6月10日まで特別展『東北の工芸と棟方志功』を開催している、日本民藝館に行ってまいりました。
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日本民藝館の「民藝」とは、1925年につくられた言葉です。民衆が使用する日常品の美に着目した柳宗悦(やなぎむねよし)が、陶芸家の濱田庄司や河井寛次郎らとともに、無名の職人がつくった民衆的工芸品を「民藝」と名付けたのです。1936年開設の柳宗悦が初代館長を務めた日本民藝館には、彼の審美眼により選ばれた古今東西の民藝品が展示されています。
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日本民藝館のある周辺は閑静な住宅街で、立派な日本家屋、洋風住宅が並んでいます。その中でもひときわ重厚感のある外観のお屋敷が、日本民藝館です。
玄関扉を開けると、外の印象とは全く違う、吹き抜けの広々としたエントランスホールにまず驚きます。白の漆喰壁とのコントラストでより際立って見え、磨き上げられた木肌の色が艶やかな中央階段は、うっとりするほど美しい佇まい。扉を開けた瞬間に惹きつけられ、展示を見る前からワクワクします。
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全国から集められた、見応えのある新作工芸品を販売しているミュージアムショップ(推薦工芸品売店)も入っている本館
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日本民藝館では、知識で物を見るのではなく、直観で見ることが何よりも肝要であるという柳宗悦の見識から、物の美しさを十分に感受してもらうため、作品の説明書きを意識的に少なくしています。
言葉では明確な基準を表すことは到底できない、柳宗悦によって選び抜かれた物の「美」が、純粋に展示物だけを見ていくとぼんやりとですが理解できます。そして、日常品だからこそ使いやすさをより求めて向上させた機能美があり、生活の中にも「美」がたくさん潜んでいること、特別なものでなくても日常にこそ「美」が必要なことに気付きます。
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今回の特別展では、東北地方の堅実な暮らしの中から生まれた、民窯の陶器、蓑(みの)・背中当などの編組品、こぎん・被衣(かつぎ)などの染織品、樺細工や漆工品といった、丹念な手技による工芸品の数々を見ることができます。
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その中から、気になった展示品をひとつご紹介します。
「蓑(伊達げら)」です。蓑と言えば昔の雨具ですが、単なる雨具の蓑にしては、伊達げらは手が込みすぎています。祭りか何かの衣裳だったのかと思うようなオシャレなデザインです。それもそのはず。伊達げらには作り手の様々な想いが込められているのです。
東北地方の女性の手仕事として「こぎん刺し」はよく知られていますが、「蓑(伊達げら)」づくりは男性の手によるものでした。伊達げらは外套(コート)のようなもので、男性が結婚相手のためにつくり、贈るのが習わしだったそうです。細かな手仕事とデザインには、男性の女性への想いだけでなく、技量とセンスのアピールもきっと込められていたのかと思うと、納得の意匠性です。
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蓑(伊達げら)〔部分〕 青森県南津軽郡 昭和10年代
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東北経鬼門譜 真黒童子(3幅のうち) 棟方志功
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雨ニモ負ケズの柵(不来方板画柵) 棟方志功 1952年
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また、故郷・東北への祈りを込めて作られた棟方志功の板画作品のうち、「東北経鬼門譜(とうほくきょうきもんぷ)」は必見です。120枚もの板木を使った六曲一双の屏風は、広げると長さ10mにもなります。棟方志功は、日本の「鬼門」にあたる貧寒の故郷・東北を想い、仏の力を借りて、この地を幸あらしめたいと願って制作したそうです。
「雨ニモ負ケズの柵(不来方板画柵)」にも足を止める人が多く、彫られている宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩を、そっと声に出してよんでいる年配の女性の姿が印象的でした。
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西館(旧柳宗悦邸)
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日本民藝館には、本館と道路を隔てた向かいに西館もあります。栃木県から移築した長屋門と、本館と同様に柳宗悦の設計による母屋からなっています。1935年に完成し、72歳で亡くなるまで、柳宗悦が生活の拠点としていた建物です。
この貴重な建物も、展覧会開催中の第2・3水曜日、第2・3土曜日のみ一般公開されています。 日本民藝館に行くなら、ぜひ西館の公開日に行かれることをおすすめします。
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西館の中に入ると、本館では感じられなかった“匂い”がすることに気付きます。古くさい嫌な匂いではなく、扉を開けた瞬間、本館とは違う空間にタイムスリップしたように感じる懐かしい匂いです。
2階中央に、柳宗悦の書斎があります。天井にまで及ぶ書棚には蔵書がぎっしり。背表紙を眺めながら、この部屋で宗悦が何を読み、何を考え、民藝美論や仏教美学など数多くの著作を生み出していたことに思いを馳せるのは、贅沢なひとときです。
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「民藝」とはどういうものなのか、柳宗悦らが着目した日常品の中の「美」とは何なのかを知ると、自分の生活の中にある物を見る目が変わってきます。あたりまえの生活に気付きを与えてくれる、日本民藝館へ行ってみませんか。
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【写真協力】日本民藝館
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インフォメーション
日本民藝館は、思想家・柳宗悦(1889~1961年)らが企画した「民藝」という新しい美の概念の普及と、「美の生活化」を目指す民藝運動の拠点として、多くの賛同者の援助を得て1936年に開設された。柳氏の審美眼によって集められた、陶磁器・染織品・木漆工品・絵画・編組品など、日本をはじめ諸外国の新古工芸品約1万7千点が収蔵されている。
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●アクセス
東京都目黒区駒場4-3-33
京王井の頭線「駒場東大前駅」西口より徒歩7分
TEL 03-3467-4527
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.mingeikan.or.jp/
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