)、薄物(7・8月)、袷(秋・冬・春)、綿入(極寒期)
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歴史も古い、菊を愛でる風流な重陽の節句
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◎正月事始め(しょうがつことはじめ)/新暦・旧暦12月13日
正月の準備を始める日で、12月13日に天井や壁についた煤(すす)を払い掃除します。江戸城から庶民の暮らす長屋までこの日一斉に行いました。毎日の炊事に薪や炭を使い、屋内に囲炉裏やかまどがあった時代は必要な行為でしたが、それ以上に新年を迎える清めの儀式の意味合いもありました。また、江戸時代には煤払いの日に、なんと胴上げも行っていました!厄をはらう意味があったそうです。
一年でたまった穢(けが)れをはらう神事で、現在でも仏像などの煤払いを12月13日に行う寺社が多くあります。ニュースでその光景を目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。一般的には、お正月を迎えるための神事としての煤払いから、単なる大掃除になりました。
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◎正月料理
もともと季節の変わり目の節句に、神前に供えた「御節供(おせちく)」に由来し、最も重要な節目のお正月に年神様にお供えしたものを、「お節料理」と呼ぶようになりました。最近は核家族の影響か二段重や三段重が当たり前になっていますが、正式には五段(!)の重箱を使うそうです。
展示の中でも、注目は「代表的なお節料理とそのいわれ」「日本全国お雑煮マップ」です。重箱に詰められたお節料理の具材にはすべていわれがあります。子孫繁栄の願いが込められた数の子や長寿を願うエビなどは有名ですが、そのほかレンコンやゴボウのいわれはご存知ですか?写真付きでわかりやすい説明がついています。
白みそ、すまし汁などの違いのほか、お餅の形の違い、中には餡が入っているという所もあるほど、地域によってまるで異なるお雑煮を整理した「日本全国お雑煮マップ」はユニークです。
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江戸城の大奥の煤払いの様子が描かれています。奥には、厄払いで胴上げされている男性の姿も
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お節のいわれとお雑煮マップはユニーク
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核家族が当たり前になり、親が年中行事を知らずに行わないと、子どもは知らないまま育ってしまいます。自然のめぐみに感謝しながら生きる暮らし。意味のある年中行事が遠い昔のものになってしまわないように、6月19日までにぜひ東京家政大学博物館で、初午、節分、花見、土用丑、十五夜、酉の市などなど、ここでは紹介しきれなかった年中行事や行事食の楽しさに触れてきてくださいね。
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また、常設展も必見で、明治から昭和初期の教育課程の中で製作された「裁縫雛形」、衣服や生活用品などのミニチュア作品が展示されています。東京家政大学博物館では雛形を約4千点も所蔵していて、そのうち2290点が国の重要有形民俗文化財に指定されています。明治30年~昭和18年までの間に製作されたそれらの多くが、卒業生やそのご家族の方からの寄贈品です。
雛形は布地が節約できるうえ、短期間で多種多様(和装・洋装・有職類・生活用品)な縫い方を習得できました。家政大の創設者・渡邉辰五郎氏は、就学期間の短い女性が、限られた時間の中でできるだけ多くのことを身につけて卒業できるように、雛形をはじめ、様々な裁縫教授法を考案したのです。家政大の当時のカリキュラムによると、卒業までの3年間で、雛形、実物大のもの、部分縫いを合わせて一人が約200点も製作していたそうです。自立した人生を歩むために、集中して技術の習得に努めていた女性たちの他に類をみないコレクションもぜひご覧くださいね。
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常設展の「裁縫雛形コレクション」
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洋装・和装のほか、蚊帳や暖簾などの生活用品も製作されていました
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インフォメーション
東京家政大学博物館は、明治14(1881)年に創立された東京家政大学の百周年を記念して、昭和56(1981)年に建設された百周年記念館の4~5階に『東京家政大学生活資料館』として開館。卒業生や学園関係者などから寄贈された品々を収蔵・保管しています。平成5(1993)年に博物館相当施設の指定を受け、その4年後に『東京家政大学博物館』と改名しました。
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●アクセス
東京都板橋区加賀1-18-1
TEL 03-3961-2918
JR埼京線「十条駅」より徒歩5分
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.tokyo-kasei.ac.jp/hakubutu/
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