民俗学者の田中忠三郎氏がコレクションしてきた、青森の農村で実際に使われていた“ぼろ”と呼ばれる衣服や布類を多数展示しているのが、東京・浅草にある布文化と浮世絵の美術館「アミューズミュージアム」。
こちらで、新企画展『美しいぼろ布展~日本人は何を失い、何を守ってきたのか?~』がはじまりました。
第1から第4まである展示室を“起承転結”で見せている新企画展を、アミューズミュージアムの辰巳館長に案内していただきました。
nbsp;
かつて、青森の農村部ではとても希少だった布。麻しか育たない寒冷地で、人々は過酷な気候から身を守るために麻布を重ねあわせ、ほころびにはツギハギ、刺し子をして補強し、大事に布を使っていました。
nbsp;
“起”の第1展示室では、ぼろが一体どんなものかがわかる、インパクトのある展示をしています。都心部の娘さんたちが着ていた鮮やかな着物を再利用し、細く裂いて新たに織ってつくった大正時代のサキオリ(裂織)のこたつかけや、ツギハギだらけの衣類が吊るされ、マネキンに着せているものもあります。アミューズミュージアムは展示物に触れてもOK!なので、実際に手に取り、ツギハギの針目をまじまじと見たり、衣類としての温かさ具合を感じることができます。
nbsp;
遠くから見ると、ぼろを着てるとは思えないカップル
nbsp;
近くで見るとツギハギだらけ。でも、布の配置のバランスは絶妙です
nbsp;
館内にいる辰巳館長と運よく出くわせばラッキー!解説をしてもらえますよ
nbsp;
ひと目見ただけで、当時の過酷な生活環境を容易に想像できるぼろですが、不思議と汚らしくも悲しくも感じられません。それは、ぼろ布のツギハギのどれをとって見ても色柄や配置などが作為的にデザインされていて、完成度が高いからです。
「人間はどんなに貧しくても、少しでも自分をよく見せようとするファッションの原点が見てとれる。ファッションにうつつをぬかすとか言ってファッションを軽んじがちですが、生き物としての本能に根ざしているのです」と辰巳館長。当時の人々は物質的には貧しくても、その中で工夫して自分を飾り、遺伝子を遺していたのです。
nbsp;
“承”の第2展示室では、アミューズミュージアムの名誉館長でもあり、ぼろをコレクションしてきた民俗学者・田中忠三郎氏がどんな人なのかを、古民具とともに見せています。
“転”の第3展示室では、田中忠三郎氏が提供した、黒澤明監督映画「夢」の衣裳や古民具、撮影時の貴重な資料などを展示しています。
nbsp;
田中忠三郎氏がどんな人なのかがわかる第2展示室
nbsp;
黒澤明監督の映画「夢」の衣裳や古民具などを展示している第3展示室
nbsp;
敷物や布団を絵画のように見せている第4展示室
nbsp;
そして、再びぼろに戻る“結”の第4展示室。敷物や布団といった大物のぼろが、まるで絵画のように展示されています。
第4展示室に入ると、ある音に気が付きます。「リーン、リーン」と鈴虫が鳴いているのです。辰巳館長によると、鈴虫が鳴くことを「ぼど告げ」と青森の農村部では言うそうです。鈴虫が鳴くような季節になると、寒い冬に向けてぼろを繕うようにという意味が含まれています。
nbsp;
他の美術館では、鑑賞の妨げになるとして館内でBGMはかけていませんが、アミューズミュージアムは違います。BGMが流れているのは、鈴虫の鳴いている第4展示室だけではありません。
アミューズミュージアムは展示物をより知ってもらうために、説明書きが長いのが特徴です。来館者にそれを読んでもらうためには、空間が静かだと重荷になり居心地が悪くなってしまうので、必要な展示室には意図的にBGMを流しています。BGMが空間と展示物にあまりに馴染みすぎていて、音の存在すら気付かない展示室もあるくらい自然です。
また、BGMには他にも狙いもあります。ぼろを見たり触ったりした感想を、お客さん同士が気軽に喋られるように、自然に声を発しやすくするためにBGMを流しているのです。ヒソヒソ声で話すこともはばかられる、一般的な美術館とは随分違いますよね。
nbsp;
辰巳館長が教えてくれた、アミューズミュージアムならではの美術館構成。これを頭の片隅に置いて実際に足を運んでいただくと、よりいっそうアミューズミュージアムを楽しめ、展示物への理解も深まりますよ。
nbsp;
また、2階のギャラリースペースでは、4月22日まで『田中忠三郎・坪内シモナ“甦る古布の世界”』も開催しています。
坪内シモナさんは、ルーマニア出身のテキスタイル作家です。ルーマニアの服飾学校で学び、洋服づくりをしていたシモナさんは、結婚を機に来日。着物を知って、高価なものなのにしまったままで着ていない人が多いのを残念に思い、アイデアしだいで着られるようにできるのではと考え、着物や帯など古布をリメイクしてオリジナルの作品をつくるようになりました。最初は義母の着物からはじめたリメイクですが、地元・国分寺で着実にファンを増やし、現在は受注生産でつくっています。ほとんどのお客さんが自分の着物を持ち込んで、ジャケットやコートなどをオーダーしているそうです。
nbsp;
今回ギャラリーに展示している作品には、田中忠三郎氏の古布コレクションをシモナさんがリメイクしたものもあります。時を経て、海外の人の手によって新たな形に生まれ変わり、また誰かの身にまとわれ活躍する布。不思議な縁で生まれた作品を、ぜひこの機会にご覧ください。来日5年目なのに、流暢な日本語を話すシモナさんとのお喋りも楽しいですよ。
nbsp;
4月22日まで『田中忠三郎・坪内シモナ“甦る古布の世界”』を開催しているギャラリースペース
nbsp;
田中忠三郎氏の古布から制作したジャケットを持つ、坪内シモナさん
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
インフォメーション
日本の大衆文化を生み出した浅草にオープンしたアミューズミュージアムは、民俗学者・田中忠三郎氏のコレクション展示のほか、世界で最も美しい浮世絵と称される「スポルディング・コレクション」のデジタル映像上映、浮世絵の講演、伝統芸能などのライブイベントも開催する、新しい形のライブミュージアムです。
[/su_note]
[su_note note_color=”#f6f6f6″]
●アクセス
東京都台東区浅草2-34-3
東京メトロ銀座線、東武伊勢崎線・浅草駅より徒歩5分
TEL 03-5806-1181(月曜休館)
詳しくは下記オフィシャルサイトをご覧ください。
http://www.amusemuseum.com
[/su_note]